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「魔法の杖ではない」ChatGPTの最大の活用方法は「ディベート」にある理由

世の中は、対話型AIである生成AIの1つ「Chat GPT」一色といってよい。先進7か国(G7)が集まり、AIとの付き合い方や規制などの討議もはじまった。今回はこうした「ハイテクツール」との上手な付き合い方、また、自社への応用について私見を述べたい。昨今、アパレル産業では、リアル店舗の販売員の雇用の継続性にも疑問符がついて、現場は戦々恐々としている状況だという。アパレルを含む日本の小売業は、AI、とくにChatGPTによってどう変わるのか、どう活用すべきだろうか?

Robert Way/istock

「できのよい検索ツール」と化しているChat GPT

  私のチームにはAIの専門家がいる。三陽商会に複数社のAIが無目的に投下された時、疑問を持ちながらも開発をしていた中心人物だ。彼は「当時ほど、アパレル業務への無知を感じたことがない」ということ、そして拙著「知らなきゃいけないアパレルの話」(ダイヤモンド社)を読み、「適当なマーケティング本が溢れる中、自分の知らないことが山のように書かれていた」ということから、私が当時担当していたビジネススクールの門をたたいた人間だ。

 私は彼から世の中の動きや技術動向などの多くを学び、逆に、彼をはじめ多くの生徒にアパレル産業の正しい変化の見方を教えた。

 私自身、企業・事業の再生というキャリアを積み「デジタルなしに、企業戦略は語れない」という信念に到達し、日本IBMの門を叩いた話しはすでにした。RPA(ロボティックプロセスオートメーション)、人工知能(IBMWatson)、クラウドなどの本質を短期間でなんとか理解し、その実装を組みあわせた企業改革の絵面(えずら)の作り方を身につけていった。

 例えば、現場からはさまざな改善や自動化の依頼などが届いていることと思うが、そのリクエストの8割はRPAというロボティクス技術で事足りる。投資規模も、程度問題だが500万〜1000万円で済む。例えば悪名高き、PLM(製品ライフサイクル管理)プロジェクトを早々に辞め、RPAによるパソコンの自動化に変え、「生産部の生産性向上プロジェクト」などと、名実ともにはっきり範囲を定義すること少額投資でES (従業員の満足度)向上に成功した企業もある

 そもそも、PLMは小惑星(エコシステム国家)をつくるためのツールであり、生産部の一担当者の業務を楽にするためのものには“値段が高すぎる”、というそもそもの発想を忘れていることが多い。

デジタルSPAが進まなかった最大の障壁

 こうした投資の全体最適を含め、細分化、分業化された非効率なアパレル業界の抱える諸問題を一気に解決するソリューションが「デジタルSPA」である。経済産業省とも協議を進め、少しずつ導入に向け前に進んでいた、はずだった。

ビジネスモデル・エコシステム
初期的計画 (概念検証フェーズ)

 しかし、なかなかプロジェクトは前に進まない。原因の一つは、国の縦割り組織にある。例えば、「経産省は国のGDPを上げるのがミッション」「環境省は日本のSDGsを遵守すること」、そして、「財務省は税金関係を扱う」という風に分かれている。それゆえ、私が作り上げた「デジタルSPA」のように、日本国(この場合は政府ということになるだろう)をリーダーシップとして、「オフショア率99%の海外生産」「アパレル産業の環境負荷低減の全体最適」をそれぞれ不可分の関係として組み込んでいく全体像は構造上描くことができない。残念ながら、国策として「親方日の丸」で自動車産業が成し遂げたようなことはできないのだ。だから自動車産業には当然のようにはいっているPLMも、アパレル産業全体への導入はできなく、その実現ができるころにはバリューチェーンが消滅し、主戦場はD2Cに移っているかもしれない。

 ChatGPTとの向き合い方

 さて、私はこのように失敗も成功もしてきたのでAIに対してそれほど恐怖心や課題な希望を抱かなくなったが、一般の人はメディアの煽り報道も含めAIに対して過剰評価をしているように思う。もし、あなたが、ロジカルシンキングが得意であれば、ぜひやっていただきたのが「Chat GPTとのディベート」だ。

 私は昔からディベートが好きで、特に経営学については大学の教授にもかみついてゆく。外資コンサルのパートナーを何社も歴任して私が身につけたのは、プレゼンテーション力と、その力を下支えする論理力だ。悪く言えば口八丁、手八丁。よく言えば、分かりやすく伝える力が論理力であり、世界共通語である。私は各国にディベート仲間がおり、毎週交代でインド人、フィリピン人、イギリス人、アメリカ人と経済や経営についてディベートをしている。この“知的格闘”で最後に勝つのは論理力と一定のテクニカルタームだ。スピードも重要だが、「そんな話は今していない」「話をそらすな」、「Yes / No で答えろ」「その課題設定はMECEじゃない」「なぜDepends(~次第)がないのか説明しろ」など、使う言葉が決まってくる。

 これをChat GPTにしかけるわけだ。これは何も難しいことではない。Chat GPTと議論してみようということだ。

 結論から言えば、この数ヶ月でChat GPTの回答に大きな変化がでてきたということである。今年の初めごろ、私は同じようにChat GPTとディベートし、「ここが間違っている」とダメ出しをしたが、その時ChatGPTは私を説き伏せようと、恐らく言ってはならない言葉や情報をバンバンだしてきた。

 それが、次のフェーズになると、「それは私の対応範囲を超えています」という回答をするようになった。そこで、「お前の対応範囲はなにか定義してもらいたい」と言い返す、というようなやりとりをしてきた。そこで、私が見つけたのは、人間には、前提条件として変わることのない「信念」や「好き嫌い」という感情があるが、コンピュータにはないということだ。

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ChatGPTの回答は、あくまでも「複数の選択肢」

ChatGPT

 最近のマニュアル化された若手と同様なのが悲しいところだが、結論を言えばChat GPTは「いわゆる提案業務」ができないのだ。逆に言えばChatGPTの回答には「一定のパターン」がある。だから、これを自分のものにできれば、論理力を鍛えることはできるのだ。

 私が分析した結果、ChatGPT

  1. 解の可能性は、この複数が社会科学のケースの場合は特に必ずでてくる
  2. それぞれのPros/Consは(長所と短所)このようになって、均衡状態で何が正しいかということはない
  3. 最後に決めるのはあなたで私に責任はない

 というパターンを繰り返す。

 つまり、一つの話題を語っているのに、このように議論を展開して論点をずらすわけだ。ここで、論理力の弱い方は(失礼)、Chat GPTに流されて、なんの議論をしているのかわからないような些末なところに連れ去られる。

 この分岐がポイントなのだ。私は、「今は一つのテーマで話をしているので①の議論に絞りなさい」と相手を逃がさない。そうすると、彼らは「議論はここまでで終了します」と突然打ち切るのだ。次に、また、新しいChat GPTが「生成」されるが私はひるまない。先ほど議論をしたテーマの、続きをやろう、と切り帰すとあれこれ言い訳をしてくる。そこで、「履歴がのこっているだろう。君がさっき話したあの内容だ」と逃がさない。

  おもしろいのは、そこで「議論はここまでです」と、まだ三行しか打っていないのにセコンドからタオルが投げられディベートが終了する点だ。

 ChatGPTは自分の意見を持っていないし、「では、どれがよいのか」「どうすべきと思うか」という質問には明確な回答を避ける、論点を複雑にするなどして逃げる。

 ここには重要な理由が隠れているのだが、さてわかるだろうか?

  おそらく「責任が伴う発言」や「犯罪を誘発する可能性のある発言」を避けるため、チューニングされているのであろう。このチューニングはおそらく今後、より加速すると思われる。

 そうなると、ChatGPTの回答は広大なネットの情報から集めた複数オプション以上でも以下でもないということだ。したがって、これから自らの進むべき道を探してゆく若手にとっては、参考にはなっても答えは出してくれない。あくまでもその答えの出し方を教える社会人教育の重要性は、ChatGPT時代も変わらないということだろう。

ビジネスや教育の現場で
ChatGPTを使わせるべき理由と活用方法

Supatman/istock

 このように考察をすすめてゆくと大きな課題に直面する。大学など、レポートでChat GPTをどう認めるか悩んでいる教育機関があるようだがここが分からないのだ。情報など、今後はスマホから自在に入手できる時代が来るとみるべきで、高等教育はこうしたツールを身につけている前提で、生徒自身の考えや主張を評価すべきだと思わないだろうか?

  古ぼけた知識を問うような教育を行っても全く価値はないとは言い切れないと私は思うが、例えば、Chat GPTを思う存分使わせ、「MMT(現代貨幣理論)の有効性を論じろ」という問いを出せば良い。ChatGPTからはどうせ複数の意見がでるだけだから、結論か否かを冒頭に書き、その根拠と有効な条件、そうでない条件、そして、それらを統合して今日本は緩和か緊縮かというテーマに自身の意見をディベートしてみればよい。米国のように学生と組んで一大プロジェクト化し、アベノミクスは緩和政策として十分だったのか、という議論をしてもおもしろいし、ビッグマックインデックスはもう古いので、ユニクロの「ヒートテックインデックス」 というのをつくり世界のヒートテックの価格をビッグマックの代わりに物価指数としてデフォルト化してしまうという提案も面白い。

  さらに、アイデアはどんどん広がる。例えば、少子化対策や国力の政策論として、大学無償化を叫んでいる方もいらっしゃるが、例えば発想をがらりと変えるとおもしろいことが見えてくる。つまり、Chat GPTに個社固有の解を出す力がないわけだから、私が提案したような学びの場としてのUIを被せれば、一夜にしてすばらしい大学 (教育)ができあがる。私が不安があるのは、日本の場合「規制が先」に行われがちな点である。少なくとも、知識丸暗記型の講義を続けている教授の替わりは十分務まるし、時に感情がない分、教授以上に冷静なガイドをしてくれる可能性も高い。

 まとめよう。AIとの付き合い方は、恐れるのではなく、どのような使い方が企業にとって、そして、国に取って、そして、人類にとってよいのかという基礎技術の応用にこそ着目すべきだ。

 ある大学では内密にChat GPTを使っている生徒がいて、大学側はそれを検出するソフト開発に躍起になり、そのいたちごっこが行われるという、相変わらずどうしようもないところに時間も労力も浪費している。

 これは、アパレル業界を例にすると、複雑怪奇になったバリューチェーンをシンプルにしようとPLMをいれたものの、流通各段階で個社個社が導入したために、データとしては整理整頓されたものの、ますます複雑で無駄の多い無価値連鎖となり、なんら本質的な解決にはなっていない状態にあるのと同じことだ。

 デジタルネイティブの若手が大量にアパレル産業から離脱していったことと同じことを、教育でもやろうとしているようなものである。

 私は、Chat GPTについては、文科省認定の称号は不要だがリスキリングしたい社会人(例えば、私がネットで経営の実務の講座を半年間やると山のように人材が集まってくる)のような、「使える人材のため」に無償化し、さらに、評価もChat GPTにやらせて特定の科目ごとに単位が集約できるようなインターフェースをつくるのがもっともよいと思う。つまり、Chat GPTなどのようなハイテクツールは、人に考え、そして、自分なりの答えを生み出させる力を誘発させる田中角栄の日本列島改造論ならぬ、日本列島総知識武装化計画をこの10年でやればよい。パイロットして、まずはアパレルからスタートするのはどうだろうか。私と、私の中までプロジェクトチームをつくりPOC(概念実証)設計からやらせていただければ、確実に成功させる自信がある。

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プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

株式会社FRI & Company ltd..代表(2023年8月1日に社名を河合拓コンサルティング株式会社より変更)Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)。最近ではAI企業、金管楽器メーカー、中国企業などのスタートアップ企業のIPO支援などアパレル産業以外にクライアントは広がっている。座右の銘は生涯現役。現在は慈悲で大学院で経営学の、独学で英語の学び直しを行っている。
著作「ブランドで競争する技術」「生き残るアパレル死ぬアパレル」「知らなきゃいけないアパレルの話」。メディア出演:「クローズアップ現代」「ABEMA TV」「海外向け衛星放送サテライトTV」「テレビ広島」「NHKニュース」。経済産業省有識者会議にたびたび出席し産業政策を提出。デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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