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働きがいのある職場をつくり沿線地域との「共存共栄」をめざす=東急ストア 須田 清 社長

東急ストア(東京都)の既存店売上高が好調だ。消費増税の影響を受けた2014年4月を除くと、3年以上前年同月実績をクリア。12年に須田清社長が就任して以降、不採算・老朽化店舗の閉鎖や既存店の改装などに取り組んできた成果が現れている。今年は同社の創業60周年という節目となる。次なる成長戦略をどのように描いているのか須田社長に聞いた。

最新のインタビューはこちら (2019年7月17日 公開

売上高2000億円を突破

すだ・きよし●1956年6月生まれ。 79年3月明治大学法学部卒業後、東急ストア入社。 2009年3月執行役員。11年2月取締役常務執行役員。 商品本部長、営業統括本部長を経て、11年11月取締役専務執行役員。 12年5月代表取締役社長に就任

──2015年度(16年2月期)の営業状況はいかがでしたか。

須田 15年度の業績については、11年度以降達成できていなかった売上高2000億円を久々に突破することができました。11年度と比較して大きく違うのは店舗数です。当社はこの3年ほど不採算・老朽化店舗の閉鎖を進めてきました。11年度末は93店だった店舗数が、15年度末では80店になっています。店舗の総営業面積は11年度の約70%にまで減少しています。それでも同じ業績を達成することができたのは、既存店が力をつけてきた証しです。実際、既存店売上高は13年3月から3年以上、消費増税の影響を受けた14年4月を除けばすべて前年同月実績を上回っています。

 最近の既存店の来店客数は、対前年同月比2~3%増をキープしています。東急グループのポイントカードには、1日約500人が入会されており、新規のお客さまが増え、既存のお客さまの来店頻度も高くなっているのではないかと考えています。

 11年3月、複合施設「二子玉川ライズ」(東京都世田谷区)内にオープンした「東急ストア二子玉川ライズ店」の売上も好調です。施設の再開発が進んでいるという影響もありますが、開店直後は約700万円だった日商が、いまでは1000万円を超えています。客数も「二子玉川ライズ」全体を上回る伸長率で推移しています。

 いままでは、駅やバスなどの集客装置がありながら当店を利用していただけていないお客さまが多かったのですが、当社の強みである立地の優位性が生かされるようになってきたと感じています。

──12年に社長に就任して以降、経営基盤の立て直しに取り組んできました。

須田 当社は、東急グループの中核である東京急行電鉄(東京都/野本弘文社長:以下、東急電鉄)の100%子会社です。売上よりもグループ連結の利益にどれだけ貢献できるかを考え、東急電鉄のトップと相談しながら不採算・老朽化店舗の閉鎖を進めてきました。

 閉鎖する店舗をご利用いただいていたお客さまのなかには閉店時に涙を流される人もいて、まさに断腸の思いでした。しかし、営業を継続するとなると改装やメンテナンスのための設備投資が必要になります。その分のリターンを見込めるのか見極めたうえで判断を下しました。

 その一方で、既存店に投資をして営業力を強化してきました。13年3月から3年間で全80店舗のうち、全面改装を29店、部分改装を42店で実施しました。

 社内では「店舗年齢を3年以内にしよう」と話しています。お客さまの需要はつねに変化するため、3年に1回はすべての店舗に営業力強化のための投資をしていきたいと考えています。

 改装するに当たっては、全店でお客さまの声を聞くアンケートを行いました。アンケートは専門家に委託するという選択肢もありましたが、お客さまに声をかけることに意義があると考え、店長や副店長が直接聞き取り調査をしました。これまでに4回実施した結果、各回約2万件ほどの意見や要望が集まり、その内容に可能な限り対応して各店舗の商品構成やレイアウトを変えてきました。

 また、お客さまだけでなく、パート社員やアルバイトを含め全従業員にもアンケートを実施しました。「お手洗いが汚い」や「休憩室の分煙化ができていない」などさまざまな要望が上がったため、数億円単位のコストをかけて職場環境を改善しました。

 さらに、店舗に人員を補充して、きちんとした接客や売場づくりが実行できるようにしました。それにより従業員や売場に活気が出たことも、既存店が好調である大きな要因だと思います。

──商品政策(MD)についてはどのように考えていますか。

須田 MDについては、東急沿線のマーケットに合った商品とはどのようなものなのかを再定義しているところです。東急沿線は、日本で有数の肥沃なマーケットであり、そのお客さまのニーズに対応し、豊かな食生活を提案できる商品を提供する必要があります。他社と差別化できる「ちょっといいもの」を積極的に取り入れて、売上動向を見ながら継続的にMDを進化させています。

 プライベートブランド(PB)商品については、私鉄系8社で構成する八社会(東京都)の価格訴求型PB「Vマークバリュープラス」と、当社の価値訴求型PB「TokyuStore PLUS」の2種類を販売しています。八社会は5月から私が社長を兼務することになったため、よりスケールメリットを生かした商品開発の体制をつくりたいです。

 「Tokyu Store PLUS」については、商品の魅力がお客さまにうまく伝わっていないのが現状です。今年度中には全500SKUのパッケージやロゴを全面リニューアルして訴求力を高めたいと考えています。

 総菜については、当社の店舗は駅前に立地しているということもあり売上が伸長しています。改装店舗では、ほかの部門の売上高が対改装前比5~10%増という伸びに対して、総菜は同約20~50%増と高く、まだ伸びしろがあると感じています。

 しかし、総菜の販売を強化することで、生鮮食品や関連する調味料の売場を縮小したくはありません。食品スーパー(SM)の本来の役割は、生鮮食品をはじめ家庭料理の材料をお客さまに提供することではないでしょうか。かつては街の青果店や鮮魚店などがその役割を果たしていましたが、そのような店は減少しています。大袈裟かもしれませんが、日本の食文化を守るという使命もSMにはあると思うのです。

小型店の出店強化沿線のドミナントを深耕

「SMの本来の役割は、生鮮食品をはじめ家庭料理の材料をお客さまに提供することにある」(須田社長)。総菜と生鮮食品を並行して強化していく
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──今後の新規出店についてはどのように考えていますか。

須田 不採算・老朽化店舗の閉鎖はある程度終えたため、今後は新規出店にも注力していきます。

 現在、東急沿線にある約100駅のうち、当社が駅前に出店しているのは40駅ほどです。まだ出店の余地は十分にあると考えており、東急電鉄と連携しながら沿線内のドミナントを深耕していきます。

 しかし、今後は広い土地を確保するのはより難しくなってくるでしょう。当社はこれまで300坪タイプのSMを中心に出店してきましたが、小型店舗を数多く出していくことが出店戦略の柱になると考えています。

 たとえば、総菜とグロサリーだけを販売する店舗や、高質SM「プレッセ」の小型店など新たな業態開発も視野に入れています。

 新店については、現時点で3店舗の出店が決まっています。

 1店舗目は、今年の8月に、東急田園都市線「用賀」駅に隣接する商業・オフィス施設「世田谷ビジネススクエア」内に売場面積約75坪の小型店を開店します。小型SMのモデル店として14年4月にオープンした「東急ストアフードステーション中延店」(東京都品川区)が好調なので、そのノウハウを生かしつつビジネスパーソンの需要への対応を強化した店をめざします。

 残りの2店舗の開店は17年度になりますが、2店舗目は、東急東横・田園都市線の「渋谷」駅から徒歩7~8分ほどの東急グループが進めている再開発エリアに出店します。駅から少し離れた立地であり、店舗周辺の住民に加えて渋谷の街を行き交う人たちにどのようなサービスを提供できるのか、当社にとって新たなチャレンジとなる店舗です。社内に新しいノウハウが蓄積されますし、成功すれば駅前以外にも出店できるという自信にもつながるでしょう。

 3店舗目は、東急沿線ではなく横浜市営地下鉄線の駅に隣接する商業施設内に、年商20億円規模の標準的なSMをオープンする予定です。

──東急グループとはどのように連携していきますか。

須田 東急グループは、東急電鉄を中核企業に221社8法人(15年9月末)で構成されており、さまざまな事業を展開しています。

 そのうちの1つ「東急ベル」事業では、東急沿線を中心に、ご用聞きや家事代行サービスなどを行っています。お客さまの実際の声を聞き取るうえでも重要な役割を果たしており、時代の需要に対応して事業領域を拡大中です。

 当社は現在、東急ベルと連携してネットスーパーを展開しています。東急ストアの商品を東急ベルがお客さまの自宅まで配送するほか、東急東横線「綱島」駅の改札前に冷蔵ロッカーを設置し、お客さまがネットで注文した商品を都合のよいタイミングで受け取ることができるサービスも実験的に開始しました。

 さらに今後は、東急ストアの商品をトラックに積み込んでエリア内をまわる、移動販売ができたらと考えています。東急沿線は坂道が多く、買物後に重い荷物を持って帰るのは大変だというお客さまは少なくないはずです。高齢化が進むなか「買物弱者」と呼ばれる人はいま以上に増えるでしょう。東急グループや行政などと連携して何とか実現させたいと思います。

経営理念を共有し生き生きと働ける環境をつくる

(上) PBは、価格訴求型の「Vマークバリュープラス」と、価値訴求型の「Tokyu Store PLUS」の2種類を展開。「TokyuStore PLUS」は今年度中にパッケージをリニューアルして訴求力を高める予定だ  (下) 「東急ストアフードステーション中延店」は、多店舗化を想定した小型SMのモデル店だ。売上は好調で、今後小型店を積極的に出店するに当たり、ノウハウを活用する

──新規出店や事業拡大に当たり、人材はどのように確保していくのでしょうか。

須田 世の中は慢性的な人手不足に陥っており、単に時給を上げるだけでは人材は集まらなくなっています。そのため当社では、すでにいる従業員に長く働き続けてもらえるような制度を設けています。

 たとえば、定年の60歳を過ぎても知識やスキルがある人には引き続き店長や部長などの役職に就いてもらう「エキスパート社員制度」や、65歳を過ぎても後進を育成する、いわゆる教育係の役割を担ってもらう「シニアエキスパート社員制度」を導入しています。すでに制度を利用して65歳を過ぎても活躍している従業員もおり、彼らには後に続く人たちの希望の星になって欲しいと考えています。

 また、パート社員やアルバイトの退職率を下げる試みとして、15年9月から「ウェルカムプログラム」を開始しました。これは、面接から採用、初出社時、入社3カ月後まで、いつ、誰が、どのように接するのかをマニュアル化したものです。採用後も面談の機会を設けることで、パート社員やアルバイトの不安を解消するとともに、仕事の目標を共有してやりがいを持って働いてもらえるようにしています。

 さらにパート社員やアルバイトを効率的に採用するため、経営統括室人材戦略内に「採用強化チーム」を新たに結成しました。同チームが各店舗に入り込み、専門家の意見を取り入れながら、その地域で効果的な募集宣伝エリアや、最適な時給を設定しています。募集媒体もチラシやハローワークに限らず、さまざまな方法でアプローチします。

 並行して新入社員の採用も強化しています。来年春に入社する正社員については、約70人を採用予定です。今後も毎年50~70人を採用したいと考えています。これまで、凍結していた高卒の正社員も採用を再開する方針です。
 

──創業60周年を迎えるに当たり、経営理念の「共存共栄」を大きく打ち出しています。

須田 昨年までは、会社の経営方針を示す「社是」というかたちで「共存共栄」を掲げていました。しかし「共存共栄」という言葉は、人によってさまざまな捉え方ができてしまいます。そこで、創業60周年にあたり、東急ストアがどのような企業でありたいか、会社のめざす方向性を従業員にきちんと理解してもらおうと考えました。

 社内で「共存共栄」とはどのようなことなのかあらためて話し合い、全従業員がわかりやすく解釈できるよう、5つの行動指針(左)を立てました。

 また、ビデオを制作して全従業員に見てもらいました。内容はストーリー仕立てになっており、母親の誕生日に内緒でカレーライスをつくって驚かせようと、2人の子供が東急ストアに来店します。カレーをつくるためのアドバイスを従業員に聞きながら買物をして、最後はテーブルを囲む家族団欒の様子が描かれています。

 SMは、地域のお客さまの日々の幸せのお手伝いができる仕事です。ビデオに登場する家族のように「東急ストアがあってよかった」と感じていただきたいと従業員が共感し、日々の仕事に取り組んでもらえたら嬉しいです。「共存共栄」という理念を大切に、地域に愛され、お客さまと共に成長できる企業をめざす、これは私たちが働くうえで最も大切にする想いです。

 この経営理念を具現化するためには、従業員が生き生きと働くことができる職場づくりが重要であり、従業員に対する処遇の改善や採用活動の強化にいちばんに取り組みます。16年度の政策には、①働きがいのある職場づくり、②チェーンストア力の強化、③個店経営の実践、④成長に向けた挑戦を、大きな柱として挙げています。

 東急グループの一員である当社は、グループのめざす東急沿線の価値向上に貢献することも重要です。東急ストアは東急沿線の地域に貢献する社会的使命を持っている企業であり、それがわれわれの誇りでもあります。今後も従業員一丸となって、地域に愛される店舗を1店1店丁寧につくっていきます。