北海道現象から20年。経済疲弊の地で、いまなお革新的なチェーンストアがどんどん生まれ、成長を続けています。その理由を追うとともに、新たな北海道発の流通の旗手たちに迫る連載、題して「新・北海道現象の深層」。第18回は、北海道で先行するメーカー発の物流効率化の動きに迫ります。「物流の北海道現象」が起こった背景には、北海道特有の事情と小売とのパワーバランスがあったのです。
異業種間の共同配送が進む北海道
物流を制する者が北海道を制す-。本連載の第14回目、第15回目で、北海道のチェーンストアが物流を自社化することで、過疎地でも稼げる仕組みをつくり上げたことを紹介しました。
こうした動きと軌を一にして、商品を供給するメーカーサイドの物流効率化もまた他の地域に先駆けて進んでいるのが北海道の特色です。
その典型的な試みが、キリン、アサヒ、サントリー、サッポロのビール大手4社の協業でしょう。2017年9月から、札幌-釧路・根室間(320~450キロ)で、ビール類の共同配送を行っています。各社は札幌周辺にある工場や倉庫から、JR貨物の札幌貨物ターミナル駅に商品を持ち込み、コンテナに混載して札幌-釧路間は鉄道で輸送。工場・倉庫から札幌貨物ターミナル駅までと、釧路貨物駅から取引先までは日本通運のトラックが運ぶという契約です。
ビールは、競合メーカー同士の共同配送が比較的早く始まった分野ですが、大手4社がそろって参加する枠組みは北海道が初めてでした。
サントリービールの親会社であるサントリーホールディングスと日清食品も97年6月から道内で共同配送を始めています。両社の配送拠点はサントリーが千歳市、日清食品が恵庭市と近接しており、同じトラックが二つの拠点に立ち寄って両社の商品を混載し、やはり両社の倉庫が近接している帯広まで一緒に運んでいます。
飲料と食品という異業種の共同配送もあまり例のない試みでしょう。サントリーの主力商品の酒や飲料のケースは重量があり、従来は過積載防止のため、トラックの荷台の上半分を空けた状態で運搬していました。日清食品の主力商品であるカップめん、即席めんは非常に軽いため、荷台の空白部分に積み上げ、満載状態にすることが可能です。同業者同士の共同配送では得られない、優れた積載効率を実現できるわけです。
北海道で物流効率化が進む2つの必然
こうした共同配送は、17年ごろから社会問題化している運輸業界の人手不足を発端とする取り組みであることは言うまでもありません。同時に北海道の市場特性が他の地域以上にドラスティックな変化を促していることも見逃せない点です。
北海道は人口526万人、面積は8万3450平方キロ。九州と比べると人口は37%、面積は1.8倍で、輸送効率は非常に悪い。しかも北海道の人口の6割は札幌を中心とする道央圏に集中し、旭川、函館、帯広、釧路など他の主要都市は最低でも100キロ以上離れています。
道央圏には政令指定都市・札幌を中心に新千歳空港、苫小牧港という本州からの玄関口が集まっており、大手食品メーカーの多くは北海道市場向けの製造拠点や中核物流施設をこのエリアに置いている。つまり道央圏から道内全域にいかに効率に物を運ぶかは、人手不足の問題いかんに関わらず、最大のテーマであったのです。
もう一つ重要な点は、食品メーカーにとって最大の売り先であるスーパーの寡占化が、全国に先駆けて進んでいることです。帝国データバンク札幌支店のまとめによると、18年度のイオングループ、コープさっぽろグループ、アークスグループの売上高は3000億~3300億円で拮抗。道内のスーパー上位50社の総売上高に占める3大グループのシェアは79%にも達しています。
北海道では、小売業に力がなかった1960年代、物流コストなどさまざまな経費が小売価格に転嫁され、本州に比べ割高な「北海道価格」が形成されていました。3極寡占化が進んだ現在、全国でも最も物価の安い地域に変貌したことは、連載7回目で述べた通りです。
これは売上高3000億円台のボリュームを持つ三つのグループが並び立ち、互いにけん制しながら取引先と条件交渉を行ってきた結果です。メーカーサイドはよりよい条件を出して市場の「79%」との取引につなげるか、すべてを失うか-。このプレッシャーが、北海道を物流改革先進地にしているとも言えるでしょう。
物流の北海道現象とは
北海道で先行させた物流改革のノウハウを全国に波及させる試みもあります。味の素、ハウス食品グループ、カゴメ、日清フーズ、日清オイリオグループの5社は19年4月、全国規模で共同物流を手がける会社「F―LINE」を立ち上げました。各食品メーカーの壁をなくし、各社が保有する倉庫やトラックを相互利用して食品物流の効率化を目指す意欲的な取り組みですが、この構想がスタートしたのも北海道でした。
5社のうち日清オイリオグループを除く4社は2年前の17年3月、味の素物流の子会社、北海道エース物流(北広島市)を4社の均等出資に切り替え、社名変更。共同物流の枠組みづくりに踏み出しました。実は、その際に付けられた新しい社名が「F―LINE」だったのです。
構想の始まりは、各社が16年から北海道で手がけていたドライ系食品の共同配送でした。各社が使用していた四カ所の物流施設の二カ所に集約した上で、基幹システム、伝票納品手順書など味の素物流の仕様に統一、大きな効果を上げました。
その成功体験を基礎に、商品の受注から輸送、保管、配送、納品、返品、廃棄に至る物流のすべての機能の標準化を目指したのがF-LINEでした。
北海道で産声を上げたF-LINEは17年4月、同じく味の素物流の子会社だった九州エース物流の全株式を取得。北海道で取り組んだ共同物流モデルを各地に水平展開。全国規模の共同物流の枠組みにまで発展し、今日に至っています。物流の北海道現象-。そんな言い方も可能かも知れません。