大戸屋ホールディングス(神奈川県/蔵人賢樹社長:以下、大戸屋HD)傘下の定食チェーン大戸屋(同)は、6月からグランドメニューをリニューアルするとともに一部メニューの価格引き下げ、店舗でのメニュー提供時間の短縮など、業績回復に向けた新たな施策を発表した。
それとともに、新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大下で外食業界全体が縮小傾向にあるなか、総菜小売事業への参入をはじめ中食需要獲得に向けた動きを加速させている。
「カラダを気遣う」価値を提供
外食産業はコロナ禍での外出自粛の影響を受けて業績が厳しい状態が続く。そうしたなかコロナ前から業績が悪化していた大戸屋は2020年11月、大手外食企業のコロワイドにTOB(株式公開買い付け)により買収された。今回発表されたのは、買収後初めて明らかにされた今後の立て直しのための施策である。
コロワイド元専務取締役から大戸屋HD新社長に就任した蔵人賢樹氏は「コロナ禍で免疫力を高めたいという健康志向が高まっている。そんな消費者のカラダを気遣えるような価値を今後も提供していきたい」と方針を語った。
「グランドメニュー」の刷新では、男性客獲得のために肉を使ったボリュームある新メニューを投入する。「豚と野菜の塩麴炒め」や「牛プルコギの彩りサラダボウル」など野菜も多く摂取できるメニューとした。
一方で全体のメニュー数は絞り込む。たとえば、主力の定食メニューは33品目から28品目に減らす。こうしたメニュー数削減のほか、親会社コロワイドとの食材の共同仕入れにより、一部メニューの価格を引き下げる。定食では7メニューで値下げを実施し、下げ幅は50円を中心とする計画だ。
セントラルキッチンは
一次加工に取り入れる
メニューの絞り込みによって、商品の提供時間の短縮にも挑戦する。同社によると現在、平均提供時間は店舗によって大きく開きがある。今後は12分以上かかってしまう店をなくすとともに、全体としても「30秒から1分程度」提供時間を短縮させる。そうすることでストアロイヤルティを高めたい考えだ。
商品の提供時間短縮のために今回踏み切ったのが、セントラルキッチン方式の導入だ。これまで大戸屋が根幹としてきた店内調理を基本とする方針は変えないとしながらも、大きく味に影響しない一次加工はセントラルキッチンで実施することとする。
百貨店やSC内に
総菜小売店を出店へ
大戸屋の動きで注目したいのが、販売チャネルを拡大し、中食ニーズの取り込みを強化している点だ。
同社は今年2月から総菜小売事業をスタート。百貨店やショッピングンセンター(SC)での店舗拡大をめざす総菜専門店「大戸屋おかず処」を立ち上げ「西武池袋本店」(東京都豊島区)で実験的に営業してきた。これを3月末から「そごう横浜店」(神奈川県横浜市)でも期間限定オープン(3月30日~4月12日)するほか、4月には「そごう千葉店」(千葉県千葉市)にも出店する。
「大戸屋おかず処」は、国産野菜と出汁にこだわったメニューが特徴だ。それぞれの素材に合わせて、鰹、鶏、昆布、野菜の4種の出汁を使い分けた総菜や弁当を販売する。
そのほか同社は今年1月下旬、神奈川県横浜市のみなとみらいエリアに新業態カフェ「MMマーケット&カフェ」もオープンしている。同店ではテイクアウト・デリバリーにも対応するデリカテッセンを充実させるほか、ミールキットや専門店と共同開発したスイーツの販売などにも挑戦している。
大戸屋マーケティング本部長の橋澤順氏は「同店は住宅街でのお客さまの需要を掴むための実験店。当社は「大戸屋」以外のさまざまなチャネルを構築してお客さまの意見を聞き、変革する時期にある」と述べている。
これら大戸屋の新戦略から見えるのは、外食チェーンがこれまで培ってきた専門性の高い調理のノウハウや、ネームバリューも生かして、中食需要の奪取に大きく動きだしている姿だ。こうした外食の動きはさらに進んでいくことが予想され、近年食品スーパーが需要を取り込んできた中食市場はコロナ禍を機に、いっそうハイレベルな戦いへと発展していきそうだ。