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食品スーパーに野菜を卸す学生サークル「6次産業化クラブ」とは 小売の地域貢献の新たな可能性

食品スーパー(SM)の商品政策や売場づくりにおいて、地域密着の重要性が言われて久しい。農産売場では、店舗近郊や市内・県内で栽培された地場野菜を取り扱っている企業も少なくないだろう。こういった地場野菜は主に地元の市場や農家から仕入れている場合が大半だ。そうしたなか、「6次産業化クラブ」は学生サークルながら野菜の栽培に取り組み、商品をSMに卸売するほか、自ら販売も行っている。本記事では、同サークルの取り組みについて紹介しつつ、小売業の地域貢献の可能性について考えたい。

畑の開墾から収穫までを自分たちで行う

 「6次産業化クラブ」は新潟食料農業大学で発足した学生サークルだ。同大学は「食」「農」「ビジネス」を一体的に学ぶことができるのが特徴で、新潟県の新潟市と胎内市にキャンパスを持つ。設立は2018年と新しい。6次産業化クラブの設立は196月で、学生が自ら栽培した作物の加工・販売などを通じて地域を活性化することを目標としている。部員数は41人(218月時点、以下同じ)

 活動の中心となるのはもちろん野菜の栽培だ。全体で集まるのは週に1度だが、水やりなど野菜の管理は毎日各部員が行っている。栽培場所は大学敷地内の約5a(約500㎡)の土地で、使われていなかった場所を畑として活用できるように開墾して使用している。

6次産業化クラブの学生がジャガイモを植え付けている様子

 育てている野菜は約10種類。ジャガイモやかぼちゃなどのほか、バジルなどのイタリア野菜、スティックセニョールなどの一風変わった野菜も栽培している。こうした珍しい野菜を育てている理由について、6次産業化クラブで代表を務める大学3年生の飛田惟織さんは「近くの農家さんが栽培していないもので、比較的つくりやすいものを選んでいる」と話す。学生ながら他との差別化を考えたうえでの戦略となっている。

 基本的にはどの野菜も種を購入し、苗づくりから始めている。種類にもよるが、種から収穫まで約1~3カ月かかるという。また、有機肥料を使用するなど品質にこだわっているのも特徴だ。

店頭価格も学生が自ら設定

  6次産業化クラブは、こうして栽培した野菜を地元で約300年の歴史がある朝市「三八市」やJAの収穫祭などのイベントで自ら販売している。そのほか、ローカルSMのウオロク(新潟県/本多伸一社長)が215月に移転リニューアルオープンした「ウオロク中条店」(新潟県胎内市:以下、中条店)には、1~2週間に1回ほど、1~5品目ほどの野菜を定期的に卸している。移転を機に中条店が地域貢献として何かできることはないかと6次産業化クラブに声をかけたのがきっかけだという。

ウオロク中条店での販売の様子

 注目したいのは、中条店には単に商品を卸すだけでなく、店舗での販売価格も学生が設定していることだ。中条店の地場野菜コーナーにある他の農家がつくった野菜の価格を参考にしつつ、自分たちの野菜の味や品質を比べながら価格を決めているという。飛田さんは「原材料費などを考えるとまだまだ黒字化するのは難しいが、この取り組みを通して学べることは多い」と話す。中条店で販売している6次産業化クラブの野菜は毎回ほぼ完売しているとのことで、評判は上々のようだ。

 中条店と異なり、三八市やJAの収穫祭では自ら出店し商品を販売している。サークルのメンバーが自分の出身地ならではの食べ方を紹介するなど、お客とコミュニケーションを取りながら工夫して販売しているという。

三八市で販売している商品

 6次産業化クラブが現状課題としているのが、SMへの卸売やイベントへの出店による利益をどのように確保するかである。飛田さんは「野菜の品質を安定させることの難しさを実感している」と話す。品質が安定すれば、付加価値のある加工品の販売にもつなげていきたいとのことだ。6次産業化クラブ顧問の早川喜郎氏は「地域と連携することで学生が学び得られることは多い。これからも活動を広げられれば」と語った。

 

将来の人材確保にもつながる?

 6次産業化クラブと中条店の取り組みは、前述したようにウオロクが地域貢献の一環として6次産業化クラブに声をかけたのが始まりだ。小売企業としては売上や利益が大きく見込めるわけではないが、学生に学べる機会を提供することも地域貢献の1つのかたちである。ほかに小売と学生が協業している例を挙げると、21910日にリニューアルオープンした「MUJI新宿」(東京都新宿区)では、ファッション・服飾系の専門学校である文化服装学院の学生が制作したインスタレーションを展示している。

 小売企業の地域貢献というと、どうしても“大人”との取り組みを想像しがちだが、6次産業化クラブにウオロクが声をかけたように、自分たちの事業内容と関連性があることを専門的に学んでいる学生・若者との協業もできるのではないだろうか。ウオロクでは新潟食料農業大学から内定者も出ているなど、とくに高齢化や人口減少が著しい地方では将来の人材確保にもつながる可能性もある。小売企業の地域貢献の一つのかたちとして、学生との協業は大きな可能性を秘めているかもしれない。

 

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