新型コロナウイルスの影響で大きな打撃を受けた業界の一つが百貨店だ。老舗の大丸松坂屋百貨店(東京都/澤田太郎社長)は、「各事業への影響は当面継続する」と想定し、2023年までにコロナ禍からの完全復活を果たすべく中期経営計画を発表。「リアル×デジタル戦略」を打ち出した。百貨店の強みは対面での細やかな接客だ。創業から400年の歴史で培った接客ノウハウを、デジタルにどう生かしていくのか。
ギフト需要に応えるECへ刷新中
2020年4月、緊急事態宣言の対象地域にあたる店舗が臨時休業に追い込まれる中、大丸松坂屋百貨店は、「店舗に足を運んでいただかないと、商品をお届けできないのか」と頭を抱えていた。コロナ以前から、将来を見据えてデジタル化を進めてはきたものの、百貨店の強みは対面による細やかな接客だ。そのため、より接客技術を磨き上げるべく努力を重ねてきた。
ところが、コロナ禍で生活者が自宅に籠るようになると、ECサイトの売上が予想をはるかに上回る勢いで増加した。
「改めて『生活者が百貨店に求めるものは何なのか』という原点に立ち返ることとなりました」と話すのはデジタル事業推進部長の金井庸一氏。
自社ECサイト「大丸松坂屋オンラインショッピング」は、大丸と松坂屋が合併した2010年に開設された。百貨店とは、“百貨=なんでも売っている”という意味だ。ECにおいても、ファッションからコスメ、グルメまで、なんでも取り扱う総合サイトを目指してきた。
しかし、同社のECの売上構成比を年間で見てみると、ギフト(中元・歳暮・慶弔)で約6割、その他フード・コスメ・リビングなどで約4割。
「目指すべきは、総合サイトではなくお持たせやお取り寄せを含めた新しいギフト需要にお応えする特化型サイトではないかとの結論に至りました。今後は、単に商品スペックをおさえるだけでなく、商品の背景やストーリー、生産者の思いに焦点を当て、コンテンツの質と量を上げていきたいと考えています」(金井氏)
現在、社内スタッフ約30名でチームを組んで、生活者のニーズに応える特化型サイトに路線変更するべく、ECサイトを刷新中だ。
デジタルに遷移しやすい店舗とは
アクセンチュアは小売業界の調査(2013年)において、「49%の消費者がリアル店舗、オンライン、モバイルといった複数のショッピングチャネルを統合した店での購入を求めている」と発表している。
販売促進部長の永井滋氏もまた、「お店にいながらスマホで商品情報を検索し、購入するかどうかは自宅でも考えられる時代になりました。お客さまが自由にショッピングを楽しめるよう、リアル(店舗)とオンラインをシームレスに考えていく必要があります」と話す。
同社は業界の中でいち早くメールマーケティングやポイントカードを導入するなど、デジタルマーケティングに注力することで成果を上げてきた。
すでに会員数100万人を突破したのが、自社アプリの「大丸・松坂屋アプリ」。2019年5月に全国14店舗でスタートさせて以来、順調に会員数を増やしてきた。
アプリに登録するメリットは、来店や買物に応じてサービスが変化する「ランクアップ機能」や大丸松坂屋カードと同様にポイントを貯めたり使ったりできる「電子会員証機能」、お得な情報などをタイムリーに届ける「お知らせ機能」、贔屓にしている店舗のイベントやトピックスなどの情報がスムーズに拾えること。
また、大丸松坂屋カードに限定されるが、事前にアプリ上でクレジットカードを登録しておけば、アプリ上で決済が可能。例えばアプリ上でほしい商品をクリックすれば、自動的にECサイトに飛び、シームレスで決済まで完了することができる。
また、同社の特徴として、北は北海道から南は九州まで、店舗によって顧客属性が大きく異なることが挙げられる。大丸と松坂屋が合併した2010年以来、同社はそれぞれの立地特性を重視し、地域とともに魅力的な街づくりをする「地域社会との共生」を目指してきたためだ。
お店で会えずとも、全国の店舗販売員は地域性を意識したブログを執筆し、新作情報や商品の裏側を自分たちの言葉で綴っている。LINEを始めとするSNSを活用した施策を実行するほか、店舗にオンラインショッピングに誘導するQRコードを多く設けるなど、デジタルに遷移しやすいよう工夫も施してきた。
ライブコマースは店舗とセットで
加えて2020年7月にスタートしたのが、ライブコマースサービス「HandsUP (ハンズアップ)」を使用したライブ配信だ。遠く離れた街で暮らしながら、地域の特産品を生産者の解説を聞きながら即時購入できるのが醍醐味。放送中は、視聴者からの質問や応援コメントが続々と届き、「買う楽しさ」「つながる楽しさ」も体感できる。
第一回目は、松坂屋北海道に駐在する“名物バイヤー”本田大助氏が名産品を紹介する「北のグルメハンター 本田大助の北海DO the LIVE!」で、海鮮をはじめとする北海道グルメを会場を盛り上げながら紹介した。
その後、大丸・松坂屋各店に広がったライブ配信は1回約30分配信され、動画は10日間アーカイブ。10日間の総計では最高で約4000人が視聴したという。仮に目標金額に達しなかったとしても、ライブを視聴した客が後日店舗に来店し購入するなど、「リアル×デジタル」の相乗効果が新たに生まれている。
百貨店ならではのOMOを目指す
「店舗もOMO(Online Merges with Offline)化していかねばなりません。しかし効率ばかりにとらわれていては、百貨店の良さを失ってしまうことにもなりかねない」と永井氏は危惧する。
大丸の創業は1717年、松坂屋の創業は1611年とその歴史は古く、これまで数々の危機に遭遇してきた。その度に立ち返ったのは、社是「先義後利(せんぎこうり)」の教えであり、時代や社会の変化に柔軟に適応してきた。
永井氏は「地域性を重んじる弊社は、店舗の意見を何よりも尊重してきました。現在、E Cサイトを刷新中ですが、ローンチさせたら終わりではなく、毎週のようにマネキンの着せ替えをするように時代とお客さまの行動様式を検証・分析し、細やかな接客を行っていきたい」と、今後の意気込みを語った。