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売上高日本一のSMチェーン発足!統合シナジーを具現化=U.S.M.H上田 真 社長

食品スーパー(SM)のマルエツ(東京都/上田真社長)、カスミ(茨城県/藤田元宏社長)、マックスバリュ関東(東京都/後藤清忠社長)の共同持ち株会社、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(東京都:以下、U.S.M.H)が2015年3月2日に設立された。SM事業会社3社の2015年2月期業績を単純合算すると営業収益は6471億円となり、SM業界の売上高としてはダントツ。U.S.M.Hの経営戦略を上田真社長に聞いた。

統合シナジーは早いタイミングで生まれる

──14年5月に「首都圏におけるスーパーマーケット連合」創設の基本合意を締結。15年3月2日にマルエツ、カスミ、マックスバリュ関東の3社を事業会社とする共同持ち株会社、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス(以下、U.S.M.H)が設立されました。基本方針に「統合シナジーによる新たな価値創造」を掲げています。

ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス 代表取締役社長
上田真(うえだ・まこと)
1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。76年マルエツ入社。95年販売本部第16販売部長、96年経営管理本部経営計画部長、99年総務人事本部人事部長、2005年教育人事本部長。05年5月取締役、06年5月取締役執行役員、07年5月取締役常務執行役員。08年3月取締役営業企画本部長、10年3月取締役教育人事本部長。10年9月営業統括副統括(商品計画担当)。11年5月取締役専務執行役員。13年4月代表取締役社長。15年3月、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス代表取締役社長。

上田 15年2月期のSM事業会社3社の実績を単純合算すると、営業収益が6471億円、営業利益が117億円、経常利益が120億円、当期純利益が23億円となりました。

 16年2月期から始まる3カ年の中期経営方針の中で、U.S.M.Hの18年2月期の業績目標として営業収益7200億円、営業利益160億円という具体的な数値目標を掲げ、現在はすでにそれに向けて進んでいます。統合によるシナジーは、数値的な効果を含め、私が統合前に考えていた以上に早いタイミングで生まれるのではないか、という感触を持っています。

 その根拠は、事業会社間のコミュニケーションがよくとれているからです。

 もちろん、月に1度の取締役会、月に2度の経営会議、そしてグループシナジー効果実現委員会というミーティングがあるのですが、それだけではありません。各社の商品部長クラスが集まるミーティングなどもあり、同委員会の会議と合わせると延べ三十数回実施しています。

 さらに各社のバイヤーやマーチャンダイザーが打ち合わせて、共同で商談するケースも出てきています。定まった会議ではなく、実務レベルで自主的にコミュニケーションをとっている。そういった風土ができつつあるので、今のところはとてもいい方向に向かっていると感じています。

 U.S.M.H設立を記念して、3月2日から共同販促を打ちました。その商談は昨年の12月から行っています。具体的な単品の選定、売価設定など、共同販促以外の商品でも会社設立に当たってかなりの商談を行いました。そのあたりから、実務レベルでのコミュニケーションの素地ができあがっていきました。

 物理的な立地も、コミュニケーションを密にするうえで重要な要素です。U.S.M.Hの本社は、事業会社から通いやすい「秋葉原」に設定しました。

 またもう1つ、トップが余計なことを言わなかったことがよかったのだと思います。いずれのトップも、「あれをしてはいけない」「ここから先は踏み越えてはいけない」などとブレーキをかけなかった。アクセルを思い切り踏んだわけでもありませんが、巡航速度で走りながら、自然体で臨んだスタンスがよかったのだと思います。

 各社のバイヤーや現場に携わる人たちは、それぞれに悩みや、自分が与えられている数値目標に対する改善意欲を持っています。それが、自然発生的なコミュニケーションを生んでいるのだと思います。人の融合というのは、商品や仕入れの統合などよりも難易度が高いものです。ただし、その融合ができてくると、おのずと本来の事業目的に近づけると考えています。

──事業目的は、経営統合することでシナジーを生み出すことですか。

上田 そもそもU.S.M.Hは、各事業会社の自主自律の精神を大切にしています。ホールディングスのための事業会社ではなく、事業会社のためのホールディングスであることが基本的な考えです。SMは地域性が非常に高いので、中央集権型のマネジメントはなじまないと思います。ですから、あくまでも事業会社が主体性を持って事業を行います。

 しかし、事業会社だけではできなかったこと、あるいは一緒になることでよりよくなることを集約する。そして、事業会社にとって今よりもプラスになること、つまりシナジーをつくり上げる。それがホールディングスの役割です。

 ホールディングスが課題を設定し、それを事業会社に解決させるスタンスでは決してありません。ただ、そうは言っても、ホールディングスとして組織的に動かねばならないことは発生するはずです。

 そのような場合には、全体最適を考えなくてはなりません。たとえばマルエツにとってマイナス1でも、カスミにとってプラス1、マックスバリュ関東にとってプラス1になるのであれば、これはやるべきです。しかし、マルエツにとってマイナス1、カスミにとってプラス1、マックスバリュ関東にとってプラスマイナスゼロの事案であれば、これはやるべきではありません。

 事業会社の自主性に委ねるところと、ホールディングスが強制力を働かせるところ、そのバランスをとっていくつもりです。そういう意味では、カスミの藤田元宏社長(U.S.M.H取締役副社長)も私も事業会社のトップを兼任していますから、ホールディングスのトップの立場と事業会社のトップの立場でバランスをとっていく難しさはあります。しかし、事業会社を説得しなければならないことが生じたときにはやりやすいと思います。

関東圏で圧倒的なシェアをとれる商品が相当数ある

──事業会社の自主自律を前提にすると、出店政策や商品政策の面で、シナジーを得にくいのではないですか。

上田 われわれ3社は切磋琢磨する関係ですが、目的を共有しています。

 ですから、出店調整は基本的にはしなくていいと思っています。

 もちろん、ひとつの物件をお互いが取り合いをしたり、目玉商品の値下げ合戦をしたりするといった無意味な競い合いをするつもりはありません。

 仮にマルエツとカスミが近場に出店するとします。それはU.S.M.Hにとり、トータルでマーケットを拡大することにつながります。

 私の経験からいえば、同じ小型SM「マルエツ プチ」2店舗が至近距離に出店しているケースでは、売上は1.4倍に増えます。これが1.6倍になれば、2店舗が十分に成り立ちます。屋号が異なり売場も異なる2店であれば、売上が1.6倍以上になることは難しいことではないはずです。

 一方、商品政策面ですが、可能なことから統合を進めていく考えです。ただ、帳合の統合や商品政策の変更ありきではなく、それはそのままにしておいてでも、共同商談、共同販促といったキャンペーンをやり続けていくことがシナジーにつながります。

 今回経営統合した3社は、業態とエリアにおいて親和性があります。業態はSMで、出店エリアは関東圏です。この親和性があるがゆえに、関東圏で圧倒的なシェアをとれる商品が相当数あるはずです。

 そういう意味でも、U.S.M.H専用のプライベートブランド(PB)商品の開発はしていかねばならないと考えています。3社合わせた営業収益は16年2月期で6600億円の見込みです。関東圏内で、単品で3億円?4億円売れる商品をつくる余地はたくさんあるはずです。

 PB商品の開発については、今後の検討材料です。PBを開発するに当たって、重要なことはコンセプトづくりです。そこを間違ってしまうと、PBの本来の目的を見失い、安易な商品開発に終始してしまうことになりがちです。

 PB商品には棚の中で最もいいスペースが与えられます。そのため競争原理が働かないことが、PB自体の行き詰まりの要因となります。

 ナショナルブランド(NB)商品同様にPB商品にもライフサイクルがあり、必ず衰退期を迎えます。PB商品はカテゴリーの中で最も売れ、粗利益もとれる商品ですから、衰退期を迎えると、カテゴリー全体の売上が減少します。

 しかし、企業の主張であるPB商品の配置は簡単には変えられません。そこで、リニューアルが必要になりますが、PBはリニューアルしたことが伝わりにくい特性もあります。

 開発したてのPBはよく売れ、いつの間にかカテゴリーで売上ナンバーワンになります。しかしながら、開発時点で3年後の推移を考慮に入れて設計しておかないと、いずれ行き詰まってしまいます。その意味でもコンセプトづくりはとても重要で、SMにとってのPBの位置づけも含めて十分に議論をしていきたいと考えています。

 PB開発は、理想的にはバイヤーやマーチャンダイザーが川上までさかのぼっていかなければいけません。産地まで入っていき、原料を吟味し、それに基づいた流通経路の確保と加工、そして店での売り方まで一貫して行うのが本来のマーチャンダイジングだと思います。そのようなPB開発ができる人材が育てば、NB商品の商談でも視野が広がってくるはずです。

──商品についていえば、生鮮の加工センターを新たにつくる計画があると聞いています。

上田 現在、カスミには茨城県土浦市に精肉、かすみがうら市にデリカのセンターがあります。また、マルエツには神奈川県川崎市と埼玉県三郷市に精肉・鮮魚のセンターがあります。それらセンターを実験的に相互活用することを考えています。

 また、マルエツでは統合の前からデリカとベーカリーのセンター建設が俎上に載っていました。今回の統合により、汎用性のあるセンターを建設すれば、相対的な投資額が減りますし、稼働率も上がります。

 ここでも、生産段階までさかのぼれば、生産、加工・製造から販売まで一貫性を持ったバーティカル・インテグレーション(垂直的統合)ができます。そのような加工・製造、販売の工程は押さえていきたいと思います。

ほかの業種・業態と提携することはあり得る

──M&A(合併・買収)に対するスタンスを教えてください。

上田 現在はM&Aの具体的な話はありません。

 また、U.S.M.Hは、力ずくのM&Aはしません。会社の設立趣旨に賛同していただける企業はウェルカムです。賛同を得るためには、まずU.S.M.Hとしての実績を出さねばなりません。

──経営統合がデメリットになり得る可能性はないでしょうか。たとえば、ホールディングスは一般的に新規事業が生まれにくいと言われています。

上田 繰り返しになりますが、U.S.M.Hの各事業会社は自主自律型組織です。スケールのデメリットというのは、中央集権によるデメリットとほぼ同義語といえるでしょう。

 マルエツの例を挙げると、売場面積40坪?50坪の「マルエツ プチ」でも地下鉄で1駅違うと売れる商品が変わってきます。一律に同じ棚割りで同じような売り方をしていたら、マーケットとのミスマッチが起こります。地域に根差そうとすればするほど、品揃えが店ごとに異なってきます。ですから、SMは結果的に個店主義にならざるを得ないのです。

 店ごとに品揃えを変えると、手間暇がかかります。しかし、これは、コンビニエンスストア(CVS)にはできないことであり、むしろCVSはやってはいけないことです。だからこそ、「マルエツ プチ」は周辺にCVSが10店舗あるような場所でも成り立つのです。CVSと同質化せず、SMを極めることがCVSとの差別化にもなります。

 個店主義とはいえ、もちろんチェーンストアの考え方で運営します。ざっくりとした言い方でいえば、チェーンストアとして標準化する要素が8割、残りの2割が個店主義といえるでしょうか。

 今のところ、U.S.M.Hで新規事業を行うことは考えていません。

 ただし今後、ホールディングスとして、SMとの相乗効果が出そうなほかの業種・業態と提携することはあり得ます。

 U.S.M.Hの強みは、3社が共に関東圏のSMであるという親和性です。この強みは、裏を返せば、業態がSMのみであることです。マスのメリットは出やすいのですが、新たな業態開発となると限界があります。同じ業態同士が統合した足し算の関係から、掛け算のシナジーを出すにはほかの業種・業態と連携していくことが1つの選択肢です。われわれはイオン(千葉県/岡田元也社長)というさまざまな業種・業態を持つグループに所属しているわけですから、うまく連携していけば、ウィン・ウィンの関係をつくることができると考えています。

 グループのドラッグストア(DgS)、CVSなどと共同で店舗開発することを視野に、情報交換を進めているところです。首都圏においては、「マルエツ プチ」の品揃えを基本に、DgSやCVSの機能を付加した複合型のフォーマットの出店も可能だと考えています。