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日本企業の戦略が凡庸な理由と「中卒・高卒エリート」が静かに増加中のワケ

「変わりたくても変われない」企業組織の実態

ponsulak/istock
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 スタートアップは「ビジョナリー型」、クルージング期は「調整型」、ターンアラウンドは「独裁型」経営のように、企業の発展段階に応じて経営者の必要スキルが変わってくる。従来のような、「経営者(取締役)はサラリーマンの終着地点、頑張ったご褒美」というのは日本経済が右肩上がりで成長していたときの話。今は「経営」は「経営」で、きわめて難易度が高い専門職となっており、学生も「MBAをとれば、いずれ一生安泰な取締役になれる(に違いない)」と、本質的には自分のカラーと合ってないにもかかわらず、リスキリングが大はやりだそうだ。

  考えてみれば当たり前で、今は、競争環境の大変革期であり、昔のような「どんぶり勘定」で経営をして良いはずもない。しかし、現実はどうか。改革が進めば進むほど、「その話題に触れるのは御法度だからだまっておけ」という忖度が組織中に働く。そんな会社を何社も見てきた。

 私にはかねがね疑問があった。日本人は言語の問題はあれど、個人ベースで見れば極めて聡明で頭も良く切れ味も鋭い。しかし、なぜか集団になると「集団IQ」が大きく下がるのだ。そもそも戦略立案とは引き算ですべきなのに、喧嘩や対立を恐れて指摘さえしない。もともと、不完全競争市場(何らかの有利なアンフェアが働くこと、誰でもできる仕事) だったから、偶然業績をあげられただけなのに、そんな人の意見も足し算してしまう。また管理職や経営幹部の「鶴の一声」は絶対であり、それに背くことはクビになる覚悟で挑まなければならない。このようにして、戦略は足し算によって、凡庸なものになり下がる。

 さて、今日は「変わりたくても変われない」企業組織の実態について持論を展開したい

人間はやったこと以外は実行できない

 「学び」というものがある。これは、「実学」と「座学」の2つにわかれ、日本人は古く教育制度をイギリスから導入したようだが、これが極めて軍隊的である。私がイギリスで受けた教育とは全く違うので、おそらく先の大戦前に制度を導入しフリーズしているのだろう。同じ制服を着せられ、先生はつねに上から目線だ。これは、「四の五の言わずにさっさと覚えろ!」という意味があるし、従順な人間を量産する仕組みとしては機能する。だから、私たちが子供の頃は、「なぜ隣の太郎君ができて、お前ができないのだ」と怒られたものだ。最近では真逆で、「太郎君や花子さんのできない自分だけができることをしろ」と突然言い出し、言った方も言われた方も戸惑っている。

 今、リスキリング、日本語で言えば「学び直し」、が流行しているが、私は根本的に考え方が違うと思う。ほとんどの人が、結局は、テキストをベースにした「答えを知って暗記する」スタイルをとっている。それではイヤイヤ暗記させられた歴史の年号と何ら変わりはない。

 本来、人間がデジタルを使って活躍するためには、「考えること」「信念を持つこと」「リーダーシップをフィジカルに示すこと」などいくらでもある。こうしたことを、リスキリングとして、社会人に身につけさせるべきなのだ。

Yusuke Ide/istock

 テレビでは○○大王というクイズ番組が人気だが、本来は日本経済をどのように立て直すべきか、投票率をどのようにあげるか、あるいは、徴兵制は必要か否かというような意地悪な質問であっても必ず直面する問答を中学、高校でやってもよいと思う。つまり、問い自体は簡単でも、その根拠は極めて深い洞察と幅広い知識が必要になる能力、加えて、プレゼンテーションやディベートという日本人になじみのないスキルを徹底的に磨くべきで、金融の基礎知識を教える、などという本末転倒なことを義務教育でやることが間違っていると私は思う。本来、論理的に考えることができて、そして、他人と何時間もディスカッションができる討議にこそ時間を割くべきだと私は思う。

  私の周りにはいわゆる「中卒、高卒エリート」が増えてきた。彼らは大学を出ている人間以上によく学び、例えばデジタルマーケティングを鮮やかに決め、AIの会社を立ち上げIPOしたりなど、ひ弱くんには絶対にできない芸当だ。真のスーパーエリートは、アカデミック・キャリアトラックに一定のリスペクトを示すも、分け隔てなく政治や上下関係にこだわりをもたず、また、間違っていること、不快なことはストレートにフィードバックしてくれる。

プロセスの新しいフレームワーク「JKKP」とは

  究極的に経営学には特定の分野はないといわれる。それを、我々はマイケル・E・ポーターが定めたバリューチェーンなどを参考にして分け、機能を定義している。しかし、その正誤はポーターが言ったから、ではなく、一番しっくりくるからである。私は、これを「JKKP」 と読んでいる。

  Jとは事業、Kは企業、Kは機能であり、最後のPはプロセスだ。まず、このJKKPを空で覚え、自分の所属している産業界に当てはめて考えてみることが大事である。

 最初のJは、3つにわかれ、「企画」→「生産」→「販売」である。次に、この3つの括り方で企業がもつ産業における立ち位置が見えてくる。例えば、ユニクロは企画と販売で、生産は外注化している。その逆に、オンワード樫山は企画と生産をカバーして、販売は全国百貨店に外注化している。ZOZOは販売で、一部PBはあるものの大局的には企画と生産を外注化しているのだ。このように、ものごとを筋道たてて考えてゆければ、「知っている、知らない」というのは価値がどんどん下がってゆく

 次に、オンワード樫山が企画と生産という機能を有しているとするなら、その中の「生産」には、材料発注、付属発注、工場選定、検品などの「機能」にわかれ、この企画→生産→販売に繋がる一連の企業の役割がわかるのだ。しかし、その「企業」に勤めている人は、その世界が全てなので、こうしたものの見方ができない。本来、ものが見えないと気持ちが悪くなるのだが、前述のように「四の五の言わずに覚えろ!」と教育されていたので、疑問を呈したら「なんで太郎君は黙っているのに、お前は、、、」と上司から怒られる。

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 批判を承知で言わせて頂ければ、先日、韓国である講演会に参加したのだが、そのプレゼンテーションに対して、私は違和感だらけだった。理由は、なんの根拠もなく「これが流行っている」を繰り返していただけだったからだ。私たちは why が知りたいのに、その why は本人も分かっていないように見えたのだ。もちろん、言語の壁もあろう。

 しかし、もっと情けないのは、日本人リスナーだ。「常識」さえ疑わないか、「ふん、韓国か」とはなから相手にしない輩の2グループに分かれるのだ。私は、何年も前に韓国に常駐したことがある。彼らは自分たちが日本アパレルの「パクリ」を極めてうまくやっていることを認めながら、そこにオリジナリティがないことに何ら後ろめたい気持ちがなかった。現実に距離的な近さからか、表向きこれだけ相手を批判しあっているのに、文化面での日本の若者の韓国好き、韓国人の日本人好きは世界でも珍しいほどだ。韓国に観光旅行に行った人なら誰でも感じるだろう。私たちは、こういうところから知的武装をし、30年以上もフリーズしている既成概念を破り、よい意味でいろんな国の良いところをパクるべきなのである。

日本の上場アパレル専門店トップ10社ランキング

 こうした日本の特殊性を踏まえて下記のランキング表を見ていただきたい。これは日本の上場アパレル専門店の売上高トップ10社ランキングだ。

ダイヤモンド・チェーンストア23年7月1日号より一部抜粋(本誌のデータはトップ27社を掲載の上、ROAや時価総額などの各種指標も掲載する)

  本業でかせぐカネ、つまり営業利益についてみてほしい。これからは企業規模以上に付加価値が大事になるので、見るべきは営業利益率だ。このチャートは、「アパレル専門店」という括りのため、ワールドやワコールHD、オンワードHDは入っていない。また上場企業のデータなのでストライプインターナショナルやマッシュスタイルホールディングスなどは入っていない。さらに市場という意味でいえば、外資のZARAGapなども入っていない点を留意ほしい。これをみればワークマンとファーストリテイリングが圧倒的な存在であることがわかる。特にワークマンの高収益の理由は過去分析しているので、興味のあるかたは参照してほしい。

 また本チャートでは触れられていないが、注目したい指標がPBR(株価純資産倍率)だ。これは資産に対して株価がどの程度の価格をつけているのかを表す指標である。もっとストレートに言えば、1以下は「今すぐ営業をやめて、もっている資産をすべて換金すれば時価総額より高くなる」ということになる。PBR1倍割れは経営者の目的である株主価値を最大化できていない(それどころか毀損している)点で、経営者失格の烙印を押すものだ。ファーストリテイリングは6倍超、ワークマンは3.6倍ある一方で、ランクイン企業の多くは1倍未満に甘んじている。

 この超割安な株価をアパレル産業の負の実態とみるか、これからM&Aによる合従連衡、海外出店、二次流通事業などのビジネスモデル転換などReady for change (いつでも変わる準備ができている)の状態だとみるかは意見がわかれるところもあるだろう。

 いずれにせよ、相も変わらず「来年のトレンドは、、、」と、博打ビジネスから抜け出せていないのはなぜなのか、今日は思考のステップを書き綴り、自ら考えてもらいたいというメッセージを込めて本稿を書いた。

 

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は自費で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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