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4月上場のトライアルホールディングス、投資家が注目する3つのポイントと上場後の課題とは

トライアルホールディングスの株式がいよいよ上場します。2023年4月12日、東京証券取引所グロース市場で株式の取引が開始されます。本稿執筆時点で判明している情報によれば、公募により募集株式発行および株式売出しの仮条件は一株1800-2000円です。需要申告期限は3月31日、価格決定は4月3日となり、その後4月12日から東証での株式の取引が行われるという流れです。今回はそのトライアルホールディングスが株式上場により注目を集めるポイントと、上場後に投資家が注視していく「課題」について解説したいと思います。

トライアル宮田店
トライアル宮田店

トライアルが注目を集める3つのポイント

  トライアルホールディングスの株式上場は注目を集めると思います。その理由として3つのポイントをあげてみます。

 ポイント1 IT活用に積極的な小売企業の上場

第一は、IT活用に積極的な小売事業者の上場であること。

  トライアルホールディングスは、ローコストオペレーションの徹底、エブリデー・ロープライス(EDLP)の実現、食品強化、ドミナント出店という小売企業の勝ち筋を、積極的なIT技術の活用と関連させて推進している点に特色があると思います。

 各種POSデータの有効活用はもちろんのこと、同社は自社開発のスマートショッピングカートを導入し、顧客のレジ待ち時間の軽減、店舗における省人化、そして顧客に沿った提案ができるオペレーションを実現しています。さらに顧客導線の管理と在庫管理のための画像データの活用も進めている模様です。

 大局的に見れば小売業のデジタル・トランスフォーメーション(DX)はオペレーションの省人化と顧客体験の改善の両立のために加速していくはずです。同社はその潮流を担う可能性が高く、株式上場には意義があると思います。

 ポイント3 企業規模が大きい

 第2は、企業規模が大きいこと。トライアルホールディングスの売上高は20226月期実績が5976億円、2023年6月期会社予想が6658億円であり、上場小売企業の中でも大きな金額です。コスモス薬品、バローホールディングス、マツキヨココカラ&カンパニー、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス、イズミ、サンドッグ、スギホールディングス、アークス、ヤオコークラスの規模に相当します。

 想定される時価総額も、仮条件を踏まえると2200億円から2500億円程度とみられます。同クラスには、ヤオコー、イズミ、クスリのアオキホールディングスなど実績のある企業が並びます。同社が上場する東証グロース市場では即座に時価総額トップ3に入る可能性があります。

ポイント3 資金調達額が大きい 

 第3は資金調達額が大きいこと。トライアルホールディングスは今回の上場に伴う新株発行により、500億円程度の資金調達を行う予定です。

 同社の2022年12月末の株主資本は620億円程度ですので、これがおおよそ1.8倍に増強されることになります。ちなみに有利子負債残高は保有現金を下回るため、負債依存度が実質ありません。ここに新たに株式での資本増強を行うわけですので、負債調達の余地も含めた財務余力は相当額にのぼります。ちなみに今回の調達額のほとんどは新店、既存店改装、スマートショッピングカートなど成長投資に充当されるとのことです。

 

上場後、投資家が注視するポイントは?

  トライアルホールディングスの上場が大変楽しみであり、資本市場の注目度も大きいはずだと述べましたが、「資本市場的視点」で課題がないわけではありません。

 ロードショー(IPO時の機関投資家向けプレゼンテーション)資料は上場時に開示されるまで待つ必要があるので、目論見書を眺めた結果を端的に述べると、最大の課題は売上高営業利益率、売上高経常利益率が2%にとどまっていることです。

 ちなみに2022年6月期は連結売上高5976億円、粗利益率19%、営業利益率2.0%でした。

 この売上高の規模はコスモス薬品では2018年5月期、2019年5月期の時期に相当します(トライアルとコスモス薬品では、販売構成と標準店舗売場面積は一致しませんが、九州発・ドミナント戦略・EDLPなどの類似点を踏まえ比較対象にしてみましょう)。この時のコスモス薬品の売上高経常利益率は4.5%でした。コスモス薬品は2004年11月に上場していますが、売上高経常利益率が3%を下回ったのは2008年5月期のみだったと記憶しています。

 トライアルホールディングスの財務情報を見て感じることは、まず、一定のコスト競争力と好財務によって低価格を実現し、これが売上高や出店に好循環を産んでいること、顧客の厚い支持が窺えることです。

 一方、オペレーション全体のコスト最適化がどの程度実現できているのか、ドミナント戦略の成果が十分に出ているのかという点については、もう一歩強いインパクトのある数値が欲しいというのが資本市場の率直な感想だと考えます。

 今回の大規模な資金調達を契機に規模拡大と収益率の向上が両立すれば、資本市場の注目度は現状よりも大いに高まります。近い将来に売上高経常利益率が4%を超えることを期待したいと思います。

 

プロフィール
椎名則夫(しいな・のりお)
都市銀行で証券運用・融資に従事したのち、米系資産運用会社の調査部で日本企業の投資調査を行う(担当業界は中小型株全般、ヘルスケア、保険、通信、インターネットなど)。
米系証券会社のリスク管理部門(株式・クレジット等)を経て、独立系投資調査会社に所属し小売セクターを中心にアナリスト業務に携わっていた。シカゴ大学MBA、CFA日本証券アナリスト協会検定会員。マサチューセッツ州立大学MBA講師