ドラッグストアが食品スーパーやコンビニからシェアを奪取し、向かうところ敵なしの様相を呈している。今年1月には、日本チェーンドラッグストア協会の池野隆光会長が「10兆円はおろか20兆円も現実味をおびてくる」と発言、波紋を広げている。ドラッグストアの市場規模は現在7兆円半ばであり、20兆円となると現在の3倍近くにもなる。ドラッグストア20兆円市場は現実のものとなるのだろうか――。
市場規模は10年で1.4倍に
流通の業界団体が集計している2020年の年間売上高をみてみよう。日本百貨店協会が公表している百貨店の売上高は、対前年比25.7%減の4兆2204億円。コロナ禍が直撃した格好だ。日本フランチャイズチェーン協会が発表したコンビニエンスストアのチェーン全店売上高は、同4.5%減の10兆6608億円と前年を下回っている。日本チェーンストア協会が集計している食品スーパーの売上高は、同0.9%増の12兆7597億円と微増にとどまっている。
これに対し、ドラッグストアはどうだっただろうか。日本チェーンドラッグストア協会の調べによると、19年度は5.7%増の7兆6859億円。09年のドラッグストアの市場規模は5兆4430億円であり、10年間で約1.4倍に拡大した計算だ。20年度はコロナ禍で市場拡大に弾みがついたとみられている。市場規模としてはまだ食品スーパー、コンビニに後塵を拝するが、伸び率はどの業態よりも高く、ほかの小売業態の苦戦を尻目に急ピッチで市場を膨らませている。
流通業界ではこれまで、百貨店のシェアを食品スーパーや専門店が奪い、食品スーパーのシェアをコンビニが奪取し、それぞれ市場を拡大してきた。このような足跡をドラッグストア市場もまたたどっている。
ドラッグストアの市場規模10兆円、20兆円への道のりは、食品スーパーやホームセンターの売上高を取り込んでいく可能性が高い。また、大手コンビニの首脳が認めるとおり、ドラッグストアはコンビニからも顧客を取り込んでおり、その影響は広範囲におよぶ。
規制緩和が市場拡大を後押し?
しかし、ドラッグストア市場は本当に10兆円、あるいは20兆円まで拡大していくのだろうか。ドラッグストアに隘路があるとすれば、「消費者が従来からの買物習慣を変える、決定的なファクターがドラッグストアにあるかどうか」(ある経営コンサルタント)という見方である。
焦点は2つだ。1つは本連載でも述べた「規制緩和」だ。厚生労働省では現在、一般用医薬品(OTC医薬品)の販売時間を「営業時間の2分の1以上」としているが、これを「6時間以上」に緩和する方向で検討中だ。
この緩和が仮に実現すればコンビニでの一般用医薬品の販売のハードルが大きく下がる。コンビニでも大衆薬が販売できれば、ドラッグストアから顧客を引き戻せるという予測もある。これはドラッグストアにとって逆風だ。
ドラッグストアは20兆円産業となるか
もう1つは、池野ドラッグストア協会会長が予想する「食品スーパーやホームセンターから顧客を呼び込めるか」という点である。
バローホールディングスの田代正美会長兼社長は「食品スーパーを1店作るとドラッグストアやコンビニエンスストアがたちまち周辺にできる」と発言したように、ドラッグストアと食品スーパーは明らかに競合関係にある。
しかし、食品スーパーに来店する主婦が、生鮮食品の品揃えがそれほど充実していないドラッグストアで、頻繁に買物をするようになるのかというのが今後の焦点だ。ドラッグストア業界ではコスモス薬品(福岡駅)を必要とした食品強化型チェーンが台頭しており、ツルハホールディングス(北海道)でも660店に生鮮食品を導入するなど、大手も続々と食品強化に乗り出している。ドラッグストアからすれば、食品強化は買い上げ点数の増加にもなるうえ、来店頻度の向上も見込まれるなど、メリットは少なくない。
だが、食品スーパーと比べて生鮮食品や総菜の品揃えが少ないドラッグストアが、消費者にとって食品のメインの買い場になるかがみ透明だ。ドラッグストアが今後、他業態からシェアを奪っていくことはほぼ間違いない。しかし、10兆円、あるいは20兆円産業へ成長するとなると、乗り越えなければならないハードルは多い。