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ローカル、エシブル、高収益にSDGs… 良品計画が新中期計画でめざす“独自の姿”と浮上する課題を徹底分析

「無印良品」を展開する良品計画は2021年4月、同社の21年8月期第2四半期決算発表に合わせて新中期経営計画の骨子を発表しました。「ESGのトップランナー」という言葉が掲げられ、最近話題のESG(環境・社会・ガバナンス)・SDGs(持続可能な開発目標)を意識した内容となっています。これを筆者なりに整理すると、従来の路線よりも個店ごとに「ローカル化志向」を強め、エシカル(ethical) & リーズナブル(reasonable)を掛け合わせた「エシブル」消費を担うグローバルな存在になり、さらに世界水準の高収益体質もめざすということになります。
今、なぜ良品計画がESGなのか?エシブル消費とは何か?徹底したマニュアル化が評価された同社がどうやって個店主義に舵をきるのか?高収益と両立できるのか?いくつもの疑問が湧いてきます。

具体的なKPIを含めた詳細は2021年7月に発表されるとのことですが、せっかくの機会ですので良品計画の現在の課題認識について、筆者なりの考察をしてみたいと思います。

関東最大級の売場面積を誇る「無印良品 東京有明」

営業収益5000億円めざす、現中期計画のおさらい

 まず、2017年4月に発表された中期経営計画をおさらいします。

 まず基本方針ですが、これは新中期計画に通底するもので「現場を主役に据えて大切にし、全員で『良心とクリエイティブ』を実践する風土と仕組みをグローバルに発展させる」とありました。

 次に4つの実現目標として、(1)独自性のある品揃え/お求めやすい価格の実現、(2)適正品質、適正価格で地域のくらしに貢献、(3)専門性、多様性のある人材育成を実現、(4)持続的な成長基盤の構築が掲げられました。そして具体的課題としては、上記各点に対応する形で(1)グローバルサプライチェーンマネジメント向上、(2)商品開発力の向上、(3)グローバル人材育成、(4)コーポレートガバナンスの実現が設定されました。

 計数面では、営業収益5000億円、営業利益600億円、ROE(自己資本利益率)15%以上、世界店舗数1200店舗を掲げています。なお、コロナ禍を受けて、これら計数の達成時期は未定になっています。

無印良品はどう変わったか?現中期計画の達成度

 コロナ禍の影響があることは承知の上で、まず計数面をみましょう。

 2021年8月期の最新の会社予想は営業収益4876億円、営業利益492億円、ROE18%、店舗数1074です。起点である2017年2月期は営業収益3332億円、営業利益382億円、ROE17%でしたので、決算期変更を含んだ4.5年間に営業収入は+46%増、営業利益は+28%増、ROEは横ばいで上々の推移です。ただし、中期計画の目標に対してはROE以外は未達になりそうです。

 次に定性面ですが、中国での商品開発、国内店舗の大型化、人材育成に成果がありました。しかし、サプライチェーン改革に手こずり、グローバル標準システムの構築にも遅れが生じています。

現中期計画はMUJIブランドの“グローバル化”

 筆者は現在の中期計画は、「日本の無印良品を世界のMUJIにする”グローバル化”を目指した」ものだったと理解しています。MUJIの世界ブランド化とも言い換えられるでしょう。そのために、サプライチェーンの効率化を進め、世界的にできる範囲で値下げを実現し、売上を伸ばして、規模の利益を確保し、それを再投資するサイクルを狙ったものだと思います。

浮かび上がった課題:気がかりな利益率の行方

 コロナ禍の影響でなかなか数値からの評価は難しいのですが、成果は、国内外での売上拡大に成功したこと、利益額の面で国内と東アジアの2本柱体制になったことです。

 しかし、営業利益率に課題があります。好採算の東アジア事業でやや頭打ち感が出てきていること、国内事業の採算が低下基調にあること、そして欧米事業が赤字体質からなかなか脱却できないこと、つまりいずれの地域にも利益率の面で課題が出ています。

 ちなみに、会計基準と会計期間が異なることを承知の上で、ファーストリテイリングの2017年8月期実績から2021年8月期会社予想までの推移を見ると、売上収益は1兆8619億円から2兆2100億円へ+18%増収に、営業利益は1764億円から2550億円へ+44%増益になっています(注・同社は国際会計基準<IFRS>)。結果論になるかもしれませんが、ファーストリテイリングは増収と利益率の二兎を追い、良品計画はどちらかといえば増収を追ったと思われます。今年度の営業利益率は、2社の会社計画ベースで、ファーストリテイリングに分があります。良品計画はそろそろ利益率を無視できない局面に差し掛かりつつあると考えます。

 もう少し状況を補足しましょう。良品計画は現在、衣服・雑貨、生活雑貨、食品を主要事業ドメインにしています。しかし、各カテゴリーに有力な競争相手がおり(日本でも名創優品MINISOが話題になりました)、同社は決してカテゴリートップではありません。EC事業者のプライベートブランド(PB)商品もいずれ無視できない存在になることでしょう。したがって、規模を追うなら徹底的に増収を追い求め、そうでないならば収益率軽視は避けなければなりません。

 収益率重視は赤字部門の閉鎖や狭義の在庫管理にとどまりません。商品1つひとつの価値設定をやりなおし、消費者に響くストーリー作りが不可欠です。そして良品計画の場合、MUJIというコンセプトに大いにヒントがあると筆者は考えます。

現中計の拡大志向から一転、地域に根を張りながらグローバル志向進める

ローカライズ、個店主義を強める無印良品(写真は無印良品直江津)

 では改めて新中期計画の骨子を筆者なりに解釈しましょう。

 良品計画の狙いは、まずサステナブル(持続可能)な地域社会の担い手としての立ち位置を明確化し、共感するサプライヤー・従業員・消費者を囲むことにありそうです。そのためには商品の価値を再定義し、商品・サービスをブランディングし直し、最低価格ではなくリーズナブルでエシカルな価格を受け入れてもらう。必要な場合は地産地消も促進する。そして、その対価として得られる適正利潤の一部をローカライズした従業員主導で地元に還元し、従業員のやり甲斐を満たすと同時に、可視化された地元還元を通してロイヤルカスタマーの支持を強める。このようなバリューチェーンを構築したいのだと考えます。単なる規模のパワーゲームとは一線を画し、MUJIのコンセプトを基底に地域地域にしぶとく根を張る戦略であり、現中期計画の規模志向から路線の変更になると思います。これは一見生協の活動に似ていますが、生協よりも利益を重視し、グローバル志向を貫くことになるのでしょう。

 筆者はかねてから「わけあって少し高い」路線を意識的に進めるべきだと考えていましたので、今回の発表がとても気になりました。しかし、社会的価値と利潤追求の両立、あるべき売上構成、従業員のモチベーション、海外での展開、株主の支持確保など、確認したい事項も数多くありますので、きたる中期計画の詳細発表を楽しみに待ちたいと考えます。MUJIの価値観をKPIに多面的に落とし込むことができれば、共感する株主作りも可能でしょう。また、地域特性を活かした住宅リユース・リフォーム事業の拡大に繋げられるとさらに面白いと思います。