IT化にいち早く着手し、ビジネスモデルの転換、非衣料・非繊維化、グローバル化と進化を遂げてきた綜合繊維メーカーのセーレン。原糸から最終製品に至るまで、国内での「一貫生産体制」にこだわる。ITを活用した独自技術を駆使し、トレンドを先取りした素材、製品企画によって市場のニーズにフレキシブルにスピーディに対応する。そのセーレンが新たに挑戦しているのが、パーソナルオーダーである。セーレンが提供するパーソナルオーダーの醍醐味とは何なのかをセーレンの営業を担当する、大塚正敬氏に話を聞いた。
IT技術で一着ずつ柄プリント、47万通りから選ぶパーソナルオーダー
―47万通りから選ぶことができるそうですね。
大塚 2015年に立ち上げた『ビスコテックスメイクユアブランド』は、デジタルを活用し、シルエット・柄・色・サイズをカスタマイズして好みの一着を選ぶことができるパーソナルオーダーシステムです。
パーソナルオーダーを取り入れているブランドはいくつもありますが、これだけ豊富なデザインを展開、かつ一から生産まで行っている会社はありません。『ビスコテックスメイクユアブランド』が画期的なのは、注文をいただいてから、真っ白の生地に一着一着プリントしていくところです。
これは、当社が30年前から行っている独自技術『Viscotecs(ビスコテックス)』によるもので、このビスコテックスに最新のIT技術を掛け合わせることで、実はパーソナルオーダーのデザインは無限大に作り出すことができるわけです。
もう一つの特徴は、47万通りから選んだ一着を、バーチャルフィッティングによって瞬時に試すことができること。コロナ禍でECサイトでの買い物する人が増えている今、家にいながらあれこれ試していただき、最終的には「これぞ」という“運命の一着”を作り上げることができるようになっています。
現在は女性のワンピースが中心で、中心価格帯は6~7万円。3週間でお届けが可能です。縫製から製造まですべての工程を日本国内の自社グループで行っています。
―繊維メーカーの御社が、なぜ自社ブランドを立ち上げることになったのでしょうか?
大塚 『ビスコテックスメイクユアブランド』の理念は、「短納期」「小ロット」「在庫レス」。大量の過剰在庫を抱えるのが当たり前のファッション業界において、“大衆ビジネス”の時代は終わりを告げ、今後はカスタマイズが可能な“個衆ビジネス”に移っていくだろう、と考えています。
中でも、ファッションへの関心が強く自分に似合う洋服を吟味して購入する女性にとって、他と同じではない、自分だけの一着を手にしたいという時代が来るだろうと確信しています。
当社独自の「ビスコテックス」という生産方式は、IoT・AI・ロボットの活用によって、ハイレベルの「小ロット・短納期」と「低コスト」を両立します。今後、ファッション業界の流通を大きく変える、個のビジネスへと変化していったときに「ビスコテックス」はさらに大きな強みとなるはずです。
とは言っても、現状『ビスコテックスメイクユアブランド』はまだまだ一部のお客さまにしか知られていない。地道に認知を拡げていく活動が必要だと思っています。また、価格を抑えていくことも課題です。
「作ったものを売る」ではなく、「売れるものだけを売る」
―国内で縫製から製造、販売まですべて行っているそうですね?
大塚 実は10年以上前からデジタル技術を活用したパーソナルオーダーの方式にチャレンジしてきているんです。たとえば、スポーツのチームユニフォームの製作、既製品が合わないというケースが多い水着や浴衣など、さまざまな分野で試行錯誤を繰り返してきました。
一方で、SDGsを達成するために「在庫を持たずにお客さまの声にいかに応えるか」を追求してきました。当社が30年前から行っている独自技術は、個別デザインの生地の在庫をもつ必要が一切ない。真っ白の生地さえ持っていれば「必要なときに、必要な分だけ生産」することで、「在庫レス・廃棄ゼロ」に貢献します。
さらに、縫製から製造、販売までのすべての工程を、自社グループ内で一気通貫で対応できる体制が確立しています。国内の自社工場でお客さまのお好みのデザインを一着から作ることができる。これこそが、「短納期」「小ロット」が実現できる理由です。
また、素材メーカーとして今売れている素材がリアルタイムでわかるのも強み。自社ブランドを拡げていく上で大きなアドバンテージになります。また、お客さまがお求めであれば、天然繊維でも合成繊維でも、分厚い生地でも薄いレース生地であっても、どんな生地にもお好みのデザインを表現する技術がある。フレキシブルに対応できる、これもセーレンの強みだと思っています。
バーチャルフィッティングで、“運命の一着”を作り上げるワクワク感を提供
―販売状況はいかがでしょうか?
大塚 2015年のスタートから累計で、販売数は1500~1600枚程度。現在、新宿高島屋、名鉄名古屋に出店しています。ECからの発注も可能となっていますが、現状はこの店舗を通じての販売が大半を占めている状況です。
本来のターゲットは30代、40代ですが、高価格帯ということもあり実際は50代以上のお客さまがメーン。特に、新宿高島屋は高所得層のお客さまが中心で、ただモノを買うだけでなく、出来上がるまでの時間を楽しむという体験に価値を感じてくださる方にご支持いただいているのが特徴です。
バーチャルフィッティングで、脱ぎ着せずに好きなだけ試すことができること、外部のスタイリストに接客スタッフとして参加してもらいスタイルアップの提案をしていることなどにより、店舗では『ビスコテックスメイクユアブランド』の認知は確実に上がっています。今後は、ワンピースだけでなく、チュニックやパンツなどにも拡大していく予定です。
―具体的なオーダー方法は?
店舗でははじめにお客さまの全身写真を撮影します。デザインのスタートは、シルエットを選ぶところから。次に、気になる柄、色、サイズを選んでいくと画面上に等身大の自身の姿として映し出されます。このバーチャルフィッティングの機能によって、好きなだけデザインを変更しながら「これだ!」というぴったりの一着を見つけるまでのプロセスを楽しんでいただくことができます。
体験価値を提供しリピーターになってもらう
―今後の戦略について教えてください。
大塚 広告の効果は一過性にすぎないと考えているので、考えていることは2つです。
1つ目は、顧客開発。自分だけの一着を作るという体験に価値を感じてくださるお客さまに、リピーターになっていただくことです。一部はじめているデニムやゴルフパンツなどの商品展開、アイテムの拡大も進めていきます。
2つ目は、ECへの誘導。店舗で買っていただいたお客さまをECに誘導し、ECサイトの認知度を上げていくこと。価格を下げることも必要だとは考えていますが、大量生産のビジネスモデルとは一線を画す以上、付加価値を打ち出して魅力を感じていただくことの方が大切だと考えています。
現在、全国に200店舗を持つレリアンに『ビスコテックスメイクユアブランド』のパーソナルオーダーシステムを提供しています。今後も要望があれば新たな提携なども検討していく予定です。