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好決算のヤオコー、明らかにしたDS業態「フーコット」の戦略と次期中計の中身とは?

ヤオコー(埼玉県/川野澄人社長)は5月11日、2021年3月期の決算説明会を開催した。コロナ禍に伴う巣ごもり需要の追い風を受け、増収増益記録を「32」に伸ばした同社。説明会では第10次中期経営計画も発表され、21年2月に公表された新業態「フーコット」の計画も明らかにされた。

オンライン形式で行われた決算説明会に臨んだ川野社長

32期連続の増収増益を達成!

 ヤオコーの2021年3月期連結業績は、対前期比10.3 %増の5078億円、営業利益は同13.0%増の224億円だった。経常利益、当期純利益も増益を果たし、32期連続の増収増益を達成した。ヤオコー単体の業績も、営業収益が同10.2%増の4421億円、営業利益が同11.1%増の197億円と増収増益となった。

 決算説明会に登壇した川野澄人社長は、好決算の要因を「一言で言えば、コロナ禍の巣ごもり需要」と説明する。感染対策でベーカリー売場のレジを閉鎖したことなどを要因に、既存店客数は同8.9%減と落ち込んだものの、バラ売り販売の廃止などにより1品単価が上昇。既存店客単価は同18.7%増と大きく伸長し、既存店売上高も同9.1%と強い伸びを示している。折り込みチラシの中止により広告宣伝費が減少したことも増益に寄与した。

 2021年3月期はヤオコーにとって、第9次中期経営計画の最終年となる。9次中計では、店舗数は当初目標に届かなかったものの、売上高・経常利益の目標は20年3月期に前倒しで達成。ここに巣ごもり需要が重なり、目標数値を大きく上回った。有力スーパーとして強さを見せつけた格好だが、川野社長は「チェーンの基盤づくりは進んだものの、店づくりの進化は停滞した3年間だった。商品開発も進んだが、まだ足りていない」と総括する。

第10次中計を発表!

 決算説明会の場では、9次中計に続く、3カ年の第10次中期経営計画も発表された。

 10次中計では、「ヤオコーグループ」としてめざす姿として「地域のすべての方々の食生活をより豊かに、より楽しく」という理念を掲げている。ヤオコーは以前より経営理念を定めているが、傘下のディスカウントスーパー、エイヴイ(神奈川県/木村忠昭社長)などを含めた、グループ全体での理念を設定するのはこれが初めてのことだ。

 「攻める3年にする」(川野社長)という10次中計の最大のテーマは「価格対応」。ヤオコーでは、コロナ後に予想される景気低迷を見据え、2020年からEDLP(エブリデイ・ロープライス)政策を中心とした価格対応を進めてきた。10次中計では、この価格対応のアクセルを踏み込む考えだ。

 「コロナ禍の経済への影響は甚大で、景気はこの先厳しくなるだろう。さまざまな業界で再編・淘汰が進むことが予想される中で、アマゾンやドラッグストア、コンビニエンスストアなどがシェアを伸ばそうとしている。この3年で、同業の中で抜きん出た存在になれなければ、強い他業種との戦いに勝てない」と川野社長は指摘する。

 同業他社との競争から抜け出すために取り組むのが、「2割強い店づくり」である。「2割強い店」とは、「同じ立地であれば、2割売上が高いお店が出来る状態」(ヤオコー決算説明会資料より)を指す。これを実現するため、10次中計では、4つの重点施策を掲げている(資料参照)。

出典:ヤオコー決算説明会資料


 10次中計では、最終年度となる2024年3月期に、売上高5156億円、経常利益238億円(いずれも連結)、売上高経常利益率4.6%、ROE10%以上を定量目標に設定している。3カ年累計の設備投資額は580億円(9次中計比で8億円増)となる見通しだ。

ディスカウント業態「フーコット」始動!

 さて説明会では、ヤオコーの新業態「フーコット」についても発表された。

 ヤオコーは2月1日に新会社フーコット(埼玉県/新井紀明社長)を設立している。「Food Cost Performance Market」を意味するフーコットでは、「商品の圧倒的な安さと鮮度、品揃えで満足できる店」という店舗コンセプトを掲げている。

 フーコットについて、川野社長は「エイヴイ業態をコピーして展開する」とコメント。22年3月期は、21年夏オープン予定の1号店「フーコット飯能店」(埼玉県飯能市)のほか1店舗、合計2店舗を出店するとしている。

 「エイヴイの物流を含めたオペレーションは横須賀のプロセスセンター(PC)から組み立てられている。フーコットも早いタイミングでプロセスセンターを稼働させ、5~10店舗の塊をつくりたい」(川野社長)。

フーコットは2021年夏に1号店をオープン予定(画像はヤオコー決算説明会資料より)

 なぜ、ヤオコーがディスカウント業態なのか。その背景にあるのは、中計でも言及された、コロナ禍による景気低迷への懸念だ。「(コロナ禍を背景に)欧州ではアルディやリドルなどのディスカウンターがシェアを伸ばしている。米国でも、ウォルマートが総合ストアのスタンダードと言えるポジションを確立しており、価格対応は今後必須となるだろう」と川野社長は話す。

 ヤオコーが商勢圏とする埼玉県では、生鮮食品を備えたドラッグストア、いわゆる「フード&ドラッグ」を展開するクスリのアオキ(石川県/青木宏憲社長)が店舗数を拡大させているほか、食品の低価格販売を武器に出店攻勢をかけるコスモス薬品(福岡県)もすでに埼玉県内に2店舗出店している(21年4月末時点)。また、オーケー(神奈川県/二宮涼太郎社長)やロピア(神奈川県/高木勇輔社長)などディスカウントスーパーも急成長中だ。これら有力プレイヤーと対抗するという意味でもフーコットにかかる期待は大きいはずだ。

 ヤオコーは10次中計でも「グループでの商圏シェアアップ」を掲げており、「ヤオコーとディスカウント業態を進化させることで地域のすべてのお客さまにご満足いただく」(決算説明会資料より)としている。ディスカウント業態の展開がシェア向上にどれほど寄与するか。まずは1号店の動向に注目だ。