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丸善の書店営業利益率が「たったの0.1%」でも経営は安泰の理由

2020年、新型コロナウイルス感染症拡大による巣ごもり消費やコミック「鬼滅の刃」「呪術廻戦」の大ヒットで、久しぶりに明るいニュースが多かった出版界。その一方で、書店閉店はとどまることなく、年数百店ペースで姿を消しているのが現状だ。そんななか、書店はこれまでの「本だけを売る小売業」ではなくなってきている。販売する商材や稼ぎ方も変化。既存の画一的なビジネスからの脱却をめざす書店チェーンの今を追。第1回は、丸善、ジュンク堂という老舗書店を展開するも、書店事業の収益性は極めて低い丸善CHIホールディングス。

丸善日本橋店

 書店ナショナルチェーン、丸善ジュンク堂書店

 本好きに「理想の書店はどこか」と聞けば「丸善」や「ジュンク堂」を挙げる人も多いことだろう。丸善CHIホールディングスの傘下として、同社の「書店・ネット販売事業」を営む丸善ジュンク堂書店(東京都)と淳久堂書店(東京都)は、丸善、ジュンク堂書店、MARUZEN&ジュンク堂の屋号で展開する。昨今は100坪後半から300坪程度の出店がよくみられるが、かつては1000坪を超える超大型店舗を出店したこともある。現在丸善グループの書店数は101店。丸善やジュンク堂の屋号ではないが、静岡地盤の老舗、戸田書店から事業運営を引き継いでもいる。一部地域に出店が少ないところもあるが、全国展開をしている書店チェーンといっていいだろう。

  前期212月期の決算をみると、書店部門「店舗・ネット販売事業」の売上高は670億円で営業利益は11200万円。コロナ禍の影響がさけられず売上は対前期比10%以上減、営業利益については同48%減と大きく落ち込んだ。決算資料によると、郊外の沿線にある店舗や地方書店は想定以上の売上があったものの、都市部中心部の大型店で客数が減ったことが影響したという。

  同事業の営業利益率はわずか0.1%。同じく株式上場している書店の三洋堂ホールディングス2.23%(213月期業績予想)、蔦屋書店を展開するトップカルチャー1.4%(2010月期)と比べ、大きく差が開いており、同業他社と比べてもかなり低い水準だ。

  それでも「丸善全体」としてみたときに経営自体は安定していると筆者はみる。書店の丸善は丸善CHIホールディングスの一小売部門で、その他の事業がしっかりと稼いでいるからだ。同社の事業セグメントは店舗・ネット販売事業のほか、文教市場販売、図書館サポート事業、出版事業、その他で構成されている。この文教市場販売、図書館サポート事業が同グループの収益の柱になっている。

 

書店と比べ営業利益率88倍! 図書館サポート事業とは

丸善丸の内本店

 文教市場販売、図書館サポート事業は大部分が図書館事業と考えてよい。事業子会社は、大学や研究機関向けの書籍販売や、それら施設の建築や内装設備の設計施工を手掛ける丸善雄松堂、公共図書館・大学図書館への書籍販売や納入する出版物の仕様に合わせた装備作業、書誌データを作成販売する図書館流通センター(TRC)の2社だ。

  211月期決算では、文教市場販売の売上が564億円、図書館サポート事業が303億円。足し合わせると867億円となり書店部門を超えている。営業利益をみても文教市場販売が299800万円、図書館サポート事業が266900万円。先の「店舗・ネット販売事業」の売上高、営業利益と比べるとその差は歴然としている。

  決算資料をみると、大学向け書籍販売や大学売店の売上は減収だったが、コロナ禍による電子図書館の利用者や大学のオンライン授業拡大の影響で、電子書籍や電子図書館の売上が伸長。衛生管理ツールとして販売してきた書籍除菌機も需要が拡大したという。

  むろん出版業界の慣例として書店の粗利益が低いこと、同期が新型コロナのマイナス影響を加味するとしても、グループ全体の事業構成をみたときに、図書館事業が大きく貢献をしているのかは明らかだ。

  とくにこのコロナ禍においては、地方公共団体の電子図書館サービスがにわかに注目され活用されるようになった。実はTRCは公共図書館への電子図書館サービス国内最大手。電子出版制作・流通協議会調査によると、電子図書館(電子書籍貸出サービス)を実施している自治体は205で電子図書館数201。そのうちTRCのシェアは9割近くになる。

  筆者が2010月にTRCに取材したときに、19年は1年で新規4館の増加だったが、20年は10月までに25館増。担当者の答えは、その10月においても「この1カ月で例年の1年分(の契約)がきている」だった。読書や学習支援のツールとして問い合わせが続いているとのことだった。感染防止のために来館をできるだけ控えてほしい公共図書館側が、地域住民へのサービスとして注目し急遽導入を決めた事例も多かったようだ。

  同業他社も同様の電子図書館サービスはあるが、TRCはその地域のニーズに合わせた独自コンテンツを提供して付加価値を高めている。一般的に、電子図書館で読めるデジタルコンテンツは、既存の出版社が刊行した著作物のごく一部や、著作権保護期間が終了した文学作品などを集めた「青空文庫」ばかりと思われがちだ。だがTRCは、その自治体の地域資料や、広報紙、郷土本も電子化し、地域住民の情報媒体として提供する支援もしている。ユニークな取り組みとして、和歌山県の有田川町立図書館は、地元小学生が書いた作文集を生徒自身が朗読した音声をデジタルコンテンツとして聞ける取り組みを行っている。

  また、TRCは公共図書館などから図書館業務の受託運営もしている。カウンター業務や書誌目録の作成、蔵書点検などを請け負う形だ。直近のグループ全体の受託館数は、学校図書館を中心に212月期初から187館増加し、1676館にまで伸長している(内訳は公共図書館553館、大学図書館223館、学校図書館他900館)。

  このようにしてみると、グループ全体でみると「書店の丸善」というイメージ以上に図書館事業が大きな収益源となっている。昨今、グループ書店においても度重なる緊急事態宣言による営業時間の短縮や、入居するテナントビルの方針によって営業ができない店舗もいくつかある。これはそのまま売上、収益減に直結するマイナス要因だが、この非常時に、書店の「本分」である店頭販売以外に、収益を得る方法があることは今後大きなプラス要素となってくることは間違いないだろう。