メニュー

ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営31 これからのSCが売上連動から「固定賃料」へ変わる必然とは

SCのテナント契約は、最低保証付き売上歩合制など売上連動型の賃料形態を採用することが多い。テナントの売上高がSCの収入に大きく影響を与えるこの賃料形態はいくつかの社会的な背景をもとに考案された。しかし、市場環境や社会システムが変わることによってSCの賃料は売上連動ではなく固定制の賃料にシフトすることをかねてより指摘しているが、今回はその理由を解説したい。

zhudifeng/istock

SCの賃料形態と歩合賃料が増加する背景

 SCのテナント料(賃料)は、固定制、変動制、固定と変動の組み合わせなどいくつかのパターンがある。固定制とはテナントの売上に関わらず一定(固定)額であり、変動制とは売上高に連動する歩合賃料である。そして、この2つを混合した固定変動制は、規定の売上高(最低保証売上高)までは固定賃料が支払われ、それを超えると歩合賃料が加算される賃貸側にメリットが大きい形態である。

 不動産の賃貸借契約では賃貸側と賃借側は相反する。貸す側は高く貸したいと思い、借りる側は安く借りたいと願う。平行線となりそうなこの利害は、物件に対する需給によって合致点が見いだされ、その合致点は双方の利害を調整した結果だから契約自由の原則において社会的正義が実現したと考える。したがって契約後に「高い(安い)賃料で契約させられた」という主張は残念ながら難しい(もちろん、恫喝や詐欺は別だが)。

 コロナ禍に入り、店舗休業や国民の行動自粛から売上が低迷しテナントの退店が発生し、新規出店も減少する。しかしSCはテナントに貸さなければ収入はなく、「デッドモール」(廃墟モール)と揶揄される。勢いテナントに対し、賃借側にリスクの低い変動制を提示することにもなる。

テナント特性の変化

 このような環境下で、なぜ、今、「固定賃料化」をテーマに選んだのか、順を追って説明する。なお、この固定賃料化は単に私が推奨していると考える向きもあるようだが、そうではなく、必然である。まずは、以下の3つの変化が影響している。

1.売上が上がらない店舗

物販がECに置き換わり、リアル店舗出店の目的がプロモーションやブランディングなど最初から多くの売上を求めずに出店する企業が増えている。

2.売上の無いテナント

また、クリニックや証券や保険や旅行や教室やシェアオフィスなどこれまでSCが考えてきた売上は無く、歩合賃料をチャージすることがそもそも不向きなテナントがますます増加している。

3.業種構成の変化

過去、SCでは洋服や服飾雑貨を中心としてテナントミックスがなされ売上を上げることが賃料収入に直結した時代だった。しかし、今は過去である(図表1)

定期借家制度の登場が変えた 賃料契約のあり方

 さらに、今回のテーマ「固定賃料化の必然」に大きく影響するのが「定期建物賃貸借契約(定借制度)」である。2000年に登場した定借制度は契約期間で確定的に契約は終了する。したがって営業継続には更新では無く再契約が必要となる。

 2000年以前の普通借家契約は法定更新によって借家人から申し出が無い限り自動的に契約は更新した。賃貸人側からの更新拒絶には正当事由が必要であり契約期間はあって無いようなものだった。しかし2000年に定借制度が登場するとその関係は一変する。

 定期借家制度では、一定の法律要件を満たせば契約は確実に終了する。そして、契約期間内の賃料増減額請求権も排除が可能となり、一度決めた賃料は契約期間内に変更できなくなったのである(もちろん民々協議は可能)。

 定期借家制度は、契約自由の原則という近代社会の概念に近づき、再契約のたびに新規賃料を決めるタイミングを作り出したのである。

 しかし、SC運営では、ここを理解しないまま歩合賃料とテナントコミュニケーションの発想を引きずることとなり、今があると言っても過言では無い。

 普通借家制度は、将来に渡り契約が終了しないため、交渉が難しい賃料改定をせずとも賃料収入を増加させる仕組みをSCは構築していく。

 それが固定変動制賃料、店舗巡回、テナントコミュニケーション、営業指導、接客ロープレなどの仕組みである。

 しかし、定期借家制度では、営業継続には再契約が絶対必要であり、そのタイミングでそれまでの売上状況に応じた賃料改定が可能になったのである(図表2)

定期借家制度は「どちらが汗をかく」か

 この話をすると一部の人から「固定賃料にすると貸しっぱなしになりSCのクオリティが落ちる」「これでは単なる不動産賃貸業であり管理業に後戻りする」という指摘がある。確かにSCの黎明期、固定賃料によって運営管理が疎かになり、SCの品質が上がらない時代があった。その反省から歩合賃料を導入し、テナントをイコールパートナーと呼び、運営管理業務もハンズオン型に変え、品質を上げていったのがSCの歴史であることは間違いない。ただ、この意見は普通借家時代の意識が変わっていない。

 契約期間が一年以上の定期借家契約では契約終了の1年前から半年前までの間に賃貸人から賃借人に対して終了通知をしなければならない(法38条第4項)。この時、賃貸人と賃借人の意思が問われる。賃貸人が再契約を希望するのか、賃借人が再契約を希望するのか、この強弱によって賃料は決定する。

SC賃料は需給のバランスで決まるため営業継続の意思が強い方が交渉は不利になる。

 要するに契約期間内にどれだけ実績を上げたのか(汗を流したのか)によって賃料は決まることになる。貸しっぱなしで売上も大して上がらなければテナントは契約を希望せず退店していく。これは逆も同じでテナントのパフォーマンスが高くSCに不可欠な存在であればSC側は強く再契約を希望する。

 定期借家制度は、双方に努力を促す仕組みをビルトインしているのである。

賃料はサブスクモデル

 不動産賃料はサブスクモデルに他ならない。一度契約すれば自動的に前家賃でキャッシュが入ってくるわけだが、コロナ禍、そのサブスクモデルと売上連動制がどれほど脆弱なものか気が付いたのでは無いだろうか。

  私はSCの賃料を「固定賃料にすべき」と言っているのではなく、「必然」であることを主張している。これまでのような村社会的運営管理でSCが生き延びて行く方がどれほど楽しいかしれない。しかし、歩合賃料を前提にした運営管理業務は固定費が高い。

ポストコロナ、SC運営管理業務のDXと賃料形態について定期借家制度やテナントの変化をもとに、再考する時期に来ている。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員。201511月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒