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事業横断でシナジーを発揮しペットのコンシェルジュをめざす=イオンペット 小玉 毅 社長

イオンペット(千葉県)は「動物と人間の幸せな共生社会の実現」を企業理念に掲げ、ペット関連商品(生体除く)の販売やトリミング、動物病院、ペットホテル、しつけ教室、介護ケアサービスなど、ペット全般にかかわるさまざまな事業を展開している。3月1日に代表取締役社長に就任した小玉毅社長に経営戦略を聞いた。

ペット業界をめぐる状況は大きく変わっていく

──現在のペット業界をどのようにみていますか。

イオンペット 代表取締役社長
小玉毅(こだま・たけし)
1962年生まれ。85年3月ジャスコ(現イオン)入社。2001年9月同社マーケティング本部長。03年2月イオンマレーシア出向。06年イオンコーポレート・コミュニケーション部長、09年4月戦略部長、11年3月デジタルビジネス事業責任者、イオンリンク代表取締役社長、イオンダイレクト代表取締役社長。12年3月イオンEコマース事業最高経営責任者、14年3月イオン執行役グループマーケティング最高責任者。15年3月イオンペット代表取締役社長。

小玉 日本はまだまだ「ペット後進国」であり、ペットを飼っているとさまざまな場面で“区別”されます。ペットと一緒に飲食できる店が少なかったり、日常生活を送るうえでさまざまな制約があります。ペットを飼うことのメリットについても科学的な蓄積が進んでいません。

 ペットを飼うことによるご利益はさまざまあります。たとえば、日頃「ストレスを感じている人」の通院回数は、犬を飼っていない人が年10.37回なのに対して、飼っている人は年8.62回にとどまっています(※1)。つまり医療費抑制効果があるのです。ペット飼育による医療費抑制については、ドイツでは年間7547億円、オーストラリアでは同3088億円の節約効果が報告されています(※2)。

※1:シーゲル(siegel,M.,1990)
※2:ヒーディら(headey,B.,et1985)

 何よりもペットを飼うことで、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンがより活発に分泌されるようになり、「癒し」や「和み」が生まれるほか、規則的な生活を送るようにもなります。犬ならば散歩が日課となり、運動不足の解消にもつながります。

 これらのメリットに着目し、人間とペットが共生できる社会をつくろうという動きが一部で出てきていますし、今後、ペット業界をめぐる状況は大きく変わっていくと考えています。

──しかしながら、ペットの飼育頭数の減少傾向は依然として続いています。

小玉 日本のペット関連の市場規模は1兆4000億円ほどだといわれています。内訳は物販とサービスが半々の7000億円となっています。物販の中で最大は4000億円のペットフードで、これはアイスクリーム市場とほぼ同じボリュームです。

 確かに、犬の登録頭数は2003年をピークに減少しています。14年の登録頭数は03年と比べると約4割減っています。03年に飼いはじめたペットの寿命が約15年だとすると、18年以降は登録頭数が大きく減っていくことになります。何もしなければ、25年にはマーケットの約4割が消えてしまうでしょう。この推計は血統書の登録件数をベースにしていますが、人口動態の変化に合わせて飼育頭数が減っていくことは間違いありません。

ペットのカルテとオーナーの購買履歴を統合

──さて、3月にイオンペットの社長に就任されました。

小玉 当社は、売上規模は約300億円と小さいながらも、物販やトリミング、動物病院など、ペット関連のすべての事業を手掛ける、世界にも例がない物販とサービスを網羅した複合企業体です。生体はテナントさまを導入して扱っています。通常の小売業態ならば、1社だけで関連事業をすべて手掛けることは難しいでしょう。ペットのワンストップショッピングが当社の特徴であり、強みです。

 主な事業は、生体を除く物販、動物病院、トリミングサービス、ホテル、しつけ教室の大きく5つです。しかし、それぞれ専門性が高いこともあり、各々が独立して成長してきた歴史があります。物販の販売員、獣医師、トリマーなど、ほぼ交流もなく組織も縦割りでした。

 ペット関連のビジネスは、生体の販売からお客さまとの関係がスタートします。その際に、獣医師やトリマーを紹介し、ペットのケアなどを提案するようなこともできていませんでした。各々がバラバラでシナジーを発揮できていなかったのです。

 そこで、今期(16年2月期)からはお客さまのご利用データを活用したワン・トゥ・ワンマーケティングの実施に着手します。

 社長就任後、私が着目したのが動物病院に蓄積されていた膨大なカルテです。ペットオーナーの情報に加え、ペットの既往歴がすべて記載されていました。また、トリミング事業でも膨大なカルテがありました。これもペットとオーナーの情報です。

 一方で、当社は昨年、ポイントカードと電子マネー「WAON」が一体になった「イオンペットWAON」カードを発行しました。動物病院の診療を除いて、当社でのご利用200円(税込)につき5ポイント、電子マネー「WAON」での200円(同)のお支払いで1ポイントを付与するものです。「イオンペットWAON」カードは、驚くことに1年間で55万人のお客さまが会員登録しました。この55万人のお客さまはすべてペットオーナーです。この「イオンペットWAON」カードからは、すべての購買履歴が分かるようになっています。

 これらカルテや購買履歴のデータをイオンのプラットフォームを活用して1つのIDで統合すれば、ペットとオーナーの情報を一元管理した、まったく新しいビジネスモデルをつくることができると考えています。

 具体的には、ペットの飼いはじめからケアまで、一気通貫のサービスを提供できるようになります。

 ペットは、たとえば犬種によってかかりやすい病気があったり、治療方法も変えなければなりません。犬種や年齢に合わせたペットフードを選ぶことも重要です。また、個別のペットの既往歴やそのオーナーの利用履歴からは、過去、ペットがどんなものを食べてきたのか、既往歴や治療の内容、そして今後どのようなケアが必要になるのかまでわかります。これらビッグデータを生かして、ワン・トゥ・ワンマーケティングを実施します。これが当社の戦略の1つの柱です。

──いつごろからスタートするのですか。

小玉 動物病院やトリミングのカルテはこれまで手書きでしたから、過去にさかのぼって電子化できるように準備を進めています。この1年は、ワン・トゥ・ワンマーケティング実施の体制づくりとその投資をします。早ければ17年2月期からワン・トゥ・ワンマーケティングをスタートしたいと考えています。

ペットを飼うハードルを下げ、ペットホルダーを増やす

──データ活用によるワン・トゥ・ワンマーケティングの実施は既存顧客の維持深耕策です。市場の縮小が進むと考えられるペット業界では、新しい需要も創造していかなればなりません。

小玉 業界をあげてペットホルダーを増やしていかなければなりません。

 ペットフード協会(東京都/越村義雄会長)によると、犬の飼育頭数は1087万2000頭、猫は974万3000頭で、飼育率はそれぞれ15.8%、10.1%となっています。ペットの飼育を希望する飼育意向率は飼育率の2倍近くあり、潜在的なニーズは高いと言えます。

 ペットの飼育を阻害する要因は、「集合住宅に住んでいて禁止されているから」「十分に世話ができないから」「最後まで世話をする自信がないから」「しつけをする自信がないから」などがあります。

 しかし、これらの不安や不満を解決することで、ペットホルダーを増やしていけると考えています。

 先ほど述べたように、当社にはペットに関する膨大な情報があります。ですからお客さまがどのような場面でお困りになるかをすべて想定し、解決策をご提案することができます。たとえば、膝の弱い犬種に合ったペットフードや運動の仕方を前もってお客さまにお伝えすることができます。当社はしつけ教室も運営しているので、さまざまな相談にも乗ることができます。また、高齢者が「最後までペットの面倒をみられない」と、ペットを飼うことを躊躇されているなら、万が一のときは保険でペットをサポートできる仕組みをつくることもできるでしょう。さらには、グループのカジタク(東京都/澁谷祐一社長)と組んで、犬の散歩をはじめさまざまなペット関連の支援サービスを提供することもできます。

 このようなことをお客さまに広くお伝えすることで、ペットを飼うことのハードルを下げることができると考えています。

──ペットの飼育を検討している方々に対し、どのようにリーチしますか。

小玉 1つ考えているのは、当社のWEBページをペット関連のコミュニティサイトにすることです。イオンのショッピングポータルサイト「イオンスクエア」のようなイメージで、ペットオーナーや飼育意向を持っている人同士が交流できるようなサイトをつくりたいと考えています。

 また、全国に約200ある店舗を通じてさまざまな情報を発信し、啓蒙していきます。現在、有料のしつけ教室を無料化したり、店頭でさまざまなご相談に乗ることで、お客さまの不安や不満を相当解消できると思います。

専門店用のオリジナル商品を増やす

──イオンペットは、グループのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」のペット関連商品の開発を手掛けています。

小玉 グループ会社からの業務委託というかたちで「トップバリュ」商品の開発を行っています。

 また、イオンリテール(千葉県/岡崎双一社長)とマックスバリュ関東(東京都/後藤清忠社長)のペット関連売場の棚割り作成業務も受託しています。手数料収入になりますが、これも当社の事業の1つの柱となっています。

──イオンリテールとマックスバリュ関東のペット関連商品の仕入れは、イオンペットが行っているのですか?

小玉 仕入れの実務自体は両社が行っていますが、メーカーやベンダーさんとの交渉は当社が行っています。これをほかの総合スーパーや食品スーパー、ドラッグストア、コンビニエンスストアなどを含めてグループ全体で行えば、とても大きい金額になります。スケールメリットをテコにすれば、ナショナルブランド(NB)商品の仕入れ原価低減や商品開発をさらに進めることができるでしょう。

──どのような商品を開発していく方向ですか。

小玉 現状、ペットフードやペット用品はNB商品が中心です。

 PB「トップバリュ」は、どちらかといえば価格訴求型のものが多い。これをメーカーさんとタッグを組んで専門店用の商品を増やしていきたいと考えています。

 具体的には、ペットフードではプレミアム系の商品です。「オーガニック」や「ナチュラル」を切り口にした付加価値商品で、近年、大きく伸びているカテゴリーです。たとえば犬なら、「肥満」「関節」「皮膚」などのほか、年齢別、犬種別のペットフードがあり、プレミアム系の商品はよく売れています。

 このように当社が商品開発に力を入れていこうとしているのは、ネット通販の開始を視野に入れているからです。

 ペット関連商品のネット通販比率は約2割といわれていて、ペットフードは重くてかさばるものの代表例ですから親和性は高い。しかし、NB商品をネットで販売しても低価格競争に陥るだけです。ですからオリジナル商品を開発していこうとしているのです。

 当然、われわれだけではできないので、3年くらいかけてお取引先さまと一緒に商品を開発してきたいと考えています。

──イオングループは「アジアシフト」戦略を打ち出しています。海外での成長可能性をどうみていますか。

小玉 現在、当社は中国に2店舗を展開しています。

 アジア地域では、とくに中国とタイのペット市場が大きく伸びるとみています。この2カ国は日本と同じようなペットの飼育スタイルが定着してきていますから、成長機会は大きい。中期的に中国のペット市場は日本の2倍くらいまで拡大するでしょう。中国とアセアン地域を合わせると5兆円くらいのマーケットになると思います。ですからわれわれはアジアでナンバーワンのペット専門店チェーンになるつもりでビジネスを展開してきたいと考えています。

 日本でも海外でも、ペット関連のビジネスはまだまだ大きくできると思います。当社の売上高は約300億円ですが、1000億円をめざしたいと考えています。