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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営21 SCの定義や「あるべき論」からの脱却が、コロナ後を生き抜くのに重要な理由

会話している途中、相手から「その定義は?」と詰問を受けたことがある方も多いと思う。定義とは、物事の意味や行動や姿を言語化することによって誰が聞いても納得できる重宝なものでありコミュニケーションの円滑化にも役に立つ。しかし、定義が変化を妨げ衰退を招くこともある。今号では、「定義に縛られるとポストコロナを生き抜けない」ということを解説したい。

zhaojiankang/istock

ショッピングセンター(SC)の定義

 ショッピングセンター(SC)にも定義があるのをご存知だろうか。(一社)日本SC協会によると「SCとは、一つの単位として計画、開発、所有、管理運営される商業・サービス施設の集合体で、駐車場を備えるものをいう。その立地、規模、構成に応じて、選択の多様性、利便性、快適性、娯楽性等を提供するなど、生活者ニーズに応えるコミュニティ施設として都市機能の一翼を担うものである」と規定されている。

ここには

  1. 店休日や営業時間など一定のルール下で運営されていること。
  2. 計画性や統一性を持った開発がなされ所有され管理運営されていること。
  3. 立地に応じて商業だけでなくサービス施設までも含む集積体であること。
  4. 駐車場を備えること。
  5. 生活者ニーズに応えたコミュニティ施設であること。
  6. 都市機能の一翼を担うものであること。

の6つが指摘されている。

 しかし近年、駐車場のないSCもあり商業サービス施設だけでなく多様な用途で形成されており、所有に至っては不動産の流動化も進み、その形態もさまざまである。

 とくに不動産の流動化やREIT(上場不動産投資信託)の登場によって、必ずしも所有せずに運営されることも珍しくは無い。したがって、この定義が必ずしもすべてを包含しているわけではない。

 では、定義から外れたらSC経営では無いのか。そんなことは無いだろう。あくまでも定義は定義。時代によって形態が多様化し進化することを妨げるものでは無い。

SCの取り扱い基準

 今、日本には3207か所のSCが存在する。この3207か所とカウントするためには基準が必要となる。それがこの「SCの取り扱い基準」である。

「SCは、ディベロッパーにより計画、開発されるものであり、次の条件を備えることを必要とする。 1. 小売業の店舗面積は、1,500 ㎡ 以上であること。2. キーテナントを除くテナントが 10 店舗以上含まれていること。 3. キーテナントがある場合、その面積がショッピングセンター面積の 80%程度を超えないこと。 ただし、その他テナントのうち小売業の店舗面積が 1,500 ㎡以上である場合には、この限りではない。 4. テナント会(商店会)等があり、広告宣伝、共同催事等の共同活動を行っていること。」この4つが規定されている。

 しかし、近年、SCでは、テナント会のような団体を組成しないことも多い。

 では、なぜ、この必ずしも実態と合わない定義や取り扱い基準を決めるのか。それはカウントする基準となり、明確な指標があれば理解に役立つためだ。

 しかし、基準は、統計データの下になるため安易な変更は難しい。過去、米国でもSCのカウント基準を変えたことで突然数が増加したこともあるようにその運用は慎重に行わなければならない。

キーテナントの定義とは

 前述のSCの取り扱い基準にキーテナントというものが登場する、過去、SCには必ずキーテナントが存在した。「キーテナントとは、当該 SC の商圏・客層を決定する大きな影響力を持つ大型小売店舗であり、業態は、略称を採用した。Dpt:百貨店、GMS:総合スーパー、SS:大型スーパー、SM:スーパーマーケット、HC:ホームセンター、DS:ディスカウントストア、Dgs:ドラッグストア、生協:生活協同組合、と分類した」とSC白書(日本SC協会)に記載されている。

 SC用語辞典(日本SC協会)では「キーテナントとは、店舗などの賃貸ビルのテナント(賃借者)のなかで、その施設の中核となるような機能をもつ重要なテナント。ショッピングセンターの場合には、百貨店や総合スーパー、専門店の旗艦店など、そのショッピングセンターの商圏や客層を決定する重大な影響力をもつ大型店で、当該ショッピングンセンターのなかで最大の売場面積を有するもの。核店舗、アンカーテナントまたはアンカーストアともいう」と説明されている。

 この2つから読み取れるのは、キーテナントとは業種業態に関わらずSCや商圏に影響力を持ちSC内で最も大きな店舗となる。

キーテナントの変化とキーテナント不在論

 米国で発達したSCは、過去、ノードストローム、ニーマンマーカス、サクスフィフスアベニューなどの百貨店やシアーズやメイシーズやJCペニーなどのGMSがキーテナントとして存在していたが、今はコロナ禍で破綻を迎えるところも出ている。

 今、日本でも百貨店やGMSが存在しないSCも多いが、その転機は2000年に訪れる。

 2000年は、大店法の廃止と大店立地法の施行、定期借家契約の登場、資産流動化法の整備などSCを取り巻く環境が大きく変化する一方、百貨店やGMSの隆盛に陰りが見え、キーテナントに頼らず専門店だけのSC開発が一般化する。

 2000年、グランベリーモール、アクアシティお台場、御殿場プレミアムアウトレット、イクスピアリ、ラ・フェット多摩、渋谷マークシティなどが開業するが、どのSCにも百貨店やGMSは存在しない。

 面白い話がある。90年代後半、百貨店やGMSがなどのキーテナントを含めず計画していたグランベリーモールのプランを見て、当時の流通のプロ達は一様に「どうやって集客するのか」「核の無いSCがうまく行くはずはない」果ては「絶対失敗する」とまで酷評した。しかし、いざ開業してみれば前出の2000年開業のSCは全て好調なスタートを切り、今も順調に営業を続け、増改築や建て替えも進み皆健在である。

 これは、それまでの既成概念や定義を破ったからこそ成功した証左であろう。

ポストコロナは「あるべき論」を捨てる時

 百貨店には、「ラグジュアリーがなければならない」「フロア構成は性別でなければならない」「契約は賃貸借では無く消化仕入れでなければならない」「食料品は地下でなければならない」「コスメが1階になければならない」「オンラインでも接客を続けなければならない」「このテナントは入れてはいけない」などの「あるべき論」が存在しないだろうか。

 SCも「差別化しなければならない」「新業態でなければならない」「接客ロープレをやらなければならない」「売上金は預からなければならない」「クレジットは包括加盟をしなければならない」「営業時間は統一でなければならない」などの既成概念や作られた定義に縛られてはいないだろうか。

 最近、営業時間や店休日の統一に一石を投じたSCが現れた。これが成功するかどうかはまだ分からない。しかし、ポストコロナ、どれだけ「あるべき論」や「自らで作った定義」、これを打ち破れるか、そこに成否がかかっている。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。