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特別対談:イオン×サラヤ 先進企業のキーパーソンが語る企業としてのSDGsへの向き合いかた

イオン×サラヤ
イオン執行役 三宅 香 氏(右)とサラヤ コンシューマー事業本部本部長 山田 哲 氏(左)

国内小売最大手のイオン(千葉県/吉田昭夫社長)と、洗浄・消毒剤メーカーのサラヤ(大阪府/更家悠介社長)はいずれも、SDGs(持続可能な開発目標)という言葉が提唱される前から、企業として環境や衛生、貧困などの問題に向き合い、経営活動を行ってきた企業だ。2社のSDGs活動におけるキーパーソン2人に、小売業・メーカーとしてのSDGsへの向き合い方、会社を挙げて取り組むための推進体制の構築手法などについて語ってもらった。

SDGsは新しい概念ではない

――まずは企業としてSDGsの達成に向け取り組むことになったきっかけ、背景について教えてください。

山田 弊社の場合、SDGs が策定されたことで取り組み始めたわけではなく、きっかけとしては創業時までさかのぼります。

 サラヤは1952年、当時流行していた赤痢で命を落とす人を少しでも減らしたいと、創業者の更家章太が、手を洗うと同時に殺菌・消毒ができる日本初の薬用石鹸液と専用容器を開発し創業しました。公共のトイレでよく見かける緑色の石鹸液と言うとわかっていただける方も多いと思います。その後、石油系合成洗剤による環境汚染が社会問題となった70年代には、植物性のヤシ油を原料とするヤシノミ洗剤を開発・発売しました。

 このように創業時から衛生・環境・健康を事業の柱として、社会問題をビジネスで解決するという姿勢できましたので、その延長線上に今のSDGsを目標とした取り組みがあります。

三宅 われわれも環境問題については早くから取り組んできた歴史があります。イオンの前身であるジャスコの創業者・岡田卓也(現 名誉会長)が60年代に、自宅の庭に植えた南天の花が咲かなくなったことで地球環境の異変を感じたという逸話が残されていますが、それ以来、環境に関しては企業に責任があるのだという姿勢を50年以上貫いてきました。91年からは新規出店時に植樹活動を行うようになり、そうした理念が社内でより強く浸透しました。

 ですからサラヤさんと同じように、昨今注目を浴びているSDGsというのは弊社にとっては決して新しい考えではありません。これまで取り組んできたことが、SDGsという世界的な目標に資するものだったというわけです。

山田 環境に対する企業の責任を考え続けてきた点で共通していますね。もともと、イオンさんとは古くから、バックヤードや作業場の衛生環境向上などの取り組みでご一緒してきた経緯もあります。

三宅 60年代にチェーンストア化を志向して以来、サラヤさんのご協力も受けながら、衛生環境の維持・向上を追求し続けてきました。とくに苦労したのが、日本の衛生に対する価値観が通用しない海外での出店です。「日本のスタンダード」をいかに現地の店舗に根付かせるかに苦心してきました。

 今では、海外の店舗も日本国内の店舗と同じレベルを維持できるようになっています。他国の衛生に対するスタンダートを上げていくというのも、大切な社会貢献の1つだと考えています。

消費者の意識が変化するなか継続的な情報発信が重要に

――コロナ禍では環境問題や健康に対する消費者意識の高まりが指摘されています。こうした状況下で、小売企業やメーカーに求められていることとは何でしょうか。

三宅 確かに、衛生面に関するお客さまの見方は非常にシビアになっていますし、健康全般に対する意識も向上している印象です。

 健康という切り口で行けば、単にフィジカル(肉体的)な話だけでなく、心も健やかでいたいというニーズも高まっています。その延長線上で、地球環境や自然保護といったことに対する関心はコロナ禍で急速に高まっている感もあります。

山田 同感です。そのうえでわれわれ企業に求められているのは、衛生にしても環境にしても、情報を発信しつづけることだと思います。とくにわれわれのようなメーカーは消費者との直接的な接点をほとんど持ちませんので、イオンさんのような小売企業とも組みながら、消費者に正しい情報を伝え続けるというのが大事だと考えています。

三宅 ただ、SDGsに関する活動において、効果的な情報発信を行うというのはなかなか難しいですよね。弊社では試行錯誤の段階で、「もう少し別のアプローチがあるのではないか」といった議論を日々繰り返しています。もちろんわれわれの場合、お客さまとの接点である「店」を有効活用しない手はないのですが、コロナ禍ではそれが難しい面もあります。今後は新しいコミュニケーションの在り方を考える必要があります。

山田 発信の仕方によっては違ったとらえ方をされるリスクもありますね。変につくり込むとどこかいやらしくなって、今までやってきたことが台無しになる可能性もある。“仕掛ける”というよりは、われわれが発信した情報が自然に拡散されていくというのが理想なのですが。

社内外に「体験」の場を提供する

――SDGsの取り組みを進めるうえでは、社内での教育や啓もう活動というのも重要になってきます。

山田 弊社の場合、あらゆる事業・業務で必ずSDGsに落とし込んで考えることが求められるため、そのプロセスで学んでいくという面が大きいですね。

 また、毎週社内ポータルサイトで社長自らがトップコミットメントとして衛生・環境・健康に関するメッセージを発信し続けていることで、意識が上がっている部分もあると思います。

 ただ、教育面についてはまだまだやるべきこともあるとは感じています。その点、イオンさんは「イオン ふるさとの森づくり」のもと、全社員が植樹活動に携わっていますよね。貴重な学びの場になっているのではないですか。

三宅 学ぶというか、体験の場ですね。イオンの環境活動の核となる取り組みになっています。ただ、ここ数年はものすごい規模で会社の規模が大きくなっているので、グループの全社員に参加チャンスがないのが課題になっていました。今年はそれをどうにかしようと議論しているところです。

山田 植樹活動には海外も含めてわれわれも取引先として参加しているのですが、行った人間に聞くとにかく「すごかった」と言って帰ってきます。植樹は単純な作業なのですが、以前植えた木が大きくなっているのを見ると、自然や環境に対する見方が変わるのですよね。これはいくら本を読んでも体感できないことだと思います。

三宅 ありがとうございます。とくに海外の植樹活動の規模は大きくて、たとえば中国では、数百年にわたる伐採で消滅した、万里の長城周辺の森の再生を目指して、1996年に北京市政府と「万里の長城・森の再生プロジェクト」を立ち上げました。イオンの従業員だけでなく、取引先様やお客さまと一緒に植樹し、1998年から2010年までの活動で、のべ1万5000人の方々にご参加いただき、植樹本数は累計100万本を超えています。今では木々が育ち、“森”と呼べるまでになってきています。そういう光景を見ると、やはり自然や環境に対する意識は変わりますね。植樹活動はコロナ禍の影響で20年度は縮小せざるを得ませんでしたが、今後も継続的に取り組んでいきます。

――SDGsの取り組みを行ううえで、社内の事業や部署ごとの目標はどのように設定していますか。

三宅 イオンでは、少しストレッチしたレベルに設定するためにも、持株会社が全体目標を設定しています。その後、目標達成のために各事業会社がどのようなアクションを取っていくかを考え、実行に移しています。

 例えば、脱炭素に向けた取り組みに関しても、どの事業がどれだけ排出しているのか、それをどれだけ減らすのか、そのためにどんな行動を取るのか、それぞれに目標があり、進捗管理しています。売上目標の考え方と一緒です。もちろん、その過程で、個別事業や企業では解決できない課題に関して相談を受けることもあります。その時は、どうすれば良いかを皆で考えています。

山田 われわれの場合、経営計画をSDGsの17の目標に落とし込んでいくということは継続的に取り組んでいますが、ブレイクダウンはなかなか難しいと考えています。できない目標を掲げても窮屈になるだけなので、大きな目標というのは会社として掲げていませんし、部門別の数値目標というのも設けていません。これまでやってきたことを少しずつストレッチさせていくということに愚直に取り組んでいるところです。

産業界だけでなく消費者、行政の参画が必須

――最後に、今後SDGsの活動を推し進めていくために必要なこと、課題などあれば教えてください。

三宅 環境の問題にせよ資源の問題にせよ、一企業で解決できるものはありません。そして、今の社会システムのままでは解決できない問題でもあるので、そうなると100社集まっても解決できないこともあるでしょう。消費者が生活スタイルを変えないといけないこともあるし、場合によっては最終的に法制度が壁になることもある。つまり、持続可能な社会をつくるためには、あらゆることを変えて、新しい社会をつくる必要があります。今はその真っ最中なのだと思います。

山田 まさにSDGsの17番めの目標である「パートナーシップで目標を達成しよう」の部分ですよね。いかに外部の企業と手を組み、知恵を絞りながらできることを考えていくというのがいちばん大事なポイントだと思います。

三宅 そういうときにSDGsという言葉が共通言語になりますね。今までは個社の経営理念や考え方が主軸になっていたのが、SDGsという共通のゴールができたことで協業しやすくなったという面はあるのではないでしょうか。

 そのうえで産業界だけでなく、消費者、行政などすべての人たちが、持続可能な社会をつくるという同じ目標を持って、これからの数年の間に大きなムーブメントを巻き起こせるかが重要です。決して簡単なことではないですが、たとえば脱炭素に向けた取り組みについては政府も交えて活発化していますし、よい兆しは見えてきています。