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第34回 ウィズコロナ時代に「モノからコトへ」を信じてはいけない理由

「モノが売れない時代」と言われて久しい。しかし、本当にモノは売れていないのだろうか。それは①お客がこれまでとは異なる場所やチャネルで買うようになった、②これまでと売れるものが変わった、と言い換えることはできないだろうか。消費者は、買い物をしていないわけではない。モノが売れていないことの言い訳に持ち出した言葉が「モノからコトへ」ではないだろうか。今日は、この「コトからモノへ」の真偽を考えたい。

Zeferli/istock

モノはいまも売れている なぜ売れなくなったと思うのか

 本当にモノは売れていないのか。街を見れば皆、洋服は着ているし、車も走り、宅配業者はひっきりなしに訪れる。日本国民125,708,382(2020101日時点)は、今も暮らしているし、毎日、ご飯も食べている。

図表1 商業統計推計

 確かに日本国民の賃金は低迷し、一人当たりGDPでも韓国に及ばない。だからモノが売れ無いと言うのも分かるが、消費動態統計(図表1)を見れば売れている場所ではコロナ禍以前でも売れているし、コロナ禍でも売上を伸ばしている。コロナ禍前から売上が減少していた場所はコロナ禍で加速されたに過ぎない。

 要するに売れなくなったのは、①消費者の買う場所が変わった、②消費者の買うものが変わった、この2つではないのか。

買う場所の多様化

 以前、本連載で、小売機能がストアリテールからモールリテール、ネットリテールへと変遷したと解説した。戦後、八百屋、魚屋、肉屋がスーパーマーケットや総合スーパー(GMS)になり百貨店の全盛時代を迎える。

 その後ダイエーを筆頭にGMSが大きく成長し、買い物と言えば百貨店かGMSという時代になる。さらに1980代以降は、不動産賃貸業によって小売機能を提供するショッピングセンター(SC)の出店が進む。さらに2000年以降は、大規模小売店舗立地法が制定され、駅、郊外、街、あらゆる場所にSCが建設されるようになり、我々は通勤通学途中で買い物を済ませられるようになった。 

 一方で対前年主義によって商品を作るアパレル メーカーは、在庫を店頭セールだけでなくファミリーセールと称した(見せかけの)限定販売を頻発、ディスカウント販売の恒常化から消費者は定価を疑い始める。そこにアウトレットモールやファストファッションが登場、2008年からはスマホと3GによってECが一般化した。

 この50年で買う場所が大量に増える一方、需要者(人口)は減少、モノが売れなくなったと感じるのも当たり前のことだろう。

なぜ店頭でモノが売れなくなったのか

 では何故店頭でモノが売れなくなったのか。それは、①必要なものが無い(不要不急)、②欲しいものが無い(魅力の欠乏)、③無理に買わされる(販促、接客)、④他でも買える(買う場所の増加)、⑤だから店がつまらない(落胆の連続)5つに収斂される。

 店頭に「New arrival」「新着」「店長のおすすめ」「今年の色」「今、一番売れています」と言ったPOPが並ぶ。これは人の気持ちを煽り、購買欲を喚起する。以前なら流行に遅れることや知らないことに劣等感を覚えた。

 しかし、ネット社会ではそれほど情報格差は無く、そもそもそういった劣等感を気にする時代でも無い。ところが店頭では昔と変わらぬワードが並び、接客と言う「売り込む(売りつける)」作業を繰り返す。これでは店舗がつまらなくなる。もちろん、ショップスタッフとのやり取りを楽しむお客はいる。それは否定しない。でも、現に売上が落ちているのだから答えは明らかだろう。

 車の販売も同様である。定期的にマイナーチェンジを行い、数年に一度、フルモデルチェンジを行う。この活動は需要を喚起するためだが、消費者に時代遅れを感じさせることで消費を煽るマーケティングは時代遅れになりつつある。

人はなぜモノを買うのか 「モノからコトへ」を疑え

 人がモノを買うのは「買う理由があるから」に他ならない。買う理由が無ければ買わない。当たり前の話だが、これが分かっていないと「モノからコトへ」を頭から信じてしまう。

 雨に濡れないために傘を買う、感染回避のためにマスクを買う、冬暖かく過ごすためにUNIQLOでヒートテックを買う、若々しくなるために老化防止の乳液を買う、家族でキャンプに行くからテントを買う、ステイホームで料理をするからニトリでキッチン雑貨を買う、正月におせちを買い節分で恵方巻きを買い土用の丑の日にウナギを買う、バカンスに行くから水着を買う、孫が小学校に行くからランドセルを買う……

 どうだろう、全て理由が無いだろうか。モノは全てコトの先にある。ゴルフをやるからクラブを買うし、ジョギングするからランニングシューズを買う。このロジックを理解していないと「経験消費」「体験消費」「トキ消費」と流行の言葉に惑わされ、いきなりワークショップのイベントを始めることになる。ワークショップのイベントが悪いと言っている訳では無く、「モノが売れない」とはなから思い込んでいないか確認して欲しい。

 国民の高齢化が進み、相対的な物欲の低下は免れないであろう。でも、年を取っても消費がなくなることはない。

 市場は変わっているのに、相変わらず前年主義、売上主義によって「売らんがため」の活動に店頭は終始していないだろうか。消費者の劣等感や焦燥感を煽った売り方を続けていないか。本当にお客が望んでいるもの、お客が取り組んでいること、抱えている課題、それらを把握しているだろうか。この先も「New arrival」「新着」「店長のおすすめ」「今年の色」を続けていくのだろうか。

 ポストコロナ、行動自粛によって家計に滞留したお金で一時のリベンジ消費に沸くだろう。でも、それも一過性だ。今後、人口は減り、年金生活者が増え、ますます消費行動は慎重になる。その時、誰を相手にその人の持つ課題を解決していくのだろうか。少なくともそれは「今年のコーデ」ではないだろう。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒