地域に支持されるローカルSMの強みとは
新型コロナウイルスの感染拡大による特需で、スーパーマーケット(SM)業界は好調だ。2020年度は過去最高業績を達成した企業も少なくなく、21年度ではその反動で数値が下がっているところが多いものの、それでもコロナ前の19年度の実績は上回っており、業界全体としてはまだ追い風が吹いている状況だ。
しかし、SM業界には以前からさまざまな課題が存在する。オーバーストア化の進行、ドラッグストアやECなどを含む業態の垣根を越えた競争の激化、人口減少・高齢化による食糧需要の減少、物流費の高騰、人手不足……。コロナ禍で業績が上向いているとはいえ、こうした課題が完全に解消されたわけではない。全国規模の大手やリージョナルチェーンでもこのような状況に苦心するなか、人口減少や過疎化が都心部より激しいエリアで事業を展開するローカルSMの状況はより深刻だ。
ローカルSM──。厳密には、1つの商勢圏内で11店舗以上を展開する「ローカルチェーン」の定義に沿って展開するSMチェーンととらえるべきだが、そうした原則には必ずしもあてはまらない企業が多い。そのため、本特集では特定の地域で数店舗から数十店舗を展開し、年間売上高が数百億円程度で、かつ地域に根差した強みを持つSMを中心に取材・調査した。
大手より厳しい事業環境に晒されながらも、消費者の支持を獲得しているローカルSMは全国各地に存在する。こうしたローカルSMの強さの源泉は、徹底した地域密着をはじめとする、効率を重視する大手にはできない、あるいはやり切れない施策を愚直に実行し切る点にある。では、各社は具体的にどのような戦略を採っているのだろうか。
ひとくちに地域密着といってもその内容は企業によってさまざまだが、ほとんどのローカルSMが取り組んでいるのは、その地域ならではの食材・商品を充実させることだ。地元産の生鮮食品・地元メーカーの商品の充実や、地域産品を活用した商品開発、地元飲食店とのコラボなどを行うことで、「なじみの味を大切にし、地域に寄り添う店舗」であることを訴求することができる。
もちろん、大手チェーンでも地場野菜や地域産品を売場に並べている企業は少なくない。しかし、国内外で多くの小売企業のコンサルティングを行う鈴木哲男氏は、「ローカルSMは地域密着の“本気度”が違う」と指摘する。たとえば、流通量が少なく認知度は低いが、高品質でおいしい商品をひたすら自分の足で探し求めるなど、地元で生まれ育った地元愛の強い従業員が、地域のお客、ひいては地域全体のことを本気で考え、店舗を運営する──。こうした従業員の意識の高さが徹底した地域密着につながっているのだ。
「個店経営」で地域ニーズに柔軟に対応
地域のニーズを汲み取るうえで効果的な施策の1つが、本部主導ではなく個々の店舗に大きな裁量を与える「個店経営」である。この戦略を採っている企業としては、東京23区を中心にSMを展開するオオゼキ(東京都/石原坂寿美江会長兼社長)や、バローホールディングス(岐阜県/田代正美会長兼社長)傘下のタチヤ(愛知県/坂本勝社長)などが挙げられる。タチヤでは、各店舗の仕入れ担当者が市場へ出向き、商品を買い付け、売場づくりを行っているのが最大の特徴だ。そのため、店舗ごとに商品の品揃えや価格、量目、売場づくりは異なる。タチヤには商品や売場づくりにおける統一されたマニュアルが存在せず、商圏ニーズに柔軟に対応して売上を最大化するための方法を自ら考える「商売人」が育つ環境があることが、同社の強みとなっている。また、独自の商品開発や、他社の売場には並ばない商品の仕入れに注力するローカルSMは少なくない。地域商品に限らず、「その店にしかない商品」の品揃えを充実させることも他社との差別化に効果的だ。
山梨県を本拠とするいちやまマート(三科雅嗣社長)は、20年ほど前から健康志向型のプライベートブランド(PB)「美味安心」の開発に注力。自社店舗での販売のほか、全国各地の65社のSMへの外販も行うなど、PBの域を超えた存在になりつつある。
東京都・神奈川県でSM20店舗を運営する文化堂(東京都/山本敏介社長)は、近年ニーズが拡大しつつある冷凍食品で、多くのSMが取り扱う売れ筋のナショナルブランドよりも、知名度は高くないものの高品質で価格もリーズナブルな商品の調達に注力し、独自の商品構成を実現している。このような施策が奏功し、同社は競争が激しい都心部を事業エリアとしながらも7期連続で増収・営業増益を達成した。
地元スポーツチームとの販促企画を実施
グループのシナジーを生かして独自の商品構成を実現しているSMもある。首都圏と山陰地方に事業会社を持つさえきセルバホールディングス(東京都/佐伯行彦社長)は、茨城県産のさつまいもを山陰の店舗で取り扱うほか、境港のカニやマグロを東京の店舗で販売するなど、事業会社間で地域産品を“交流”させることで商品の流通量を増やし、地域活性化に貢献している。福岡県の電鉄系SMである西鉄ストア(秋澤壮一社長)では、同じグループのホテルのシェフと共同開発した高付加価値のレトルトカレーなど、話題性のある商品がヒットしている。
ユニークな販促施策で地域の支持を獲得している例もある。徳島県を本拠とするキョーエイ(埴渕恒平社長)は、地元のJ1サッカーチーム「徳島ヴォルティス」と連動した企画を実施。チラシには同チームの選手を登場させているほか、試合に勝利したときにだけ販売する寿司は毎回好評を博しているという。このような地元のスポーツチームとの協業も、地域に根差したローカルSMならではの施策といえるだろう。
独自の組織開発に注力するSMも
最後に、自社ならではの独自性を追求するための組織開発に力を入れるローカルSMを紹介したい。「クックマート」の屋号でSMを運営するデライト(愛知県/白井健太郎社長)は、役職・等級の昇進に偏重せず、それぞれの能力や働きがい・価値観に合った場所で活躍することが報酬に反映されるような評価制度を設けているほか、各店舗で店長とチーフ、チーフと一般社員が、1対1で面談する「1on1ミーティング」を実施。よりよい売場や働く環境に必要なことを従業員に考えさせることで現場の創意工夫を促し、競合店との差別化につなげている。
現代では、世帯人数の減少や共働き世帯の増加、働き方の多様化などにより、個人のライフスタイルや消費行動はますます複雑なものになっている。こうしたなか、商圏内のニーズに細かく対応できない店舗は消費者から見放される可能性が高い。大手より事業規模は小さいものの、組織自体も小さいためフットワークが軽く、柔軟な対応で地域に寄り添うローカルSMから学べることは少なくない。
次回からは、全国各地のローカルSM14社の取材・調査を通して、各社の強さの秘密を解説している。独自の取り組みを徹底的に追求し、地域の支持を得ているローカルSMの戦略をぜひ参考にしてほしい。
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