山梨県を中心に食品スーパー(SM)を展開するオギノ。顧客の購買履歴データの分析・活用で定評のある同社は2016年度、購買履歴データにビッグデータや顧客インタビューを加えた分析にも取り組む。山梨県ではディスカウントストア(DS)を中心に競合店の出店が相次ぐなか、どのような戦略で成長をめざすのか。同社の荻野寛二社長に聞いた。
簡便系、健康系品揃えを拡大
──2015年度にSM3店舗を出店されました。例年よりも多かったようですね。
荻野 建て替えや移転増床を含めて、15年4月に「下石田店」、7月に「上今井店」、11月に「竜王駅前店」を開設しました。たまたま15年度に集中した店舗です。当社は、山梨県に30店舗強を展開し、県内でドミナントを形成しています。そのドミナントの組み立て直しに取り組んでいるところです。
これらのSM3店舗では、売場を拡張しました。当社は売場面積450坪を標準としていますが、標準規模に比べて50坪から80坪ほど増やしています。お客さまの嗜好はどんどん多様化しています。それに応える品揃えにしようとすると、これまでの店舗規模では限界があります。売場面積を拡張したのは、品揃えを拡大しお客さまの変化に対応するためです。
──品揃えを拡大したのはどんな商品ですか。
荻野 簡便系の商品です。カット野菜やカットサラダなどは、従来のサラダに比べて販売の伸びが大きい商品です。品目数を従来の2倍に増やしました。また総菜では、日持ちのするパウチパック入りの商品の品揃えを拡大しています。
加工食品では、健康系の商品を多く導入しました。とくに、山梨県は1日1人当たりの食塩摂取量が全都道府県の中で上位にランクされていますから、減塩商品も増やしています。
こうした商品を既存の売場の中に差し込んでいます。今は、価格の安いプライベートブランドと、大手ナショナルブランドがあればいいという時代ではありません。お客さまの嗜好が多様化し、求める商品の幅が広くなっています。それに対応しようと品揃えを拡大した結果、今回、品目数は全体で2割ほど増えています。
──既存店舗でもこうした商品の品揃えを拡大していきますか。
荻野 もちろん、そのつもりです。ただ、大型店舗から中・小型店舗まで、店舗規模にばらつきがありますから、そのまま導入することはできないでしょう。
お客さまの購買データの分析結果を見ると、ライフスタイルが細分化されてきていることがわかります。しかも、それが固定化されてきています。
細分化された個々のライフスタイルに対応するために、たとえば素材系、簡便系、即食系と分けて商品の品揃えを拡大させているわけですが、さらに、安さ、低カロリー、健康系といった分類の切り口も加えていく必要があります。品揃えについては今、過渡期にあります。2~3年後には機能が重複している従来型の商品を少しずつ整理していきたいと考えています。
──品揃えを拡大して、顧客の反応はいかがでしたか。
荻野 まだ結果には表れていません。想定と違って、お客さまにまったく支持されないこ客さまの実態も、以前よりつかみやすくなってきています。
──山梨県では競合店の出店が続いています。データの分析・活用は競争上の武器になりますか。
荻野 ここ数年、大手チェーンやリージョナルチェーンのDSの出店が続いています。DSとの競争は確かにあります。ただし、お客さまの求めるものは安さだけではないということが、当社のデータ分析からわかっています。われわれはお客さまごとの食生活シーンをトータルにとらえることをめざしています。安さももちろんありますが、それ以外の価値を提供したいと考えています。
この商品ならDS、この商品なら「オギノ」と、お客さまは店舗を使い分けています。競合店が出店する前に特売チラシを配布したりしていますから、競合対策という発想はないわけではありません。しかし、重要なのはお客さまのニーズをとらえられるかどうかです。安さを求めるお客さまもいますが、そうでないお客さまもいますから、総合的にお客さまをとらえていく必要があります。
──16年度の重点方針は何ですか。
荻野 購買履歴データを中心に、マクロとミクロの観点を加えて分析していきたいと考えています。
マクロの点では、お客さまの購買履歴データにビッグデータを加えた分析・活用にもトライしていきます。購買履歴データだけでも相当いろいろなことがわかりますが、それだけでは見えてこない部分もあります。ですから、ビッグデータを組み合わせて分析すれば、これまでとは違う景色が見えてくるのではないかと期待しています。
ミクロの点では、お客さまのニーズを深く掘り下げていくために、定性調査にも力を入れます。アンケート調査もありますが、それだけでなく、お客さまの本音を聞き出すために、インタビュー調査も実施する予定です。アンケート調査も少し深掘りすれば定性調査になりますが、それだけではお客さまの内心まではわかりません。なかなか難しいことですが、インタビュー調査を含めて、お客さまの気持ちを引き出せればと思っています。
データ分析・活用について当社は十数年来、「FSP研究会」の場でメーカー・卸さんと協働で取り組んできました。レベルが上がってきていて、非常にいいかたちになっていますから、この取り組みをさらに深化させていきたいと考えています。新しいデータ分析手法についても、メーカー・卸さんと連携して取り組んでいきます。データ分析をいかにリアルの商売につなげていくかがわれわれの大きなテーマになっています。
──どのようなビッグデータを活用していくのですか。
荻野 わかりやすいのは、行政機関の持つ公共データの活用でしょう。たとえば、介護認定者数が限られた範囲で町村ベースに公開されています。これにオムツの販売データを重ね合わせたグラフが、あるメーカーさんの展示会で提示されていました。われわれの品揃えについても、そうしたデータを反映した品揃えにすることが考えられます。
商品の価値を顧客に伝える
──データ分析手法の幅を広げることで売場や品揃えはどう変わりますか。
荻野 先進的なメーカーさんは、新しいカテゴリーの創造にチャレンジしています。われわれもそれに取り組んでいきたいと思っています。従来の消費概念とは異なる商品が今、登場し始めており、従来の商品構成を組み立て直すカテゴリー・マネジメントと新しいカテゴリーの創造が課題になってきています。
たとえば、健康系の商品は、新しいカテゴリーの創造にかかわってきます。今は、飲料の中に健康的な飲料があるというレベルですが、これからは違うかたちになっていく可能性があります。飲料自体が不健康というわけではありませんが、お客さまが従来型の飲料が最初から頭になく、健康系の飲料しか目に入らないということになると、比較購買の対象外になってきます。
──新しいカテゴリー・マネジメントが求められてきているということですか。
荻野 棚割をつくり新しい商品を導入しても、お客さまがその商品に気づかなければ意味がありません。今、新しい機能を持った商品、あるいは同じ品種だけれども異なる機能を持った商品などが登場してきています。これまで1つか2つの用途でしか料理に使われていなかったけれども、本当は10の用途があるという商品もあります。こうした情報をお客さまに伝える必要があります。地道ですけれども、そこをしつこくやっていきたいと思っています。
16年度は料理教室を開く計画です。料理や商品の紹介だけではなく、幅広い知識を持った専任者を店舗に配置します。そうすれば、新しい商品や、従来型の商品だけれども本来はもっと幅広い用途のある商品などをお客さまに伝えることができます。カテゴリー・マネジメントに命が吹き込まれていくでしょう。
たとえば、新しい商品の説明が記されてあったとしても、それをじっくり読み込んで購入されるお客さまはあまりいません。いい商品であっても知らない間に棚から消えてしまうということがあります。
一つひとつの商品にどういう価値があるのかをきちんとお客さまに伝えることが小売業の役目です。そこは、メーカー・卸さんとしっかりタッグを組んで、いい商品をわかってもらえるようにしていきたいと思っています。
↑カロリーを抑えた商品の品揃えを強化した。POPをつけて訴求する
←昨年オープンした店舗では、カットサラダやカット野菜などの簡便商品の品揃えを拡大した
──新しい商品というのは具体的にどんな商品ですか。
荻野 山梨県北杜市では、植物工場で農産物が生産され、農産物の工場化がどんどん進んでいます。生産される農産物には、従来と少し違った農産物があります。同じレタスやトマトですが、見た目が違う。食べるとおいしく、無農薬で栽培されているよさがあります。すでに一部は市場に出ていあますが、これからさらに本格化するでしょう。
水産物もそうです。養殖の技術革新によって、これまで食べられてこなかった魚種も市場出てくるでしょう。加工食品や日配品でもそうした傾向が強まります。そうすると、見たことがない、聞いたことがないといった商品をお客さまに伝える努力が必要になるのです。
純粋持株会社体制で成長戦略の幅を広げる
──昨年7月、CGCグループ共通の電子マネー「CoGCa(コジカ)」を全店導入しました。ねらいは何ですか。
荻野 現在、当社の電子マネー会員数は約6万人です。これをもっと増やしていきたいと思っています。電子マネーの導入によって、お客さま1人当たりのレジ通過時間が2~3秒短縮されています。これを、さらに5秒くらい短縮できれば、従来どおりのサービスを提供しながら、人時を減らすことが可能になると考えています。
電子マネーを利用しているのはおもに上得意のお客さまです。電子マネー会員が増えれば上得意化もさらに進むでしょう。
──16年度の出店については、どのように考えていますか。
荻野 SMはスクラップ&ビルドで1店舗を出店する計画です。衣料品専門店は3店舗の出店を計画しています。
衣料品専門店については、今まで以上に力を入れていきたいと考えています。高齢化が進むなか、ワンストップショッピング機能を提供することが大事になってきています。衣料品の商売は確かに厳しいですが、食品、衣料品、雑貨など日常生活に必要なものが一カ所で大体揃うことを便利だと思う方が増えていくでしょう。高齢になると、若者のようにクルマで買い回ることが少なくなり、生活範囲が狭まるからです。ワンストップショッピング化というのは、これからのわれわれの店づくりにおいて非常に重要だと考えています。衣料品専門店はほとんどの場合、SMを核店舗にした近隣型ショッピングセンターに出店しています。当社は衣料品出身ということもありますから、衣料品のビジネスをしっかりと組み立て力をつけていきたいと思っています。そうすれば、新しい衣料品の商売が見えてくるでしょう。
──今後の成長戦略についてどのように考えていますか。
荻野 出店は、来年度以降も着実に進めていきます。出店エリアは、県外を含めて物流センターのある山梨県笛吹市八代町から2時間圏内を考えています。
14年3月に当社はオギノホールディングスを設立し、純粋持株会社に移行しました。これから、一緒にやっていく企業が出てくるかもしれませんし、われわれの事業を分社化していくことがあるかもしれません。純粋持株会社への移行によって、企業の成長戦略の幅を広げていきたいと考えています。
日配品の麺類では低カロリーや糖質ゼロなど健康志向の商品をコーナー化している
塩分を25%カットした減塩の銀鮭。塩分控えめの商品を売場の随所に差し込んでいる