2015年2月末までに既存店全店を改装
2013年2月期に売上高が対前期比2.8%増の1649億円、営業利益が同23.6%減の35億円と増収減益となったマックスバリュ東海(静岡県)。前期は6店舗を出店したため増収となったものの、既存店売上高は同1.7%減少した。既存店のテコ入れを急ぐ同社は、15年2月末までに既存店全店を改装する計画だ。13年5月に社長に就任した神尾啓治社長に、既存店の収益性改善策などについて聞いた。
SMの強みであるデリカと生鮮食品を強化
──2014年2月期の第1四半期決算は増収増益となりました。
1957年生まれ。80年3月八百半デパート(現マックスバリュ東海)入社。98年2月営業コーディネーター部長、2001年9月八幡町店店長、03年3月商品統括部デイリーマネージャー、04年3月店舗統括本部長。04年5月に取締役就任。08年5月常務取締役、11年5月商品統括本部長。13年5月から代表取締役社長。56歳。
神尾 14年2月期の第1四半期は、売上高が対前期比20.9%増の486億円、営業利益が同8.6%増の5億円で増収増益となりました。この理由は今年3月1日に吸収合併したイオンキミサワの数字が加算されたためです。既存店の数字を見ると客数が同1.3%減、売上高が同3.1%減となりました。既存店は厳しい状況にあります。
背景には食品スーパー(SM)だけでなく、ディスカウントストア(DS)やドラッグストア(DgS)、コンビニエンスストアなどの競合店が増えていることがあります。加えて、高齢化の加速や単身世帯人口の増加、女性の社会進出など──社会環境の変化に当社としても対応を急いでいるのですが、そのスピードが遅れています。お客さまが本当に必要とする商品と、当社が提供する商品との間にギャップが生じていることもあり、既存店では客数の前年割れが続いていると分析しています。
──14年2月期の重点的な取り組みとして、既存店の収益力の改善を挙げています。
神尾 既存店のテコ入れを図るため、12年10月にオープンした「マックスバリュ島田阿知ケ谷店」(静岡県島田市)の成功事例の水平展開を進めています。
島田阿知ケ谷店は小商圏高占拠率を実現するため、(1)SMの強みを再構築、(2)商品へのこだわり、(3)顧客ニーズへの対応、をキーワードに競争力のある店舗づくりに取り組んでいます。
SMとしての強みを生かせるのはデリカと生鮮食品です。当社がとくに力を入れているのがデリカです。島田阿知ケ谷店では、働く女性や高齢者、少人数世帯を主要ターゲットに、今まで部門ごとに展開していた即食商品をデリカ売場に集約しました。たとえば、農産売場のカットフルーツや、デイリー売場の煮豆などを、デリカ売場に並べて販売しています。総菜は出来たて、つくりたてを訴求し、鮮度の高い売場の演出に注力しました。その結果、通常店舗のデリカ部門(総菜、寿司、インストアベーカリー)の売上高構成比率は12%前後ですが、島田阿知ケ谷店は18%前後で推移しています。
生鮮3部門では、家庭内調理の減少に対応し、より短時間で調理が可能な簡便商品を集めた「ふらいぱん亭」コーナーを設けました。
一方で素材の販売も強化しています。農産では鮮度の高い地場野菜を核商品にしたほか、畜産では黒毛和牛を拡販、鮮魚では丸物の調理承りの強化とともに、地場漁港で水揚げされた魚を主力とする地域一番の品揃えをめざしています。
──さまざまな部門の商品をデリカ売場に集めることは、商品の管理を煩雑にしませんか。
神尾 当社はデイリーや生鮮加工品については独自の自動発注システムを導入しています。グロサリー系はイオングループ共通のシステムを導入しているため、それほど大きな負担にはなっていません。また、今後、粗利益率の高いデリカの売上高を伸長させることで、より収益性を高めていく方針です。
前述通り、今年3月から島田阿知ケ谷店の取り組みの成果を既存店に取り入れ始めました。今年7月までに改装した既存11店舗の売上高は、改装前に比べて改善しています。一番効果があった店舗では約8%伸びました。15年2月期末までに全店に水平展開する予定です。
──新しくなった売場で働く従業員のさらなる育成も大事な課題です。
神尾 既存店の改装では原則として店舗を1日休業し、従業員の“心の改装”を同時に行っています。社内では“心装”と呼んでおり、店舗にてお客さまが記入された「お客さまの声」に真摯に向き合う取り組みです。
「お客さまの声」は全店で年間約3万件、1日平均約80件が寄せられます。たとえば、「レジが混んでいる」「品切れが多い」「あいさつができていない」などお客さまの不満に対して毎回店長が回答し、店内の専用掲示板に貼り付けています。店長が中心となり、お客さまの不満をしっかり理解することで、従業員はお客さまの目線を強く意識するようになっています。当社への期待が高いお客さまから声をいただいているわけですから、これには従業員全員で対応する。固定客づくりの第一歩だと考えています。
「お客さまの声」は、「この商品を揃えて欲しい」というようなご要望が約3割を占めています。お客さまの支持を得るためには、こうした品揃えに対するご要望に応える必要があります。そのため、代替品が売場にない場合は、基本的にすべて品揃えすることにしています。しかし、すべてを揃えた状態を維持するとアイテム数が増えすぎてしまうため、定期的に販売実績をチェックし、販売数量の伸びない商品については扱いを止めることで調整しています。
旧イオンキミサワ全店の改装を実施
──次に店舗政策について聞きます。主要フォーマットは「マックスバリュ」と「マックスバリュエクスプレス」の2本立てです。
神尾 そうです。今までは郊外に500~600坪の「マックスバリュ」を中心に出店してきました。しかし今後は、都市部への人口集中が見込まれるため、とくに静岡県と神奈川県の都市部に小型店の出店を強化していきます。都市部では500坪以上の売場面積を確保することは難しくなっているため、現在22店舗を展開している「マックスバリュエクスプレス」の出店を増やしていく方針です。
──今年4月には上質商品を揃えた「マックスバリュ プライム」1号店を出店しました。上質SMを積極展開していくのですか。
神尾 今年4月にオープンした「マックスバリュ プライムマークイズ静岡店」(静岡県静岡市)は、今年3月に吸収合併したイオンキミサワが出店を予定していた店舗です。イオンキミサワの上質SM「グラッテ」をベースにしました。「グラッテ」と「マックスバリュ プライム」は高質商品ではなく、高質と標準の中間、つまり“ちょっと上質な商品”を扱っています。今後は、都市部を中心に「マックスバリュ プライム」を出店することも検討していきます。
──旧イオンキミサワ店舗でも改装を進めているのですか。
神尾 発注システムの統合を済ませるとともに、今年5月から6月にかけて旧イオンキミサワの全23店舗(SM「キミサワ」16店舗、SMとDgSを融合した「ザ・コンボ」4店舗、「グラッテ」3店舗)の活性化を実施しました。「マックスバリュ」内に水平展開を進めている「ふらいぱん亭」などの好事例も導入しています。
また、商品部の統合を完了させたことにより、“ちょっと上質な商品”と地場商品を拡充することが可能となりました。比較的所得に余裕のあるお客さまが多いエリアで展開している店舗において、“ちょっと上質な商品”の品揃えを強化していくつもりです。
「ザ・ビッグ」の収益改善はPB拡充がカギ
──一方では、「マックスバリュ」のDS「ザ・ビッグ」への業態転換を進めています。
神尾 13年2月期にオープンした「ザ・ビッグ」4店舗のうち、3店舗は既存の「マックスバリュ」を業態転換したものです。「ザ・ビッグ」は今年7月末までに静岡県に7店舗、山梨県に5店舗を展開するに至っています。
当社の店舗数が最も多い静岡県内では、低価格競争が激化するなど競争環境が変化しており、ドミナント強化策のひとつとして、一部の「マックスバリュ」店舗を「ザ・ビッグ」に転換しています。ただ、「ザ・ビッグ」は品揃えを絞り込んでいるため、お客さまのニーズに対応しきれていない可能性があります。ですから、基本はふだんの食生活に必要な商品を揃えた「マックスバリュ」のドミナントが強固なエリアに、コモディティ商品を低価格で販売する「ザ・ビッグ」を配置し、お客さまの使い分けを促し、シェアアップを図っていきたい。
他方、山梨県内では現在、「マックスバリュ」と「ザ・ビッグ」合わせて8店舗を展開していますが、甲府盆地にある5店舗は業態転換により「ザ・ビッグ」にしました。同エリアは価格競争が非常に激しいエリアのため、「ザ・ビッグ」の出店を進めていく考えです。
──11年5月、山梨県中央市に「ザ・ビッグ」1号店をオープンしてから2年以上が経ちました。「ザ・ビッグ」の収益モデルは出来上がりつつありますか。
神尾 まだ損益トントンですね。「ザ・ビッグ」の粗利益率は17.5%で、経費率もほぼ同率です。当面の目標は粗利益率を18%、経費率を16%とし、営業利益率を2%にすることです。粗利益率を引き上げるためには、プライベートブランド(PB)「トップバリュ」の売上高構成比率を高めなくてはなりません。「ザ・ビッグ」はDSですから、低価格かつ粗利益率の高い価格訴求型PB「トップバリュ ベストプライス」の品揃え拡充が大前提となります。
しかし、まだ展開アイテム数が少ないため「ザ・ビッグ」のPB売上高構成比率は11.1%に過ぎません。売場での訴求を強めることにより、今期中には20%にまで引き上げる計画です。
──「ザ・ビッグ」の経費率16%を実現するには、どのような方法がありますか。
神尾 売上高を伸ばすことによって、相対的に経費率を引き下げることは可能です。実際に、週2回のチラシ配布を見直すなど、改善余地はあります。しかし現状では「ザ・ビッグ」の認知度がまだ低いため、チラシで集客する手法を当面は継続実施する考えです。
──プロセスセンター(PC)を活用して、ローコスト運営に努めていますね。
神尾 もともと当社はインストアの比率が高く、イオングループの中でも労働分配率が高い水準にありました。これを改善するため、PCで生鮮食品を一次加工する仕組みを整備し、売場のSKU数を削減するなどのオペレーション改革を推し進めてきました。水産部門と畜産部門においてインストア加工商品を絞り込み、アウトパック商品を拡充したのです。たとえば水産部門では、塩干物やしらすをアウトパックに切り替える一方、インストアにおいては切り身や刺身など鮮度を求められる商品の加工に集中するようにしました。
PC活用に合わせて、店舗のバックヤードの縮小にも取り組んでいます。新規出店する際には、バックヤードの比率を縮小し、建物全体の面積を小さくして初期投資額の削減を図っています。以前はバックヤード比率が30%前後を占めていましたが、現在の新店は23%前後にまで縮小しています。
中国事業は1号店を軌道に乗せることに集中
──さて、昨年からネットスーパーのサービス提供を開始しています。
神尾 12年10月から「マックスバリュ熱海店」(静岡県熱海市)でネットスーパーのサービスを始めました。熱海市内は坂が多いほか、住民の高齢化が進んでいます。以前から店舗で購入された商品をご自宅にお届けする宅配の需要が高いこともあり、商圏人口は約5万人と少ないのですが、同店から実験をスタートしました。ただ、現実的には、店頭での買物のほうが安心されるらしく、高齢のお客さまのご利用は期待ほど多くありませんでした。
一方で子どもを抱える30歳代の女性の利用が増えています。
この6月から配送エリア内人口が約15万人の「マックスバリュ御殿場原里店」(静岡県御殿場市)でもネットスーパーのサービスを開始しました。30歳代女性の利用率が熱海店よりも高く、潜在的な需要はあるようです。
当社はネットスーパーでは後発になりますが、生鮮食品の品揃えを充実させているので、他社との差別化はできると考えています。
──今年1月、中国にSM1号店を出店しました。今後の中国展開について教えてください。
神尾 中国南部の広東省広州市にあるショッピングセンター内に、売場面積2323平方メートルの「マックスバリュ太陽新天地店」をオープンしました。中国では生鮮食品やデリカの売場をコンセッショナリー(店舗名を出さない専門店)にまかせる運営方法が多いのですが、当社はノウハウを蓄積するため直営主体にしています。
オープン当初は目標の7割程度の売上でスタートしましたが、ここ数カ月は計画どおりに推移しています。日本式の販促が好評で、日本と同様に「火曜・水曜市」を実施したところ、来店客数が大幅に増えました。
しかしながら、粗利益率は目標に届かず、15%前後の水準にあります。中国のお客さまが必要とする商品をまだ正確につかみ切れておらず、値引き販売が多くなっているためです。現在は、品揃えを見直していくことで値引きを減少させ、粗利益率の目標をクリアすることに注力しているところです。
今期は1号店を軌道に乗せることに集中します。そして、開業から3年以内で営業利益の黒字化達成をめざします。