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社員が成長を実感できる組織へ人材教育に本腰入れる=東急ストア 須田 清 社長

東急ストア(東京都)の既存店が好調だ。既存店売上高は、2014年の増税の反動があった4月を除けば、2年以上、前年同月をクリアしている。須田清社長は、同社を率いて約3年。現在まで経営基盤の立て直しに取り組んできた。不採算店舗の閉鎖を終え、15年度からはほぼ凍結していた新規出店にも乗り出す。同社の経営戦略について須田社長に聞いた。

売場面積減少するも既存店が健闘

──食品スーパー(SM)の販売が好調です。2014年度(15年2月期)の営業状況はいかがでしたか。

東急ストア 代表取締役社長
須田 清(すだ・きよし)
1956年6月生まれ。79年3月明治大学法学部卒業後、東急ストア入社。2009年3月執行役員。11年2月取締役常務執行役員。商品本部長、営業統括本部長を経て、11年11月取締役専務執行役員。12年5月代表取締役社長に就任

須田 この2年ほど、当社は不採算店舗の閉鎖を進めてきました。その結果、現在の総売場面積は2年前から10%以上減少しています。売場面積の減少もあって、全社の売上高は対前年度比98%と、残念ながら13年度の水準に届きませんでした。

 ただ、売場面積が減少するなかにあって2%の減収幅にとどめることができたのは、既存店の売上が伸びたからです。14年度の業績数値はまだ固まっていませんが、既存店売上高は同103%程度になりそうです。首都圏、とくに東京都や神奈川県では、SMの既存店は総じて好調ですが、そのなかでも競合店に負けずにがんばったというのが、全体としての評価です。

──12年の社長就任以降、経営基盤の立て直しに取り組まれてきました。

須田 12年度に着手したのが、販売体制の立て直しです。当社はそれまで売上が伸びない時期が長く続いていました。コストを削減するために、過度に人員を減らし、その結果、お客さまにご不便やご迷惑をかけていたことも一因です。それを謙虚に反省し、それらの点を解決していきました。

 必要なところには適正な数の人員を投入し、売場をあるべき姿にすることに徹底して取り組みました。その結果、たとえば、総菜などで夕刻に売るべき商品を揃えられるようになったり、品切れした商品をすぐに補充できるようになったりしました。また、ピーク時にすみやかにレジを開放できる運営体制も整えました。

 13年度は、徹底して売場をあるべき姿にするとともに、お客さまのご不満を解消しようと、全店でお客さまの声を聞くアンケートを実施しました。競合店も多いなかで、お客さまから東急ストアを選んでいただくためには、お客さまに寄り添う企業、売場であるべきと考えたからです。アンケートは、店長や副店長が来店されたお客さまの声を直接聞きました。その結果、1万6000件ほどの不満や要望が集まり、このご意見を参考に改善に取り組みました。

──14年度は、どんなことに取り組んできましたか。

須田 14年度も前年度と同じように、売場のあるべき姿を追求するとともに、もう一度、全店でお客さまの声を聞きました。さらに、お客さまに加えて従業員の声も集めました。採用環境が厳しさを増すなか、できるだけ長く働いてもらえるような会社にしていこうと、従業員、とくにパート社員全員の声を聞いていきました。

 従業員の声からは、設備、労働条件、コミュニケーションなどに対する不満が上がってきました。現在、1年をかけて改善に取り組んでいるところです。店長や副店長に対しては、従業員と円滑なコミュニケーションをとれるようにすることを目的にした研修も行いました。従業員にアンケートをとるときは、いきなり従業員に意見を求めても答えにくいため、たとえば、全店の休憩室を完全分煙にするなど職場の環境を改善したあとに、従業員へのアンケートをとるといった工夫もしました。

 従業員のモチベーションが上がり、店舗が明るくなると、それをお客さまは敏感に感じとります。今まで離れていたお客さまが戻ってきてくださり、新しいお客さまが増え、お客さまからの支持率である客数が以前と比べて増えていきました。

 買上点数も増えています。これは、品切れがない、関連販売やメニュー提案ができている、従業員が元気よくお客さまとコミュニケーションをとって商品を売り込んでいる証です。いい方向に進んでいると思います。

作業を標準化し新たな従業員教育

──15年度は何に重点的に取り組む考えですか。

須田 経営にとって単年度で終わる政策というものはなく、当たり前のことを当たり前にやり続けるのが経営でしょう。これまで当社も、当たり前のことを当たり前にやってきただけで、とくに新しいことをしたわけではありません。前年度の政策を進化させつつ、今年度はこれにチャレンジしようという形で政策を積み重ねてきました。それが徐々に定着してきたということだと思います。

 これまでの政策をさらに推進することに加えて、15年度はとくに力を入れていきたいと考えているのが従業員教育です。当社は来年創業60周年を迎えますが、社員の年齢構成からすると今後5年ほどで相当数の店長、副店長クラスが定年退職を迎えます。新規採用数よりも退職者数が多いため、社員数は年々減っていく傾向にあります。加えて、当社が店舗を展開する都心部ではパート・アルバイトの確保が非常に難しい状況です。

 従業員教育は、パート・アルバイトの定着率を引き上げようというのがねらいです。

 じつは当社ではこれまで、社員、パート、アルバイトの仕事が明確になっていませんでした。そこで、社員は部門の運営責任者、パート社員は実行責任者と、役割を明確に分け、開店前から閉店後までのすべての作業を1つ1つ見直しました。外部のコンサルタントを活用して、客観的な視点から、しっかりとした作業の標準をつくっていく計画です。

 15年度は、8つの営業エリアの1店舗ずつに、店舗を指導しているスタッフが一緒に入り、標準化された作業を定着させます。外部コンサルタントにも協力していただきながら、教えるノウハウも磨き、次年度以降、指導する店舗を増やしていきます。こうした段階を経て、3年間で全店に作業の新しい標準を定着させる計画です。その標準に合わせて、必要な従業員教育を、あるいはそこに必要なスキルの研修をしていきます。

──これまでとは異なる従業員教育になるのですか。

須田 入社時や昇格時以外にも、経過年数、資格等級に合わせて、全社員を対象に教育を強化していくことにしています。教育を通じて、今やる気になっている社員たちが、自らの成長を感じられる組織にしていきたいと考えています。

 人手不足は最も重要な経営課題の1つです。当社は今、対策を打ち始めたところですが、労働単価の上昇と労働力そのものの減少はSM業界にとって非常に深刻な問題です。

 東急ストアの店舗がお客さまの役に立ち、従業員が明るく元気で働ける環境が整っていれば、おのずと人は集まってきて、長く働いてもらえるようになるでしょう。パート社員の方には最初にしっかりと研修をして、不安を取り除くことで離職率が大きく下がりました。ですから、新しく働いていただくパート社員は原則として入社時に研修に参加していただいています。

 これまで、定年退職する社員を再雇用するときは、役職につくことはなかったのですが、これを、スキルとやる気があって健康な方については60歳を過ぎても店長や副店長、課長などの役職につくことができ、一定の賃金で働いてもらえる制度に、昨年切り替えたところです。60歳を過ぎても働くことができる、そして会社が自分を必要と認めていることがわかれば、先行きの不安が払拭されるはずです。

 従業員にとっても、会社にとっても、さらにお客さまにとってもいい。そんなウィン-ウィン-ウィンの関係を構築していきたいと考えています。そういう関係でなければ、従業員も疲弊してしまい、売場のあるべき姿も維持できません。会社の成長にとって、人材教育は非常に重要です。

15年度から新規出店 3~5年かけ全店大改装

──15年度の商品面での重点施策は何ですか。

須田 MD(商品政策)においては、ここ2、3年取り組んでいることがあります。当社には駅前立地の売場面積が小さい店舗が数多くあります。面積が少ないぶん、取扱商品数を増やすことはなかなかできません。そこで、これだけはどこにも負けないという、業界一、あるいは日本一のカテゴリーを各部門でつくろうと考えています。

 1つめは、特定のカテゴリーについて、商圏のお客さまに合うように品揃えに特徴を持たせることです。そうすることで、商品を購入しようとされるときに東急ストアの売場を思い浮かべてもらえるようなカテゴリーに育てていきたいと考えています。たとえば、果物ならカットフルーツでナンバーワンをめざす、アイスならばプレミアムカップアイスでナンバーワンになるということです。

 2つめは、シニアマーケットにどう対応するかです。シニアマーケットへの対応方法は1つではありません。シニアマーケットは小さなマーケットの集合体です。これにいかに対応していけるかが課題です。シニアが総菜を買うようになってきたと盛んに言われますが、すべてのシニアが総菜を買うわけではありません。単身シニアが総菜を多く購入されますが、家族のあるシニアはそれほどではありません。

 世帯構成だけでなく、所得や健康状態によっても、シニアの求めるものは違います。シニア全体に共通する需要と、細分化した需要を理解したうえで、シニア対応を進めなければなりません。シニアのお客さまの情報を得ながら、仮説を立てて検証していくことが必要だと考えています。

 3つめは、プライベートブランド(PB)です。PBは当社のMDにとって、非常に重要な部分です。店舗を展開する東急線沿線は、日本で最も肥沃な消費マーケットの1つです。価格訴求型のPBはもちろん必要ですが、このマーケットにおいては、それだけでは当社を選んでいただけません。上質なPBによって、通常のナショナルブランド(NB)では提供できない価値を提供していく必要があります。

 原材料の品質はもちろん、お客さまの使い勝手も考えて商品化するのが、当社のPB開発の考え方です。お客さまが知らず知らずに感じている不満を理解し、出店エリアのお客さまに寄り添った商品開発をしていこうと考えています。

 現在、PB「Tokyu Store PLUS」は約500アイテムあります。開発した商品がすべて売れるわけではありません。リニューアルしたり、場合によっては販売を中止したりと、お客さまのニーズの変化に対応して商品改廃をすることが非常に重要です。PBも東急ストアファンを増やす要素になると考えています。

 もう1つ付け加えるならば、生鮮食品の強化があります。総菜の強化はもちろん重要ですが、SMの使命は家庭での調理の手助けとなる食材を提供することです。「生鮮食品の強化」を会社の政策に掲げてからは、それまでダウントレンドにあった鮮魚部門の売上は現在、前年比2ケタ増で伸びています。

──不採算店舗の閉鎖を終え、今後の新規出店についてはどのように考えていますか。

須田 過去2年間、出店をほぼ凍結してきましたが、15年度からは新規出店をしていきたいと考えています。14年度には店舗開発スタッフを増強し、1年間かけて出店できる体制をつくり上げました。

 昨年4月にオープンした「東急ストアフードステーション中延店」が、非常に好調です。売場面積が57坪とコンパクトなこの店では、コンビニエンスストア(CVS)の需要を取り込もうと、カウンターコーヒー、デジカメプリント、ファックス、収納代行サービスを取り入れました。これらの各種サービスを提供しながら、生鮮食品で勝負するというこの店のコンセプトです。売場面積はCVSとほぼ同じ規模ですが、平均的なCVSの2倍の売上に達しています。

 この店をモデルとして、これをさらに進化させた小型店を開発します。さらに売場面積200坪から300坪のSMをつくっていきたいと考えています。

 現在、その候補地の選定に入っているところで、15年度は1、2店舗出店したいと考えています。また、既存店強化のため、今後3年から5年かけて全店を大規模改装していく考えです。改装後の店年齢を3歳台にすることをめざし、優先順位の高い店舗から改装を実施し、既存店のさらなる活性化を図ります。15年度は20店舗強を改装する予定です。