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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営32 SCが差別化を狙ってはいけない理由

ウィズコロナ時代、ますます「戦略」が重要になる。この戦略を考える時、差別化という言葉をどれほど聞くことだろうか。差別化をすれば競争に勝てると誰もが信じている。しかし、SCを始めとした商業施設は、差別化を狙っていけない。もちろんそれには理由がある。今回は、なぜ「SCは差別化を狙ってはいけないのか」解説していくことにする。

jewhyte/istock

差別化だけじゃない競争戦略

図表1 ポーターの基本競争戦略

 競争戦略として最も有名なのは「差別化戦略、集中化戦略、コストリーダーシップ戦略」の3つを提示したマイケル・ポーターの3つの基本競争戦略(図表1)だ。他者との競争を考える際、最も基本となる戦略だがここでは3つの戦略が提示される。ということは、「差別化戦略」以外にも競争戦略は存在する。

 しかし、日頃から「差別化しろ!」「差別化ポイントは何だ?」と上司から言われ続けていないだろうか。

 では、そもそも戦略とは何か。この問いにほとんどの人が「戦い方」「戦う手法」と回答する。確かに戦う計略と考えればそうだろう。でも、私の戦略に対する理解は「戦略とは戦いを略すること」すなわち戦いを省略し、戦わずして勝つことだと考えている。

 真正面からぶつかって勝てるなら正面攻撃もいいだろう。でも、相手が大手で実績も歴史もあればそう簡単に勝てるものではない。その状況では正面攻撃など自殺行為に等しい。とすれば、できるだけ戦わないに限る。「己を知り相手を知れば百戦あやうからず」だ。

 ここで誤解して欲しく無いのは、「戦いを略すること」は、「戦わない」「戦うことから逃げる」という意味ではないということだ。あくまで戦い方は正面攻撃ではなく、その代表例が3つの競争戦略であり、その一つが今日のテーマ「差別化戦略」である。

差別化は本当に有効なのか

 差別化戦略は、他者と差別化することで正面から戦うことを避け、勝者となることを狙う。そうしたら差別化戦略はとても有効な戦略では無いか。そう考える人も多い。でも、今日のテーマは全くその逆「差別化はするな」である。

 では、差別化戦略とは何か。これには「競合と違う施策を採ること」と答えるだろう。

 でも、ちょっと待って欲しい。その違った施策は顧客が望んだものだろうか。顧客が望んでもいないものをやろうとはしていないだろうか。差別化は競合を見て考える。その時、どうしても顧客ニーズを見落としがちになる。競合と差別化を考えるプロセスに顧客の意思が不在となってないだろうか。

 差別化戦略ほど多くの人に誤解された言葉は無い。差別化戦略は、競合と形を変える、施策を変える、取り扱い品目を変える、品揃えを変える、見せ方を変える、新規性のあるテナントを誘致する、ポジショニングを変える、そういった理解がされている。

 確かに新しいことや珍しいことに顧客は反応する。しかし、それは一過性に過ぎない。

図表2誤解される差別化戦略

 すぐ飽きられ、次の差別化を考えることとなる。差別化とは、あくまで「顧客から見た魅力の向上」であり、それを顧客が認めない限り、その差別化は思い込みであり、エゴであり、自己満足に過ぎないのである(図表2)

 

 

差別化は結果 顧客は差別化を望んでいるのではない

 このように差別化戦略とは、顧客が認めて初めて意味をなす。その証拠にSC運営においてお客様アンケートで「差別化してほしい」というコメントを回答欄に顧客が記入してきたことを見たことがあるだろうか。少なくとも私は無い。なぜ顧客が望んでもいない差別化を事業者は追い求めるのか。不思議でならない。 

 例えば、顧客から「美味しいベーカリーのお店が欲しい」という意見からベーカリーテナントの誘致、もしくは新たな品揃えで美味しいベーカリーを実現したところ顧客から支持を得たとする。それが競合には無かった要素だったとすればこれが立派な差別化となる。要するに差別化は結果であり目的では無いのだ。

 ただ、差別化を狙うことで新たなイノベーションが起こることもある。これは否定しない。色々なチャレンジをすることも大切だし、時にはプロダクトアウトの取り組みも仕事をする上ではやりがいや楽しさにもなる。これも是だろう。

ただ、顧客の望むことと差別化は必ずしも一致するわけでは無いことを肝に銘じるべきなのだ。

 差別化を“目的”にすると何が起こるか。周囲の競合と差別化を意識するがあまり、顧客ニーズから遠のいた上、顧客の支持を受けずに閉店や全面改装に追い込まれた商業施設を見たことがあることだろう(自らの体験として持つ人も多いと思う)。

 差別化戦略を採用する際は、頭の片隅に「これは顧客が望むことだろうか」という気持ちを持つことが本当の商業施設のプロである。ポストコロナ、やみくもに差別化を目的とした開発を行わないようにしたい。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒