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サトーカメラは、なぜ対面ではなく隣り合って接客をするのか?今もチラシが有益な理由とは?

スマートフォンの普及で斜陽産業になりつつあるカメラ業界において、いまなお圧倒的な強さを誇るカメラチェーンが栃木県にある。宇都宮市内に本部を構えるサトーカメラ(栃木県/佐藤千秋社長)だ。カメラ販売シェア17年連続栃木ナンバー1、栃木県のカメラ・レンズ・写真の年間消費量を全国平均の3倍以上まで引き上げた実績を持つ、“最強”ともいえるローカルチェーンである。第3回はサトーカメラが誇る接客の質や、その独特な店舗作りと販促手法にフォーカスする。

(第2回はこちら

サトーカメラ宇都宮本店店内の様子。全体が派手に飾り付けられている

 秘訣は徹底的に“密”な接客

 前回、ライブコマースがサトーカメラの起死回生の一手となったことに触れたが、ライブコマースが成功した最大の要因は“接客の質”だ。1対1で接客されているような感覚を視聴者に与えるライブコマースも、その肝心の接客の質が悪ければ意味を成さない。

店内にはゆったり座ることのできるソファが並ぶ。アソシエイトはお客と並んで座り、接客する(画面奥)

 サトーカメラでは、スタッフを“アソシエイト”と呼んでいるが、このアソシエイトがサトーカメラの強さを支えていると言っても過言ではない。サトーカメラの接客は徹底して親密、フランクだ。栃木県宇都宮市にある「サトーカメラ本店」では、お客とアソシエイトが並んで座ることのできる、接客用のソファがいくつも設置されている。立ち話や向かい合って、ではなく隣り合って座ることで親密さが増し、お客が本当に困っていることや望んでいる事をじっくり引き出すことができる。時間をかけた親身な接客で信頼関係を構築することができれば、お客はその後も何かあるたびに足を運んでくれるようになる。

 お客によっては、「接客を受けたアソシエイトの名刺をコレクションしている人もいる」(佐藤氏)といい、いかに印象に残る接客が日常的に行われており、顧客との繋がりが強力であるかがわかる。

飾る楽しみを提供する

 サトーカメラの店内には、大きく印刷し額縁に入れられた写真が所狭しと飾られている。店内全体もマスキングテープや紙テープで派手に飾り付けられ、独特の雰囲気を醸し出しているが、これらはただ店内を装飾しているわけではない。「会心の一枚を大きく印刷して飾る、お気に入りの写真を集めてきれいに飾り付けたアルバムを作る。そういった飾る楽しみ、眺める楽しみを知ってもらいたい」(佐藤氏)ためだ。

 コロナ禍で在宅時間が増えたことを受け、今まで撮り溜めた写真を整理してアルバムにすることを促す提案も行った。「プリ放題」は、従来の一枚当たり何円という課金形態の常識を打ち破り、「50枚まで何枚プリントしても税込990円」にしたサービスだ。50枚まで同額といわれると、つい枚数多くプリントしてしまうのが人間だ。店舗側としてはもちろん、枚数が少ない方が利益に繋がるが、サトーカメラはあくまで「たくさんプリントして、写真を手に取る楽しさを知ってもらう」(佐藤氏)事を優先する。

お客が自由に使うために設置されたテーブル。奥にはドリンクバーも設置されている

 通常のカメラ店では考えられないようなサービスも、サトーカメラ実店舗では提供する。店舗の中央にテーブルを設置し、文房具やマスキングテープを大量に用意。すべてお客が自由に使うことができ、プレゼント用のアルバムを作る女子高生などが頻繁に訪れるという。さらには、長く滞在するお客のためにドリンクバーまで設置する念の入りようだ。

まだまだ健在のチラシ販促

 そんなサトーカメラが行う販促で、意外にも健在なのがチラシ販促だ。サトーカメラでも、販促の多くはLINE公式アカウントでの情報発信に移行しつつあるが、「チラシ自体がなくなることはない」と佐藤氏は話す。折込チラシは新聞を購読していなければ見ることはできないが、ポスティングはそうではない。また、店舗を訪れたお客にチラシを手渡しし、LINE登録に誘導するのにもやはり紙媒体は便利だという。

 また、サトーカメラはポスティングを外部に委託せず、すべて自社スタッフが行っているのも特徴的だ。サトーカメラは地域密着型の店舗だが、その店舗で勤務するスタッフが近隣の出身とは限らない。スタッフが「自らの足で商圏を周り、どんな地域なのか、どういう人が住んでいるのかを知ることが大切」(佐藤氏)というねらいがあるのだ。

アフターコロナ、斜陽のカメラ業界、今後の生き残り戦略は

 コロナ禍に打ち出したライブコマース戦略の成功によって危機を脱したともいえるサトーカメラだが、アフターコロナでは「店頭販売は3割ダウンする」(佐藤氏)と厳しい見通しを示す。実店舗での減少分をカバーするためには、現在2000万円/月を売り上げている通販の売上は、さらにここから3倍4倍と伸ばしていく必要がある。佐藤氏は、「ECの売上は(月当たり)1億円まで伸ばすのが目標。今年中にはそこまで持っていけるようにしたい」と強気の姿勢だ。

 カメラ業界自体が斜陽の時代を迎えている中、今後の生き残り戦略について佐藤氏は「売上目標を達成することに固執しない。数字にこだわると、何でもいいから『とにかく売れ』になってしまう。そうではなく、集客する商品と稼ぐ商品を見極める。(プリ放題など)稼ぐ商品はどこにも負けないものを作り込むことが大切」と語った。

 栃木県にサトーカメラあり、といわれるまでの成長を支えた独自の路線を、サトーカメラと佐藤氏は今後も貫き続けていく。