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手帳、腹巻、地球儀…ほぼ日のECはなぜ、大ヒットを連発できるのか?

「ほぼ日」。コピーライターの糸井重里氏が主宰するウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の通称を、聞いたことがない人は少ないだろう。1998年創刊のウェブメディアの先駆けでもある。

その「ほぼ日」のもうひとつの顔が、ECサイト「ほぼ日ストア」だ。年間75万部を売り上げる「ほぼ日手帳」をはじめ、ユニークなオリジナル商品や独自の視点でセレクトした商品を展開している。

商品の魅力とサイトのコンテンツ力の「両輪」がかみ合い、強固なファンコミュニティを築いているほぼ日。その独自のEC戦略について、ほぼ日(東京都/糸井重里CEO)の取締役商品事業部長の小泉絢子氏に聞いた。

国境のない地球儀「ほぼ日のアースボール」が大ヒット

各国の基本情報や、遺跡・動物の紹介など、19種類のコンテンツが楽しめるほぼ日のアースボール

     ほぼ日が202011月にリニューアル発売した「ほぼ日のアースボール」が好調だ。直径15センチの小さな地球儀「アースボール」にスマホやタブレットをかざすと、各国の国旗、気象状況から文化まで、あらゆる情報がアプリを通じて表示される。従来の地球儀の概念を覆す斬新さと使いやすさで、「日本文具大賞2021」の機能部門グランプリを受賞した。

   「通常の地球儀には国境が引かれていますよね。でも、国境というのは地域によって定義が異なります。ですので、あえて国境の表記を取り払い、情報の役割はアプリが担うことで、世界共通の地球儀にしました。文字どおり『アースボール』なんです」と、ほぼ日取締役 商品事業部長の小泉絢子氏は話す。

 2021年版でちょうど誕生から20周年を迎える「ほぼ日手帳」シリーズは、年間75万部(2021年版)を売り上げる看板商品だ。他にも「ほぼ日ハラマキ」や、2000年からのロングセラー「ほぼ日の永久紙ぶくろ」など、ユニークなオリジナルグッズを続々と生み出し続けている。

 「1998年に『ほぼ日刊イトイ新聞』を創刊した当初から、糸井の方針で『ウェブ広告を取らないメディア』にすることを決めていました。ただ、配信を続けていく中で、『これだけ毎日コンテンツを配信して、どうやって運営しているの?』と読者も心配してくれるようになりまして。いかに広告に頼らずに収益を確保するかという課題の中で、読者に向けてグッズ販売がスタートしたという経緯があります」(同)

時代を超えた商品の価値に光を当てる

素材もデザインも豊富なほぼ日ハラマキ

 「ほぼ日ハラマキ」も、2001年の販売開始以来、女性を中心にファンの根強い支持を集める人気シリーズのひとつだ。300を超えるカラフルなデザインを取りそろえている。

 「腹巻って、本来はお腹を温めるいいものなのに、なぜか身につけることが恥ずかしいと思われていますよね。だから、デザインもおしゃれで、女性も身につけたくなるような腹巻をめざして作っています」(小泉氏)。

 ユニークな商品企画のポイントを尋ねると、「流行を追うより、その商品の持つ魅力や価値に光を当てたい」と小泉氏は語る。

 「お腹を温めてくれるのは、きっといつの時代の人にとっても嬉しいはずですよね。そういった時代を超えた普遍的な価値を見直したい。その思いを商品企画では大切にしていますね」(同)

買い物をしない人も出入り自由の「“ゆるい”コミュニティ」

9月から発売される2022年版のほぼ日手帳

 商品企画のユニークさに加え、ほぼ日のもうひとつの強みはなんといっても、1998年の創刊以来、毎日配信を続けているサイトのコンテンツ力にある。ECサイト「ほぼ日ストア」でも、ほぼ日手帳をはじめとする商品の開発工程や、読者が使用した感想、アレンジ方法などを記事にして配信することで、ファンとのコミュニケーションを図っている。

 「ほぼ日という会社は、一言で言うと『コンテンツを生む会社』。私たちにとっては、モノをつくることや売ることも『コンテンツ』なんです」(小泉氏)

 そのコンテンツづくりにおいて意識しているのは、「お買い物をしない人も楽しめるようなECにしたい」(同)ということだ。

 「読者に楽しんでもらうこと、喜んでもらうことが、私たちにとっては収益よりも圧倒的に優先度が高い。『ほぼ日手帳』のユーザーはもちろんですが、仮に使ったことがない人でも、他の人がどのように手帳を使っているのか、アレンジを工夫しているのかといったことを、楽しく読めるようなコンテンツ作りをめざしています」(同)

 「参加を強制したくない」との思いから、会員制度やロイヤルカスタマーへのインセンティブなどは設けず、「ほぼ日から離れていた人も戻ってきやすい“ゆるい”コミュニティづくり」を重視しているという。その“ゆるさ”が、ほぼ日手帳の売れ方にもユニークな現象を生み出している。

 「ユーザーの中には『ほぼ日手帳を3年ぶりにまた使うことにしました』という方もいます。ほぼ日手帳からしばらく離れていたユーザーがまた戻ってきて、ほぼ日手帳を再び使ってくれる動きもあるんです」(同)

サイトづくりも商品企画も、フラットさを重視

 ユーザーもそうでない人も楽しめるサイトづくりが、結果として看板商品の高いリピート率につながっている。ほぼ日手帳もそのひとつで、年間75万冊(2021年版)もの売上は多くのリピーターに支えられている。

 「私たちが販売する手帳は、まだ白紙の『ゼロ』の状態。そこから365日使うのは実際に購入したユーザーで、手帳の使い方やアレンジの仕方について多くのフィードバックを頂いています。そのフィードバックが新たな記事になったり、商品開発に活かされる。ユーザーも商品づくりに参加しているのです」(小泉氏)

 ファンとのコミュニケーションに注力する一方で、決して囲い込みをしたり特別扱いをせず、排他的な空気をつくらない。このフラットな環境を大切にする姿勢が、サイトづくりだけでなく、商品企画にも表れている。

 「商品企画でも、ガチガチのプレゼンなどは行いません。『こういう商品を作ってみたいんだけど……』というアイデアの種を、隣にいる同僚にぼそっと話すところから始まって、みんなで『こうしたらいいんじゃない?』とワイワイ雑談しながらその種を育てていく。そういった、誰でも自由にアイデアを出せる環境を大切にしています。これは、創業当初からの糸井の想いでもあります」(同)

 国境を取り払った「アースボール」のように、顧客とのコミュニケーションにおいても社内環境においても、買う人と買わない人、ベテランと若手という「ボーダー」を排除する。フラットで“ゆるい”コミュニティを築いてきたことが、ほぼ日が20年以上にわたって息長く支持される秘訣なのだろう。

 「20年前に生まれた赤ちゃんの育児日記だったほぼ日手帳を、その子がお嫁に行くときにプレゼントするようなことも、今後はあるかもしれません。そうなったらもう感謝しかありませんね」(同)

取締役 商品事業部長の小泉絢子氏