ナルミヤ・インターナショナル(東京都/石井稔晃CEO)を苦境から立て直した石井稔晃社長。次から次へと、矢継ぎ早に事業構想が飛び出すアイデアマンだ。店舗業態では、フリースタンディングなど単独店の開発に乗り出している。「営業時間を自社で決められて効率的に運営でき、スタッフも集めやすい」と説明する。中国でのEC事業、子供写真館とのコラボ運営もスタートした。さらに、「子供服ブランドが人気化すれば、大人向けにも事業展開できる」と夢は尽きないようだ。
SC出店で直面した人材難
―百貨店・ショッピングセンター(SC)・ECに三極化しているナルミヤ・インターナショナルの販路別の売上構成比は、今後はどうなるのでしょうか。
石井 まずはECを強化し、EC売上高を現在の86億円から100億円にするのが直近の目標です。一方で、リアルの店舗網は、百貨店内が100店舗、SC内が170~180店舗の規模で推移するのではないでしょうか。SCチャネルはこれまで、年間20店舗ほどのハイペースで出店を続けてきました。コロナ禍で出店がストップしたので、アフターコロナでは、出店をいったん加速させる見込みですが、年間20店舗のペースまで戻せるかどうかは不透明ですね。
―それはなぜでしょうか。
石井 SC出店で大きなネックとなっているのが、人材確保の問題です。新店を出しても、スタッフがいなければ運営できません。実は、人手不足は、コロナ禍の前から顕在化していました。全国各地のSCで、スタッフを集めるのに苦心していて、人材派遣会社に応援を頼んだりしていました。とりわけ、地方の郊外型SCは長時間営業のうえに、車がないと通勤できないので、深夜などの時間帯にスタッフを集めるのが難しいんですね。人材難は、人件費アップにもつながります。当社の売上高営業利益率は、前々期(2020年2月期)で約5%と低いので、二ケタまで引き上げる目標設定にしているんですが、人件費が上昇してしまうと、目標達成が遠のいてしまいます。
居抜き出店や単独店でコストダウン
―アパレル産業の利益率アップは重要な課題だと思いますが、利益率10%達成に向けて、どのような手立てを講じているのでしょうか。
石井 SCチャネルでは、22年から無人レジの導入などで省力化を進めて、生産性の向上を図ります。ECの拡大に伴って、運賃も上昇傾向にあるので、バックヤードの業務効率化もカギになります。当社では、全商品にRFID(タグのメモリ情報を電波で読み書きできるシステム)のタグをつけて、商品情報の管理を徹底しています。物流拠点の統廃合も進めています。また、出店コストの削減も、大きな眼目になりますね。
―出店コストはどのように抑えるのでしょう。
石井 立地の多様化を進めています。これまでは百貨店、SCがメーンでしたが、より低コストで出店できるチャンスがあれば、百貨店やSC以外の立地でも、機動的に新店を開設できるようにしています。例えば、コロナ禍の影響で、さまざまな出店スペースが出てきています。既存施設以外にも臨機応変に可能性を求めていきたいと思います。そこへ「居抜き出店」をするのも、一つの手ですね。大型専門店にもテナントの空きスペースが増えているので、そこに入居させてもらう方法もあるでしょう。
それから、当社にとって新たなチャレンジとなりますが、複合業態(写真館+アウトレットや、写真館+SCブランドなど)の路面店舗も開発していきたいと考えています。
―どうして単独店なのですか ?
石井 自社の裁量で運営できる魅力が大きいですね。例えば、地方の郊外型SCは、21時までの営業が基本というケースも少なくありません。テナントも、SCの営業時間に合わせて運営するしかありません。しかし、子供服専門店は、実は、年中無休でなくてもいいわけです。主客層であるママは通常、日中にしか来店しません。つまり、18時以降はクローズしてもいいわけです。SCのテナントにはできませんが、単独店なら、それが可能になる。必要な時間だけ営業すれば、店舗運営費や人件費も圧縮できます。それに、単独店なら、スタッフの都合に合わせて営業時間を決めることもできるので、人材を集めやすくなるでしょう。
子供写真館ではスピードで勝負
―新しい販路と言えば、国内だけでなく、海外も考えられます。ナルミヤ・インターナショナルは、すでに中国事業も展開しています。
石井 SC向けブランドの一つである「プティマイン」を、「TMALL」という中国最大級のECサイトで販売しています。サイトに登録されている子供服ブランドは2000~3000もあるそうですが、その中でも、売上では上位10%に入る人気になっています。中国は、子どもの人口が日本の7~8倍と言われ、経済成長もしているので、市場として魅力的ですね。中国事業は、将来的には本腰を入れたいと考えていますが、まずはECでブランドの浸透を図ってから、リアル店舗の展開を検討します。
―アパレルだけでなく、2018年からは、「LOVST(ラブスト)」という子供写真館事業にも参入しました。
石井 写真館は、子供服専門店と親和性がとても高いと考えています。お子さんがハレの日の服を着て、写真を撮るのにも便利だからです。当社には、数十万人の会員がいらっしゃるので、子供写真館事業とのシナジーも追求しやすい。当社の店舗は、百貨店に多く出店していますが、百貨店には現在、空きスペースも増えているので、写真館を併設するケースが多いですね。オープニング記念イベントとして、無料の撮影会も行っています。百貨店の同じフロアの他社ブランドでも撮影をお引き受けしているので、大人気ですよ。
―子供写真館では、先行している大手チェーンもあります。どんな優位性を訴求されるのでしょうか。
石井 例えば、ほかの大手さんは、お子さんの写真をアルバム編集して、後日お渡しするサービスを主力にしているそうです。それに対して、当社では、お子さんの写真を当日、その場で、データでお渡しするという“スピード”を、セールスポイントにしています。SNSの普及で、「撮った写真をすぐにアップしたい」というニーズが、ママの間でも広まっていますから。
―子供写真館事業の見通しや計画については、いかがでしょうか。
石井 子供写真館事業は、成長が期待できるでしょう。モバイルで簡単に写真が撮れるようになったことで、ママの間では、子どもの写真に対する関心が高まったと考えています。お子さんの記念撮影だけでなく、日々の成長の記録としての写真も欲しくなり、その結果、自分で撮影するだけでなく、身近なプロのカメラマンにも「お子さんのベストショット」を撮ってもらいたいというニーズが高まっていると見ています。
今期は東京の髙島屋新宿店、東武百貨店池袋本店などに10店舗を新設する計画です。今後は30~50店舗まで事業規模を拡大し、収益化を図りたいと考えています。
子どもや孫ではなく、自分のために購入
―そのほかに事業構想があれば、ぜひ教えてください。
石井 実は、子供服を子ども用としてだけでなく、“大人用としても販売できないか”と考えています。というのも、子供服は、大人がお子さんやお孫さんに買ってあげるのが普通なんですが、中には、“自分用”に買うケースもあるんですね。
例えば、子どもの時に気に入って、本当は欲しかった子供服ブランドなのに、「当時は親に買ってもらえなかった。今なら、自分で“大人買い”できる」というお客さまもいらっしゃるんです。もちろん自分が着用するのではなく、お気に入りの服として鑑賞するのでしょうね。
―そんなニーズもあるとは、驚きますね。
石井 それだけではないんですよ。もっと発想を膨らませれば、子供服ブランドを、大人向けにも展開できるんです。例えば、「ロリータファッション」って、ありますよね。東京のラフォーレ原宿さんには、ロリータの専門フロアもあるのですが、ティーンなど若い固定客だけでなく、実は、20〜30代以上の女性にも、根強いファンが多いそうです。
つまり、ターゲットの客層を年齢で区切るのは間違いで、ブランドのテイスト別にくくるべきなんです。もちろんサイズ対応などは必要でしょうが、子供服ブランドの大人服には、可能性があります。当社の子供服ブランドも、ブラッシュアップして「三世代型ブランド」に育成することは十分にできるでしょう。少子化の中でも、創意工夫すれば、子供服事業にはまだチャンスがあるんです。