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森永乳業 代表取締役社長 宮原 道夫
乳で培った技術を生かし健康で豊かな社会に貢献する!

今年9月に創業100周年を迎えた森永乳業(東京都)。次の100年に向けてスタートするにあたり、新たに森永乳業グループの経営理念体系・スローガンを策定した。乳で培った技術を生かし、健康で幸せな生活に貢献し豊かな社会をつくることをめざす同社の成長戦略について、宮原道夫社長に聞いた。

次の100年を見据え、「夢共創理念」を策定

みやはら・みちお●1951年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科修了。75年森永乳業入社。以降、 一貫して技術畑を歩む。97年同社東京多摩工場製造部長。2001年盛岡工場長。03年執行役員生産技術部エンジニアリング担当部長。06年常務執行役員生産本部長。07年専務取締役。09年取締役副社長。12年代表取締役社長

──森永乳業は創業100周年を迎えました。設立の経緯を教えてください。

宮原 当社は、今から100年前の1917年に日本煉乳株式会社として設立されました。背景には、14年に森永製菓によって発売された「森永ミルクキャラメル」の爆発的ヒットがあります。

 当時、日本の酪農は規模が小さく、生乳の生産量もわずかでした。そのため、キャラメルの原料となる練乳の需要を満たすことができず、ほとんどを輸入に頼っていました。そのような状況のなか、第1次世界大戦の影響で輸入が途絶え、国内の練乳が不足したことから、国内生産に踏み切ったのです。また、明治時代から始まった国力増強のための酪農振興の意義に深く共鳴し、それに貢献したいという想いもありました。

 その後、森永製菓との合併・分離を経て、49年に現在の森永乳業が設立されました。67年には、森永商事の乳製品販売部門を譲り受け、今日に至っています。

──創業100年という節目の年に、森永乳業グループ理念を新たに策定しました。

宮原 創業以来、当社は「栄養」という面で社会に貢献してきた企業だと自負しています。21年には育児用ミルクの「森永ドライミルク」を、29年には「森永牛乳」を発売し、これらを大きな柱として事業を展開してきました。

 現在、日本は世界でも有数の長寿大国となりました。医療技術の進歩のおかげですが、戦後の健康を支えたのは肉や牛乳であり、これらを摂取する習慣が日本人の寿命を延ばしてきたと言っても過言ではありません。当社の商品もその一翼を担ってきたのではないでしょうか。

 これからの時代、企業は「社会性」や「公共性」がなければ生き残ることはできないでしょう。今まで以上に、世の中に必要とされる企業であり続けたいと考えています。次の100年に向けて、そうした想いをよりわかりやすい言葉で表現したのがコーポレートミッションの「夢共創理念」です。

 コーポレートスローガンの「かがやく“笑顔”のために」の「笑顔」という言葉は、当社ならではの「おいしさ」や「健康・機能性」といった価値を通じて、最終的に社会にお届けしたいものを表しています。そしてそれは、健康で幸せな生活のなかから得られる、一生涯にわたる「笑顔」です。

 今回、新たにグループ理念を策定するにあたり、経営層だけでなく、社員も加わってつくりました。「夢共創プロジェクト」という名のもと、社員参加型のフォーラムや社員アンケートなどを通じて、実現したい未来を共有しながら、約1年をかけて形にしていったのです。それが、「乳で培った技術を活かし、私たちならではの商品をお届けすることで、健康で幸せな生活に貢献し豊かな社会をつくる」という経営理念です。そして、それを実現するための8つの行動指針も策定しました。森永乳業の商品を食べれば、栄養になる、健康になれる。お客さまにそう思っていただくことが、当社のめざす姿です。

50年以上ビフィズス菌を研究、健康に寄与する商品づくり

──森永乳業の商品は多岐にわたっています。商品開発についてどのように考えていますか。

宮原 ひと言でいうと、「長年の研究で培った技術を活かして、時代のニーズに合った商品を開発してお届けしていく」ということです。

 そのきっかけとなったのが、育児用ミルクの発売です。当時の育児用ミルクは品質向上が進んでいなかったため、育児用ミルクで育った赤ちゃんと母乳で育った赤ちゃんを比べると、発育状況も病気にかかる割合も差がありました。そこで、育児用ミルクの栄養成分を母乳に近づけることに取り組むと同時に、赤ちゃんがより健康に育つための機能性成分の研究も進めました。

 地道な研究の結果、母乳で育った赤ちゃんの腸内には、善玉菌の代表格であるビフィズス菌が圧倒的に多いということがわかりました。そして発見されたのが、ビフィズス菌BB536です。また、母乳に含まれる機能性成分、ラクトフェリンも発見しました。これらは赤ちゃんのよりよい健康のために、乳の力を深く探求していった成果であるといえます。

──現在、世界的に話題となっている「腸内フローラ」の研究を他社に先駆けて取り組んできたのですね。

宮原 当社では赤ちゃんの健康を保つカギとして、50年以上にわたってビフィズス菌を研究し続け、さまざまな機能性を明らかにしてきました。

 2007年頃から、「次世代シーケンサー」という装置が世界的に普及しました。複雑な腸内細菌の遺伝子配列などを網羅的に解析することができる遺伝子解析装置のことです。これにより、腸内フローラの解析技術が大きく進歩しました。当社は、日本の食品メーカーのなかでいち早く次世代シーケンサーを導入し、腸内フローラの研究に役立てています。どのような腸内細菌が、どのように好影響あるいは悪影響を与えるのか。さらに深く探求し、商品開発に生かしています。

──商品開発で今、力を入れている分野は何ですか。

宮原 超高齢社会の日本では、健康寿命の延伸が重要な課題となっています。その観点からいうと、運動機能維持のためのたんぱく質摂取を補助する商品、生活習慣病予防に役立つ商品、アンチエイジング効果をもつ商品などに潜在的なニーズがあると考え、力を入れています。

 また、ビフィズス菌BB536をはじめとした腸内フローラ改善の研究や商品開発は、赤ちゃんから高齢者まで、それぞれの世代の健康に寄与するものです。当社がもつ素材や技術を生かして、お客さまのニーズに合った商品開発に取り組んでいます。

──具体的にはどういった商品がありますか。

宮原 たとえば、「ラクトフェリンヨーグルト」や「アロエステ」といった機能性ヨーグルトが挙げられます。このカテゴリーについては、今後、新商品を含めてさらに強化していく予定です。デザートでは「おいしい低糖質プリン」が、ロカボを実践する方から支持をいただいています。

 また、今春より全国発売している「森永乳業のサプリメント」は、長年のミルクの研究から見出した当社の独自素材を配合したサプリメントシリーズです。

 ほかにも、通信販売チャネル限定になりますが、大人向けの粉ミルク「ミルク生活」が挙げられます。カルシウムや鉄分の補給に加えて、ビフィズス菌BB536、ラクトフェリン、シールド乳酸菌、中鎖脂肪酸などを配合しており優れた商品です。

 シールド乳酸菌といえば、生菌ではなく加熱殺菌体でも免疫賦活効果が期待できるため、加工食品に取り入れやすいことから、BtoB(事業者向け)向け素材として、菓子類や加工食品、飲食店メニューなど、幅広い業態で取り扱っていただいています。この9月には当社からシールド乳酸菌を配合した「乳酸菌と暮らそう」シリーズを発売します。飲料、デザート、アイスクリームなど、カテゴリーの垣根を超えて展開する予定です。


──時代のニーズに合った商品を提供していくために、どのような開発体制をとっていますか。

宮原 現在、大きく分けて4つの研究所を置いています。まず、基礎研究所では、食が果たすべき社会の課題に挑戦し、将来の礎を築くイノベーションを推進しています。腸内フローラやペプチドの研究などがその代表例です。

 次に、素材応用研究所では、「おいしさ」や「健康」の価値を高める素材の応用可能性を幅広く追求しています。2年前に基礎研究所から独立した部門で、主にBtoB向けの独自素材を国内外のユーザーに向けて提供しています。

 3つめの健康栄養科学研究所では、粉ミルクと流動食を二本柱にしています。赤ちゃんから高齢者までのさまざまな分野における健康栄養科学食品の開発に取り組んでいます。

 そして食品総合研究所では、ヨーグルトやチーズ、アイスクリームなどを中心に、独自の技術を結集させながら、お客さまの期待に応えられる商品開発に力を注いでいます。

 これら4つの研究所に加え、応用技術センターではお客さまの視点で商品を使い、レシピ開発や商品評価などを厳しく行っています。

「オール森永乳業」としてさまざまなチャネルと連携

──人材戦略についてはどのように考えていますか。

宮原 競争が激しく、環境の変化も速い現在、時代に即した対応力を発揮するためには、組織の壁をなくし、部門間の遠慮を排除して、「オール森永乳業」として力を結集する必要があります。また、前例主義や現状維持といった思考から抜け出し、新たなチャレンジや変革も進めていかなければなりません。

 これまでどちらかというと、縦割りの組織で、ほかの部門への遠慮が大きかったことから、横の連携がスムーズにできるように、部門を横断するプロジェクトを走らせ、全社を上げて取り組んでいます。先述した「夢共創プロジェクト」はその好事例です。チームワークを発揮するためには、なによりもコミュニケーションが重要です。「仕事のリレーゾーンをもて」とよく言うのですが、バトンを次の相手にうまく手渡すことができれば、予想を上回る成果も上げられるはずです。

 さらに、社員一人ひとりにやりがいを持ってもらうことも大切です。仕事というのは、大きな責任が伴い、厳しいものです。しかしながら、「この仕事によって、お客さまに喜んでいただける、社会に貢献できる」といったことを意識することで、誇りややりがいが生まれると思います。

 「かがやく“笑顔”のために」というコーポレートスローガンは、お客さまに笑顔になっていただくことを願っていますが、そのためにはまず社員自身がかがやく笑顔にならなければ、お客さまに価値を提供することはできないでしょう。

──チャネル政策についてはどのように取り組んでいますか。

宮原 当社の独自技術を使った商品の数々を、さまざまなチャネルでお客さまに広く届けたいと考えています。ですから、量販店、コンビニエンスストア、ドラッグストアなどはもちろん、牛乳販売店からお届けする宅配チャネルや、お客さまに直接お届けする通信販売チャネルなどを積極的に開拓しています。

 とくに最近では、新聞配達店や郵便局と協業するなど、宅配チャネルに新たな動きがみられます。通販チャネルはここ数年で大きく伸びており、今後も注力していく考えです。

 また、当社の商品を原料として使っていただくBtoBチャネルも重要です。乳業というカテゴリーにとらわれることなく、あらゆるカテゴリーの商品を通じて、当社の価値をお客さまにお届けすることができるという意味で、当社の企業理念に合致したチャネルといえるでしょう。

──今後どのように成長していこうと考えていますか。

宮原 これからの日本は少子高齢化が進み、今以上に「健康」「栄養」が消費のキーワードになっていくと思われます。長年の研究で培った技術を生かして、当社ならではの価値をお届けすることで、心と体の両面からお客さまの健康を支えていきたいと考えています。

 今やチャネルは、企業、小売業、地域、大学、病院などが一体となって、コミュニティ化する傾向にあります。たとえば、大学の先生を招いての健康セミナーを開催して、購買につなげるといったコラボレーションです。こうしたプロモーションは徐々に増えてきています。

 お客さまと一番近く、ダイレクトな接点をお持ちの小売業の方々は、私たちメーカーよりも有益な情報を多くお持ちです。だからこそ、互いに協力しながら、よりよい商品を提供することで、社会に貢献し、成長していきたいと考えています。