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サステナファッションは非現実的 アパレル産業がすべき本当のSDGsについて考える

今、TVや雑誌を見ればSDGsだらけで、アパレル業界でもSDGsの対応が無視できなくなってきたようだ。そこで、今日は、そもそもSDGsとは何か、私たちは経済活動とSDGSを両立できるのかという点について考えてみたい。

26人の富裕層と38億人の総資産が同額という超格差

 SDGSとは、持続可能な開発目標(SDGsSustainable Development Goals)の略。20159月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された、2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である。具体的には17のゴールと169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓う。

 SDGSは気候変動や格差拡大などを解決するために制定された。気候変動の加速と深刻化から、産業革命前に比べて世界の気温はすでに1度上昇、海面は上昇し、国土の一部が水没し、強制移住を余儀なくされている国もある。格差については、世界でもっとも裕福な26人の総資産と、世界人口の下半分の38億人の総資産は同額で、格差拡大が不平等感を生み、社会を不安定にする要因になっているという。

 気候変動と貧困化の速度は相関関係にあり、貧しい地域が気候変動の影響でさらに貧しくなり負のスパイラルに陥る。このままではもう地球はもたないという危機感から生まれたのが「SDGs」のようだ。日本でも、コンビニエンスストアやスーパーマーケットでは無料のレジ袋が廃止され、「エコバッグ」を持つことが当たり前になってきたし、私が2年前に予言したとおり、世界では衣料品のリサイクルが当たり前となり、学校では「無駄な買い物はやめよ」と教えるようになっているようだ。

 

経済活動とSDGsは両立しうるか

 しかし、考えてみれば、格差社会は何百年も前からあり、格差社会は資本主義の功罪とも言えるものだ。さらに、私たち消費者の「小さな努力」は、ほとんどSDGsの気候変動に寄与しないようだ(気候変動の影響は、二酸化炭素ではないという議論もある)。経済産業研究所のレポートによれば、二酸化炭素排出量のトップは20年で中国が一位で30.7%、米国13.8%EU7.9%で、日本はわずか3.2%だ。

 つまり、私たちが資本主義下で経済活動を行えば、競争は益々苛烈になり、また競争は富の奪い合いを生み出し戦争を起こす。結果、地球環境はますます破壊されてゆくということになる。

 特に、「環境破壊第2位の産業」と言われるアパレル産業では、こうした問題を真正面から正しく受け入れるべきだ。先々週私は、H&Mがラナプラザ倒壊事件という悲惨な貧困問題を経験したにもかかわらず、限界を超えたコストプレッシャーで、バングラデッシュの工場を赤字操業させていたという報道に関する論考を書いた。同社は、SDGsの最先端を走っていると思われ、あのファーストリテイリングも参加しているHigg indexに真正面から取り組んでいるように振る舞っていただけなのだ。そして残念ながら、これに関する記事は、日本ではほとんど話題にならなかった。

 ここからも、私たちの経済活動とSDGsは、両立しないということがおわかりだろう。

気候変動で絶滅した恐竜と同様
人類は行き過ぎた経済活動で絶滅する

  Sustainable (サステナブル)とは、持続可能という意味だ。だが、これは、私たち人類の経済活動と環境との共生が持続的に可能になることを意味するわけだが、本当だろうか。

 すでに、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)は、これまでの予測よりも10年早い2021-2040年に世界の平均気温上昇が産業革命以前から1.5度以上に達するとの新たな予測を発表した。今後も全世界で熱波の増加や温暖な季節の長期化が進行し、豪雨や干ばつなどの災害、海面上昇などの地形の変化が深刻化するという。報告書は、温暖化の要因が人類の活動にあることは明白だと断言した。

 つまり、私たちの活動は人類死滅へのスピードを下げているに過ぎず(といったら、不快に思う方がいるのかもしれないが)、「これまでの予想」という言葉からも、私たちは気候変動を止めることができずにいる。それは、巨大隕石が地球に激突し恐竜が死滅した(と推定されている)ように、私たち人類も、私たち自身の経済活動によって死滅すると考えるのが自然ではないだろうか。

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サステナファッションが非現実的である理由

Firn/istock

 さらに、2017年、トランプ大統領は地球温暖化について、各国が約束をした「パリ協定」を、「中国に有利な協定で不公平だ」と言って離脱した。つまり、トランプ下の米国では、SDGsを守ることは、自由な資本主義活動をすることを阻害すると理解しているわけだ。

 というより、私たちは、そもそもSDGsに準拠し人権を守り気候変動に具体的な対策を行うことについて、中国も米国も(もしくは我々も)「不公平だ」と考えていることに驚いていて欲しい

 いつしか「サステナ・ファッション」などといい、価格が数倍もするオーガニックコットン使用を企業に義務づけ、「消費者は変わってきており、環境コストを払ってでもサステナ・ファッションを好む」と、ルイ・ヴィトンやエルメスなど我々のビジネスとは関係ないスーパーブランドの事例があるから取り組むようにプレッシャーをかけられるようになった。

 スーパーブランドは、先進的な取り組みをすることがブランドの増強につながり、サステナブルにかかるコストを富裕層に転嫁できるから可能なのだ。OECD諸国で最も貧しく、百貨店で衣料品さえまともに買えなくなった日本人の購買力を無視したレトリックを疑うことさえしていない。

 世界に占める排出割合が3.2%に過ぎない日本において、消費財は80%が内需であるわけだからたかだか2.5%の影響力しか地球環境に与えていないの努力を毎日続けているわけだ。私は、アパレル産業の人達に、そして、アパレル産業を語る人達にこうしたマクロの視点をもっていただきたいと思う。

 役人は当然分かっているのだろうが、組織縦割りや自分の仕事の領域だけを守る「組織の壁」によって、結果的にこの事実は無視されている。これらの情報は、ウェブブラウジングすれば直ぐに分かることばかりだ。環境産業第2位と呼ばれているアパレル産業が、SDGsに本当に役立つために、私たちはなにをすべきか。次週は、私の産業戦略を述べたい。

 

プロフィール

河合 拓(経営コンサルタント)

ビジネスモデル改革、ブランド再生、DXなどから企業買収、政府への産業政策提言などアジアと日本で幅広く活躍。Arthur D Little, Kurt Salmon US inc, Accenture stratgy, 日本IBMのパートナーなど、世界企業のマネジメントを歴任。2020年に独立。大手通販 (株)スクロール(東証一部上場)の社外取締役 (2016年5月まで)
デジタルSPA、Tokyo city showroom 戦略など斬新な戦略コンセプトを産業界へ提言
筆者へのコンタクト
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