大阪府を拠点に関西、関東、中部、九州で事業展開するビジョンメガネ(安東晃一社長)。かつて低価格メガネチェーンに押されて業績が悪化、経営破綻の憂き目も経験している。現在は価値訴求型のビジネスで着実に業績を回復。今後、さらに独自商品やサービスに磨きをかけ、新たな顧客の獲得にもつなげる方針だ。
8期ぶりに黒字転換に成功
ビジョンメガネの創業は1976年10月、大阪市内で小さなメガネ店を開業したのが起こりだ。やがてチェーン化にも力を入れるようになり、地元で店数を増やす一方、84年には東京都へ進出するなど出店エリアを拡大していく。
品質のよい商品を求めやすい価格で販売する方針が評判を呼び、徐々に消費者の支持を獲得する。さらに86年からはテレビCMも流したことにより、急速に知名度を上げていく。これらを追い風に店舗網を積極的に広げ、業績は順調に伸長していった。
「就職活動の時、知名度の高い会社なので将来有望だろうと考えこの会社に決めた」。こう話すのは、現在、経営トップとして采配を振る安東社長である。96年に入社してからわずか半年で店長に抜擢、集客で成果を出すなど着実にキャリアを重ねていった。
ビジョンメガネは2000年4月に上場を果たす。資金調達の道が開かれ、次なるステージをめざして出店を加速するなど拡大路線へと一気にアクセルを踏み込んだ。
すべてが順調に見えたが、実は危機が近づいていた。
その頃、これまでなかったスタイルの店が産声を上げていたのだ。製造小売体制を持つ、今では一般的になっている低価格のメガネチェーンである。おしゃれな商品、さらに買いやすい値段設定が人気を博し、存在感を増していった。これに伴い、ビジョンメガネの商品販売価格は下落、00年代後半には経営状態が悪化していく。08年秋の「リーマンショック」も追い討ちとなり、翌09年には上場を廃止。その後も低迷から脱することができずに13年11月、民事再生法適用を申請、経営破綻にいたった。
厳しい状態の中、スポンサー企業のもとで再建に向け陣頭指揮を執ったのが同社生え抜きの安東社長である。お客、従業員とその家族の顔を思い浮かべながら「自分がやるしかない」と奮起した。辛い思いに苛まれながらも不採算店の大幅な整理のほか、約100人にものぼる大規模なリストラなど大ナタを振るう。
その他にもさまざまな分野で合理化を進めたことで、徐々に業績は回復に向かった。15年12月期には8期振りに黒字転換することに成功。営業利益も3億4223万円を確保して以降、これまで黒字経営を続けている。公表している最新の売上高は約48億円(20年6月期)。
オリジナルブランドの構成比は約5割
23年3月現在、ビジョンメガネは、関西、関東、中部、九州において104店( 直営100店、FC4店)を展開している。この数は業界で上位12~3位。さらに、同社の親会社で安東社長が社長兼CEOを兼任するE2ケアホールディングス(大阪府)としてみると、店数は200店強となり同6~7位となる。なお、ホールディングス傘下にはビジョンメガネのほか、弐萬圓堂を展開するアコール(宮城県/佐藤眞佐徳社長)、都心部でアイウェアのセレクトショップを手掛けるPOKER FACE(東京都/清水崇生社長、店名も同名)が名を連ねる。
さてビジョンメガネは、経営破綻から再建するにあたり、一時は価格訴求型のビジネスを志向したこともある。しかし独自商品が充実する品揃え、接客、またアフターフォローなどを以前から得意としてきた経緯を踏まえ、現在は高付加価値型ビジネスに注力している。
あらためて同社の店舗政策について紹介すると、標準フォーマットは売場面積30~50坪。立地は郊外が中心で、地域密着型の店舗運営を特徴とする。関西や関東の都心部では商業施設のテナントに入っているケースも少なくない。
1店あたりの取扱商品数は800~1200本。このうちオリジナルブランドの商品構成比率と売上高構成比(フレーム)はともに約5割にも上り、競合店との差別化に威力を発揮している。
価値を訴求する売場づくり
同社が展開する店舗とはどのようなものだろうか。品揃え、売場づくりを確認するため京都市内にある京都堀川本店に足を運んだ。
同店を訪れたのは営業を開始した直後の午前10時過ぎ。すぐに年配のお客が相次いで来店、女性スタッフと会話する姿が見られた。固定ファンを多くつかんでいるようだ。また大学が多い京都の土地柄、学生の利用者も多いという。
入口すぐの場所に立って感じるのは、明るく、視認性の高い店内の雰囲気である。どこにどのような商品が並んでいるかをすぐに把握できる。売場づくりに目を向けると、通路沿いや壁面の目立つ場所にはオリジナル商品を陳列しており、品揃えの独自性を来店客に強く訴求していることがわかる。
おもな商品について触れると、独自ブランドの一例は「ケータイフレックス」。フレームに、ビジョンメガネが開発した柔軟性の高い合金素材を採用することで、強く曲げても壊れにくい特性を実現した。
創業者が発案した歴史ある商品で、販売数は累計66万本を突破したロングセラーである。陳列台にはメガネをぐにゃりと曲げて入れた透明のグラスも配置しており、価値を視覚に訴求する売場づくりを行う。
「MYDO(マイドゥ)」も、累計販売本数13万本を突破したベストセラー商品のひとつだ。メガネフレームの“つる”の部分を工夫、耳を包むように巻き付けてホールドする機構を採用、激しい動きをしてもずれないのが大きな特徴だ。“つる”の先端部分は長さが調整可能でぴったりと装着できる。商品の特徴を説明するPOPを配置するなど、来店客に強くアピールする。
「くすみのない目元へ導くメガネ」がキャッチフレーズの「華色(HANAIRO)」もユニークだ。髪の毛や肌、瞳の色などをもとに、4タイプの中からお客の「パーソナルカラー」に合ったメガネを揃える女性をターゲットにした提案型の商品だ。
このようにビジョンメガネは、競合店には並ばない商品を多く扱っていることがわかる。
「マエストロ」制度を導入
商品のほか、ビジョンメガネでは高付加価値型ビジネスを展開する方針のもと、サービスにも力を入れる。
充実した保証制度はそのひとつだ。19年1月からは新たに有料の「ビジョンパーフェクト保証」を導入した。国内大手損害保険会社と連携した、メガネ業界では初となる取り組み。3年間、見え方が変わった時に何度でもレンズを交換できるほか、レンズのキズやフレームの破損も修理、または代替品と交換できるなど、手厚いサポートを行う。
保証上限金額により、料金が異なる4つのプラン(税込み1万800円~4万6800円)を用意。視力が変化しやすい育ちざかりの子供はじめ、「安心してメガネを使える」と幅広い利用者から好評を得ている。
一方、古くから強みとする技術力の「可視化」にも取り組み、19年2月からは独自の資格制度「メガネのマエストロ」制度を導入。マエストロは4段階(S級・SS級ブロンズ・SS級シルバー・SS級ゴールド)あり、同社では学科試験と実技試験を通じて合格者を認定している。
SS級ブロンズ以上の等級はネームプレートに示し、接客時、利用客への安心感提供にも役立てている。めざす目標が明確であるため、従業員にとってはモチベーションの喚起にもつながっている。
今回、紹介したような高付加価値型ビジネスにより、事業拡大をめざすビジョンメガネ。安東社長は、「かつて店舗数は最大で300近くあったが、リストラにより大きく減っている。長期的には、以前の状態の水準にまで戻すことができれば」と意気込みを見せる。