セブン-イレブン・ジャパン(東京都)が、一部エリアで実験を続けてきた宅配サービス「ネットコンビニ」を全国展開する方針を発表した。
同社親会社のセブン&アイ・ホールディングス(東京都:セブン&アイ)は、2026年2月期までの中期経営計画のなかで、「社会構造変化」「新型コロナウイルス(コロナ)」の影響により、小商圏の加速とニーズの多様化が進んでおり、これに対応することが国内コンビニエンスストア事業の新たな成長のカギとしている。「ネットコンビニ」はその具体的な対応策の1つだ。
約2800品目の商品が
最短30分で届く衝撃
「ネットコンビニ」は、スマホアプリで注文すれば、近くの店舗から指定の場所まで商品を届けてくれるサービスだ。取扱品目数は約2800(雑誌・非課税商品は除く)と、ほかの食品宅配や生協と比較すると決して多くはないものの、注文後最短30分で商品が届く。
注文は24時間可能で、配送対応時間は10時~23時まで。税込1000円以上からオーダーでき、配達料は330円だ。(参考/「イオンネットスーパー」:最低注文金額同770円・配送料330円※地域により異なる、「Amazonフレッシュ」:最低注文金額4000円・配送料390円)。注文後に欠品で商品が届かない事例を防ぐべく、リアルタイムで店頭の在庫データが連携できるシステムをすでに構築している。
現在は、一部エリアで実験的にサービスを提供している段階で、導入店は21年2月末で約350店(北海道約120店、広島県約150店、東京都約80店<世田谷区・中野区・品川区・豊島区>)。次の成長フェーズとして銀座エリア(オフィス立地など)でもサービスを開始し、21年度末までに計1000店まで広げて収益化できるモデルの確立をめざしている。
そして25年度までに全国にサービスエリアを拡大し、セブン-イレブンの営業利益額を21年度と比較して5%を押し上げられる事業に育成していく考えだ。
コロナ禍での売上減と
フードデリバリー市場の拡大
現在、コロナ禍で多くの食品小売企業が宅配サービスを強化している。
そうしたなかセブン-イレブンは、2万店を超すコンビニの店舗網を生かしたこれまでにないサービスを生み出すねらいだ。これは、常に時代の変化に応じて新しい価値を提供してきたコンビニならではの試みと言える。
また、コロナ禍では外出自粛生活やリモートワークの普及などにより、近年とくに都心部やオフィス街への出店を強化してきたコンビニ業態は苦戦を強いられている。コンビニ王者のセブン-イレブンであっても20年度の立地別・既存店売上高伸長率は、住宅・郊外立地が対前期比100.3%だったのに対してオフィス立地は同88.9%と大きく減少しており、こうした売上減をカバーする早急な対応が求められている。
さらにフードデリバリー市場は5000億円を超えて巣ごもり需要でさらに市場が拡大。弁当や総菜を扱うコンビニとしてもこの市場を見過ごせないのであろう。
「ネットコンビニ」の最大の武器は、注文後最短30分で商品が届くというスピードにある。子育て中や共働きの家庭、単身のビジネスパーソンなど忙しい人にとってこの魅力は大きいだろう。
また、身近なセブン-イレブンの宅配サービスであれば安心感があり、利用を始めるにあたっての心理的障壁は比較的低いと想定される。さらに、セブン&アイのプライベートブランド(PB)商品「セブンプレミアム」や中食商品など、セブン-イレブンの強力な商品力は利用動機につながりそうだ。
さらに「ネットコンビ二」では、同じセブン&アイグループの企業の商品も届けられるようにする計画で、すでにテスト段階にあるという。品揃えが広がればさらに競争力を発揮するだろう。
そのほか、配送料が300円で月に15日利用しても月額は計4500円。消費者に身近なコンビニがこうした手の届きやすい価格帯で宅配サービスを提供し始めることは、おうち時間や家族との時間を充実させるために「時間を買う」といった価値観をいっそう浸透させていきそうだ。
物流会社との連携が
サービス構築のポイント
食品宅配に乗り出すコンビニ他社の動きでは、ローソン(東京都)が外部のフードデリバリープラットフォームとの連携により商品の配送サービスを一気に広げている。
同社は19年に国内コンビニで初めて「ウーバーイーツ(Uber Eats)」と提携。さらに「フードパンダ(foodpanda)」や「ウォルト(Wolt)」とも手を組み、22年2月期末までにサービス導入店を3000店舗にまで拡大する計画だ。
ただし、ローソンの商品宅配サービスの取扱品目数は370ほどとセブン-イレブンと比較すると限定的。「からあげクン」などの店内調理のフライドフーズや、牛乳などの購入頻度の高い日配品、トイレットペーパーといった日用品、酒類の売上高構成比が高いという。「ネットコンビニ」は利用動向でどのような違いが出てくるかにも注目したい。
一方、可能な限り自前での食品宅配サービスの構築をめざすセブン-イレブンだが、商品の配送については17年に業務提携契約を締結したセイノーホールディングス(岐阜県)の子会社であるGENie(東京都)が担う。
銀行ATMを代表例にこれまで内製化による新規サービスの提供を得意としてきたセブン-イレブンが同社と連携し、成長していけるかは「ネットコンビニ」成功の大きなポイントになる。サービスエリアを全国に広げるにあたっては、他の物流会社との連携も必要になってくるだろう。
食品宅配市場の開拓に本腰を入れて取り組み始めたセブン-イレブン。「商品を持ってきてくれる」という新しい利便性がコンビニのスタンダードになる日はそう遠くなさそうだ。
田矢信二(たや・しんじ)
近畿大学商経学部卒業。幼少期は実家の小さなおもちゃ屋で商売を学ぶ。その後、セブン-イレブン・ジャパン、ローソンを経て、コンサルタント会社でも勤務。コンビニの商品や売場全般に詳しく、お店に訪れ消費者目線で買い物して試食する毎日。本部社員として働いた現場経験を活かし、コンビニに関する講演・セミナーからテレビ・ラジオ番組などにも出演。コンビニをテーマにした記事への取材なども。アジア企業へのコンビニをテーマにした企業講演の実績も多数。主な著書に『セブン-イレブンで働くとどうして「売れる人」になれるんですか?』『ローソン流アルバイトが「商売人」に育つ勉強会』(以上、トランスワールドジャパン)がある