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1年で1兆円企業に、ECでZARAを圧倒する中国 Shein(シーイン)の秘密に迫る 原材料費・関税ゼロの衝撃!

1兆円を超える売上高を誇るアパレル企業でありながら、その中身はおろか多くのビジネスパーソンはその名前すら知らない。しかし、メーンターゲットである世界のZ世代には絶大な支持を得て、急成長するブランド。それが中国の越境EC企業、Shein(シーイン)である。同社とダイレクトコンタクトに成功。その安さを実現する驚異のサプライチェーンと恐ろしく効率的なマーケティングが融合したビジネスモデル を詳かにしよう。

不気味な中国企業 Shein(シーイン)

Shein(シーイン)—
いま、欧米のメディアや、日本でも10代女子でこの企業、ブランド(ブランド名はSHEIN)を知らぬものはいない。なぜなら、1年で売上を倍増させ、すでい1兆円企業の仲間入りを果たし、米Bloomberg誌で「ファストファッションの帝王」として紹介されたからだ。日本では、SDGsばかりが取り上げられ、ファストファッションは悪の権化のように言われているが、世界に目を向けると、新・ファストファッションの帝王 Sheinは急成長している。

 私が中国ネットワークを使い、このSheinについて聞いたところ、誰もが「知らない」と答えた。実は、この企業は「中国臭さ」を消したSNS戦略をとり、ステルス・マーケティング (あからさまな宣伝ではないようなマーケティング手法) を行い、オーストラリアを中心に、中国以外の国のZ世代と呼ばれるデジタル世代の定番となっている。彼らは、オンラインの売上だけでいえばすでにZARAを抜かし、いずれ世界一になるだろうと世界のビジネススクールの研究者達は言っているようだ。

 彼らのビジネスモデルは独特だ。Sheinの創業者 Xu Yang Tianは、 2008年 サーチエンジン開発のデジタルマーケターからキャリアをスタートしたファッションに興味の無いエンジニアだった。

私は3年前、「アパレル企業の未来、7つの予言」の中で、「未来のアパレル企業はエンジニアが雇用される」と予言しているが、まさにエンジニアがアパレル企業を創る時代になったのだ。

 さて、Sheinのビジネスモデルの秘訣をまとめると以下の4点となる。

 その驚くべき詳細を順を追って解説していく。

 

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輸出入関税・原材料費ゼロのサプライチェーンの秘密!

まず1と2は、データ活用による世界中の「流行分析」とマーケティングだ。我々が普段使っているレベルを遙かに超える、いわゆるウルトラ・ビッグデータといっても良い巨大データ分析と活用だ。Sheinは、デザイナーの思う感じるを廃し、企画やデザインを徹底したビッグデータ分析で行っている。

 世界中の国のエリア傾向、そして、一(いち)消費者の購買動向までを分析し、巧みなSNSによるウエブ誘導と、生産サイドである工場の出荷状況から得られる得られるビッグデータと掛け合わせ、「流行の服」を恐ろしいほどの短期間で開発しているのである。これも、私が3年前から提唱しているデジタルマーチャンダイジングのコンセプトと同じだ。

もともとデジタルマーケ会社から発展した企業。こんな芸当は朝飯前なのだろう。

34については、筆者独自のルートで中国広州の取材により得られた二次情報である。

 アパレル業界にいる人なら理解できるだろうが、中国の工場には日本、世界のアパレルが残した残反や糸などの「簿価ゼロ在庫」が山のように残っている。この残反は、日本を例にしていえば、繰り返しなされる無駄なサンプリングによる調達ミニマムロットと現物素材の「量差」である。工場は通常、R&D費用に乗せて薄めるが、フェアな工場の場合はFOB (アパレル企業が調達する仕入単価)に乗せている。

知らぬはアパレルだけで、自らがQR (Quick resuponse)を行っていると信じているが、実は、小口生産や分割生産は極めて非効率で、このような反物が山のように残り、アパレル原価を押し上げているのだ。例えば糸の原糸のミニマムロットは5トン 5000kgs。イタリアから染め糸を買っても15kgs (服は一着300グラム)は必要だ。

こうした現実を知らず、SDGsは大量生産が原因だ」などと書いている評論家が後を絶たないが、私から言わせれば業務を知らないにもほどがある。小口生産や分割生産こそが、世界で不要な在庫を増大させて中国に山のように残反を残しているのである。商社の人なら倉庫に山のように積み上がった簿価ゼロ反物を何度も見た経験があるだろう。Sheinは、その素材を使っているようだ。つまり、世界のアパレルがSheinのために素材コストを立て替えていることになる。

輸出入関税、無税化のカラクリ

さらに、恐るべきは、中国の輸出、および、米国の輸入関税の無税化である。実は、世界で繊維製品に関税をかけていない国はない。徐々に撤廃しているとはいえ、繊維、アパレル産業は、国の発展段階における初期段階の重要産業なのである。しかし、loopholeと呼ばれる税金の穴が存在する。例えば、中国のような共産主義国は一般的に外貨が国から出て行くことを嫌がり独自の関税を設けている。それは、外資系企業が中国で販売をする場合にかかる税金だ。このため、中国に出荷子会社をつくり中国から輸出をしているようにみせ無税にしている企業が多い。Sheinも本来中国で販売すればよいのだが、マーケティング的に「中国臭さ」を消すため、あえて輸出(外貨の流出)を両立させるため中国の国内販売をしていないのである。

さらに、米国の輸入税にしても、店頭へのバルク配送でなく、フェデックスなどの国際郵便を使った一般消費者への個別配送という小口貨物を使用。つまり「消費者が個人輸入する」という形をとっている。

broombergによると、米国輸入の個配(個人への配送)には輸入税がかからない抜け穴が存在する、と記載されている。例えば、無敵のZARAは店舗ごとにバルク配送をしており、また、その誰もが知っている名前によって、高額な輸入税をかけられているのだが、Sheinは無店舗であるがゆえ、無税となっているわけだ。これによりSheinとしてのコスト負担は米国学者によると「誰も追いつくことができない」ということになる。つまりSheinはオンラインによる2C(対個人)ビジネスにより、中国からの輸出税、米国への輸入税を逃れ、極めて安価なコスト構造と販管費を実現しているわけだ。

フェデックスなどの国際郵便は高額だと思い込み、中国での混載(小口貨物をまとめてコンテナーで配送する手法)を日本企業は採用しているが、ZARAをはじめ、国際郵便と包括契約をすることで、彼の地の一般消費者にダイレクトに低コストで配送することは世界では常識である。例えば、日本の商社はすでにこうしたことをやっている。

このSheinの恐ろしさは、原材料と貿易関税が無税になるという低コスト構造と、「中国臭さ」を消しインスタなどSNSを利用してZ世代に爆発的な支持を受けるも、われわれオジさんは誰もしらないというターゲティングが明確化された効率的なマーケティングが巧みに融合している点だ。

アメリカの投資家が列をなしてSheinに投資を行っている事情もよく分かる。今、ビジネスモデルがしっかりしていれば、金は湯水のように集まってくるのだ。

ちなみに、日本のDXが進まない理由として、「トップがデジタル音痴」「業務の標準化をやらない」という意見が判を押したようにでてくるが、私は技術と業務を連携したマーケティングから流通を一気通貫したビジネスモデル全体を描く力がないこと」が、DXが遅れる最大の原因ではないかと思う

その点Sheinは、マーケティング、流通、ものづくりの全てにデジタル技術を使い、また、それを業務の流れと見事に連携させている。これに対して、日本企業のDXは、すべてがバラバラで個別対応だ。

世界のZ世代で人気沸騰 Sheinは日本で成功するのか

さて、こうした状況を鑑み、この突然変異のユニコーン企業が日本語対応をし、日本市場に攻めている。果たしてSheinは日本で成功するのだろうか。私の答えはNOだ。「ただし、この5年は」という条件つきである。

実は、私自身、この論考を書くに当たって(当然であるが)幾枚かの商品を購入しているのだが、それらのほとんどが、「それなりの商品」だ。アメリカ、オーストラリア、メキシコなどで事業を展開しているというが、こうした国、あえて云わせてもらえれば「服にあまり関心の無いような国」で売れるという事情がよくわかる。以前紹介したAmazon Essential(アマゾン・エッセンシャル)以上の酷さである。

日本、韓国、そして、イタリアは、歴史的ファッション先進国で、特に日本では無敵のユニクロ、g.u.など、圧倒的コスパを実現した日本品質の服を山のように販売し、また消費者は、それらに慣れている。しかし、このSheinの服は、われわれ日本人にとっては「残念な品質レベル」だ。当面は、その格安な値段と中国臭さを消したマーケティングで、アジアで拡大してゆくだろう。同社の商品は、縫製は粗く素材はペラペラ。まるで、経営破綻したフォーエバー21を彷彿させる品質だった。これでは、品質にこだわる日本市場の解錠は当面無理だろうと思う。

しかし、私たち年寄りが想像もつかない「Z世代」にもこの考えがあてはまるかというと、クエスチョンマークだ。世界はますますフラット化し、年寄り的に言えば、洋服文化は破壊されている (変わっている)。また、われわれが思い描く未来像は5年後までで、それ以降は何が起きるかわからない。徹底したマーケティングと唸るほどの金があるSheinが、弱り切った日本のアパレルにM&A攻勢をかけ、ファッション先進国向けの品質技術を持つことは想像に難くない。この5年で同社による「日本買い」が増えるだろう。5年以降も、日本が「ファッション先進国」であり続けるというのは、私たち老人のおごりかもしれない。

 

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Sheinのビジネスモデルは日本が原型か?

本論考をよみ、勘の良い方であれば「Sheinのビジネスモデルの原型は、20年前の日本にあった」と指摘するだろう。このSheinのビジネスモデルは、日本の渋谷カルチャーといわれる「マルキュー」ファッションと同じなのだ。

Sheinのビジネスモデルは、かつて一世を風靡したマルキューブランドのそれと類似している

ここで、「マルキュー」のビジネスモデルを知らない若い世代を対象に、おさらいをしたい。「マルキュー」とは、渋谷109のギャルファッションである。エゴイスト、バロックジャパン、(今は無き)CECIL McBEEなど、日本だけでなく世界で評価されたセクシーカジュアル(本人達はアメリカンカジュアルと呼んでいる)マルキューファッションは、Sheinと全く同じビジネスモデルなのだ。

「マルキュー」ファッションは、店頭に立つカリスマ店員と呼ばれるギャルの頂点に立つ女子達が、その店員に憧れる消費者を接客し、感じ入ったファッションを韓国東大門の「残反」を使って、現地生産。ハンドキャリーで日本に持ち帰り渋谷109で売るというものだ。この「マルキュー」ビジネスが成功した要因は、まさに、販売員と消費者、生産者が同じ人格でブレがないということだ。私は当時の論考で盛んに、「サプライチェーンというのは、ITのソリューションの名前でなく、この『マルキュー』ビジネスを擬似的にシステムを使って成し遂げることであると述べていたことを思いだす。

この「マルキュー」ビジネスを、Sheinに当てはめれば、すべて説明がつく。カリスマ店員が感じた感覚を、Sheinはビッグデータアナリシスでやっているし、カリスマ定員の奇抜なファッションによるメディア露出は、今のSNSを使った動画配信と原理は同じだ。さらに、残反を使ったコストセービングからハンドキャリーによる個配など、私は、この謎に包まれたSheinのビジネスモデルの原型は、日本のマルキューにあるのではないかという仮説をもっている。考えてみれば、マルキュー文化の権化、バロックは中国企業になってしまったようだ。

我々は、もう一度、顧客起点のサプライチェーンとは何か、そして、デジタル技術は、こうした人がやれることを世界的に展開するなど、全体設計があってはじめて成し遂げられるという俯瞰力が必要であることをSheinから学ぶべきだろう。

次回は、こうした世の中の潮流の中で、以下にオールドエコノミーと化した企業が生き残るのか、その戦略について語りたい。

 

プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)