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食品Eコマースを制する?「Qコマース」とは何か

食品Eコマースを制する?「Qコマース」とは何か

 クイックコマース(Qコマース)とは、まだ聞き慣れない名称かもしれませんが、Eコマースの一つのジャンルです。「クイック」の意味するところは、従来のEコマースに比べたときの配達時間の早さです。フードデリバリーに端を発し、コンビニやスーパーで扱う食品や、ドラッグストアその他の日用品へと取り扱いカテゴリーを拡大しているオンラインショッピングサービスを総称するもので、その範中にはUber Eats(ウーバーイーツ)や出前館、Wolt、foodpanda(フードパンダ)といったサービスが含まれるようです。Qコマースとは何か?「 Q」は「E」を制するのか? 食品デリバリーの現状を整理したいと思います。

イオングループやコストコなど小売業の提携先を広げるWolt

配達まで30分を切る革新性

 Qコマースの最たる特徴は、注文から配達までのタイムラグの短さです。食品Eコマースに限って考えても、一般的なネットスーパーが早くて即日、Amazonがライフコーポレーションやバローと組むネットスーパーでも最短で2時間といったところですが、Qコマースの場合、概ね30分を切ります。

 このスピード感の革新性は、利用客が買い物に出かけるよりも早く用事が済むことです。ネットスーパーは、届けてくれるのは便利なのですが、時間だけを考えるなら買いに行った方が早いでしょう。2時間後に届けてくれるとしても、近所のスーパーまで出かけた方が早いと思われます。しかし30分を切るとなると話は別で、頼んだ方が早くなります。

 Qコマースのほとんどは自前で在庫を持ちません。顧客と提携店舗と配達パートナーを情報システムでつなぐビジネス、つまりEコマースでいうところのマーケットプレイスのような事業モデルです。しかし、8月にサービスを開始したOniGO(オニゴ)のように、配達専用のダークストアに在庫を持ち、そこから10分で配達できるエリアを商圏とするビジネスモデルも登場しています。Qコマースといってもすでにさまざまなスタイルがありますが、とりあえずは「注文から配達までが30分程度の仕組みを備えたEコマース」と定義できます。

顧客満足はスピードだけで決まらない

コンビニではローソンがQコマース事業者との提携を積極的に推進

 Qコマースは、そのスピード感において従来のEコマースとは別次元の配達サービスではありますが、食品購入の顧客満足は、それだけで決まるものではないでしょう。品揃えやその価格、品質、それに配送料との兼ね合いで満足度は左右されるはずです。

 品揃え・価格・配達のバランスで顧客満足をいかに高めるかは、Qコマースだけの課題ではありません。Eコマースにとってもいまだ最適解の出ていない問題です。店舗出荷型のネットスーパーの場合、店舗と全く同じ商品数を扱えるわけではなく、配送キャパには物量的にもコスト的にも限界があり、商品売価にせよ配送料にせよ価格の設定は悩ましいのが現状です。需要は伸びているけれど、かんたんには黒字化しない事業構造のままです。

 けっきょく、生協の宅配サービスのような週単位で固定した配送じゃないと安定した収益は生まれないとの意見もあります。そのうえ、生協宅配より融通のきくネットスーパーが登場してずいぶん経ちますが、毎週固定の曜日にしか配送されない生協のやり方は不便だ、として評価を下げているわけではありません。それどころか生協はコロナ以前も順調に供給を増やし、コロナ禍ではさらに飛躍して、今年は前年を超えたり割れたりですが、19年対比でいえば2~3割増といった推移を続けています。週単位の購入スタイルを支持する客層は、ネットスーパーが広がる中でも増えているのです。

配達スパンで市場をすみ分ける?

OniGOが東京都目黒区に開設したダークストア1号店の店内

 もっと長いスパンの購入ルーティンとして、Amazonには「定期おトク便」というサービスがあります。定期購入する商品を2週間~6ヵ月の幅で指定できるというもので、リピートが決まっている商品の買い忘れ防止になります。購入直前になると確認メール来るので、私は価格を毎回チェックします。その際、値段が変わってリアル店舗と比べこの価格差では……と思ったら中止します。便利さだけで購入は決められません。

 ひとくくりに食品といってもカテゴリーの幅は広く、購入直後に消費してしまうものから、長期間ストックするものまで購入スパンの幅は広いものです。配達して欲しいタイミングはいろいろで、価格や品揃えといった要素も含めて検討する必要があります。

 これからの食品Eコマースはどのように進展するのでしょうか? 現時点では、スピードが全てを凌駕するとも、週単位で全部OKとも、中間をとって翌日配送がベストであるとも、いえない状況です。

 各サービスは配達スパンでニーズをすみわけしつつ、それぞれの配達スパンの領域で品揃え・価格・配達品質のバランスを競い合うことは予想できます。つまり当面は、即時、翌日、週間、月間と配達スパンごとにニーズを掘り起こし、各社が競争しながら発展していくのではないでしょうか。この配達スパンのすみわけを打ち破ることに成功する事業者が出てきたとき、食品Eコマース市場は一変するかもしれません。