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全体最適を進め、競争優位性を確立して「攻めの商売」に転じる=マルエツ 上田 真 社長

首都圏で食品スーパーを展開するマルエツ(東京都)の2013年2月期連結業績は、営業収益3156億8900万円(対前期比2.3%減)、営業利益20億200万円(同71.2%減)、経常利益16億8000万円(同75%減)、当期純利益18億2200万円(同90.6%増)と減収営業減益となった。ミニスーパーやコンビニエンスストア、ドラッグストア、ネットスーパーなどとの競争が激化している中で、首都圏に272店舗(13年5月15日現在)を展開するマルエツはどのような戦略を描くのか。4月1日に社長へ就任した上田真氏に聞いた。

2014年2月期は生き残りをかけた「戦い」の年

──2014年2月期を「生き残りをかけた『戦い』の年」と位置づけ、経営方針として「競争優位性の確立」や「マネジメント力の強化」、「腰の低い経営体質の実現」に取り組むことを明らかにしています。

マルエツ代表取締役社長
上田 真 うえだ・まこと
●1953年、東京都生まれ。慶應義塾大学法学部卒。76年マルエツ入社。95年販売本部第16販売部長、96年経営管理本部経営計画部長、99年総務人事本部人事部長、2005年教育人事本部長。05年5月取締役、06年5月取締役執行役員、07年5月取締役常務執行役員。08年3月取締役営業企画本部長、10年3月取締役教育人事本部長。11年5月取締役専務執行役員営業統括副統括(商品計画担当)。13年4月代表取締役社長。

上田 そうです。まず、「競争優位性の確立」ということでは、(1)センターの有効活用、(2)アウトスタンディングバリュー(突出した価値)商品の開発、(3)「Tカード」導入効果の最大化、(4)中国事業の推進を4本柱に据えています。

 センターの有効活用では、数年来取り組んできた物流施設の刷新が12年5月に完了しました。ただ、まだそのメリットを十分に享受できていません。今期からお取引先さまからの協力を得ながら効率化を図っていきます。

 具体的には、2つの常温センターでは、プライベートブランド(PB)や販売数量の多い商品は、メーカーさんから直接当社のセンターに納品していただくようにしたいと考えています。これまでは卸売業さんのセンターを2~3カ所も経由して、何回も荷姿を変え、当社のセンターに着荷している商品もありました。商品を積み下ろす地点を減らすことができれば、大幅なコストダウンにつながるはずです。

 また、調達物流とは直接関係はありませんが、店舗から1カ月間に1個も発注されないような商品を外すことで、商品原価を下げることができると考えています。

──加工機能を備えた低温のセンター(プロセスセンター:以下、PC)の活用も本格化してきました。

上田 当社には、売場面積40坪から600坪超までさまざまな規模の店舗があります。生鮮食品の中には、カテゴリーによってはPCでまとめて加工し、店舗に供給したほうが効率的なものも多い。そこで、PC活用の基準を見直し、店舗のオペレーションコスト低減にもつなげていきます。すでに専門のチームを立ち上げて、第1四半期中にプランを策定し、パートタイマーさんの契約の更新日に合わせて新しいオペレーションに移行します。

 一般的に、PC活用は店舗の人時が減るので「守りの商売」といわれます。ですが私は「宝の山」だと見ています。当社はPCを活用して「攻めの商売」に転じたい。

──具体的にはどのようなことに取り組むのですか。

上田 効率化といっても、たとえばデリカ部のマーチャンダイザーが原材料がどういうプロセスを経て店舗に到着するのか、その間にコストがどう乗ってくるのかを知っていなければ、効率化を図ることはできません。

 実は、PC活用が進み、自社で素材を加工することで以前よりもコスト構造がわかるようになりました。

 たとえば12年から、店舗で加工して販売しているデリカ部門の唐揚げやトンカツは、精肉部のマーチャンダイザーが原料となる鶏肉や豚肉を一括で仕入れ、デリカ部の仕様書にもとづいてPCで下味をつけるなど加工し、店舗に供給しています。以前は「縦割り」で、デリカ部が独自に冷凍原料を仕入れていましたが、PC活用に合わせて原材料の調達や店舗のオペレーションを変更したところ、唐揚げだけで年間約1億円のコスト改善につながりました。しかも以前よりおいしい唐揚げをお客さまにご提供できるようになったのです。

 ですから唐揚げやトンカツ以外でも、原材料や加工作業のオペレーションを見直すことでコスト改善が図れると考えています。

“パワーアイテム”の売価を競合店に合わせる

──競争優位性を確立するうえで「価格」は大きな要素になります。前期までは価格政策を「4勝3敗3分け」と表現していました。

上田 私は明確に「○勝○敗」というような数値は決めていません。

 各店舗は競合店と局地戦をしているわけですから、商圏内のお客さまに「マルエツは高い」と思われてしまったら、ご来店いただけなくなります。ですから、購買頻度の高い牛乳やヨーグルト、食パンなどの“パワーアイテム”は、競合店の価格を意識して売価を設定します。これはあくまで個店対応になります。

 もうひとつ、大事なのは青果です。青果は集客の要となる重要な商品ですから、より低価格で販売し、集客につなげるべく取り組んでいます。

 仕入れは、東京都の大田市場に全面依存するのではなく、分散させています。7~8つの青果卸売市場にマーチャンダイザーを常駐させ、品質が確かで安く仕入れることができる青果を調達する体制を敷いています。

 店舗では、「鮮度」と「価格」を訴求できる商品を機動的に売り込める売場をつくるようにしています。青果は販売数量がとても多いですから、課題は投入人時をいかに減らしていくのかにあります。

「Tカード」は大きな武器

──2つめのアウトスタンディングバリュー(突出した価値)商品の開発は、どのように進めますか。

上田 当社は、PBの「maruetsu365」をはじめ、メーカーさんの“留型商品”、それから自社仕様の唐揚げやトンカツなどのデリカ、そして自社基準をクリアした生鮮食品などを「オリジナル商品」と位置づけています。13年2月期の実績では、それらの売上高構成比は9.8%になります。

 PB「maruetsu365」や留型商品は、社内に13~15人で構成される商品開発委員会があり、そこで承認を得た商品だけが実際に販売されることになります。たとえば、現在開発を進めているパウチパック入りの総菜は、これまで8回ほど試食を行いましたが、商品化には至っておらず、合格基準は非常に高いものになっています。換言すれば、すでに販売しているPB「maruetsu365」や留型商品は「突出した価値」があるということです。

 なお、イオン(千葉県/岡田元也社長)さんのPB「トップバリュ」については、基本的には当社にとってメリットがある商品を取り扱うというスタンスです。当社が独自に開発できない、または開発に長時間を要する商品、そしてチルド・冷凍総菜の「トップバリュ レディーミール」などの優れた商品は、積極的に導入していきたいと考えています。

 新商品の開発では、ナショナルブランドメーカーさんの商品の売れ行きやトレンド、量目などを見て企画を練っています。社内に本格的なマーケティング・リサーチの機能はありませんから、今後、市場にないまったくの新しい商品を開発できるかどうかがカギになります。

──マーケティング・リサーチという点では、13年2月に全店導入が完了した、Tポイント・ジャパン(東京都/増田宗昭社長)の発行する「Tカード」のデータを商品開発に生かすことは考えていますか。

上田 2月に導入したところですから、まだデータ活用は緒についたばかりです。

 これまでは、POSデータから単純な売れ筋商品を知ることはできましたが、お客さま個人とひも付けされているID-POSではありませんでした。しかし「Tカード」が全店に導入されたことによって、お客さま一人ひとりに対するワン・トゥ・ワンマーケティングが理論上は可能になります。商品開発や品揃え、販売促進面でも大きな武器になると考えています。

 カードを活用した販売促進としては、単純な「ポイント〇倍セール」のようなことはできるだけ控え、当社の店舗にご来店いただいていない「Tカード」をお持ちのお客さまにご来店いただけるような施策を今後五月雨式に実施していく計画です。

 そして4つめの中国事業の推進では、中国最大手の家電量販店である蘇寧運商集団(前:蘇寧電器)とタッグを組み、13年9月に江蘇省無錫市へ1号店を出店する予定です。また、同じく蘇寧運商集団が開発中の商業施設内に、2号店、3号店を出店することがすでに決まっています。

「割り切り」をテーマに社内で議論

──経営方針の2つめのテーマ「マネジメント力の強化」では、店舗と本部の役割を明確化することを掲げています。

上田 当社の経営上の最大課題は売上高販売管理費率の高さです。多くの上場SMの売上高販売管理費率は20%台ですが、当社の場合は30%超あり、労働分配率は50%を超える水準にあります。そこにメスを入れずして業績を上向かせることはできません。したがって経営方針の3つめのテーマ「腰の低い経営体質」とは、損益分岐点を下げるという意味になります。

 当社の中で半数以上を占める日販200~500万円規模の店舗のオペレーションコストを低減し、効率改善を図ることができれば大きな効果があがります。

 これらの店舗は、仕入れや販売計画を現場の従業員が立案するようにしていましたが、業務が多すぎて手が足りず、結局は売場の実現力が落ちていました。ですから店舗と本部の役割を明確化することを徹底します。あわせて、商品の発注などパートタイマーさんに任せられる仕事については、しっかりとルールやマニュアルを決めたうえでお願いするようにします。

 そして売上高や粗利益高アップにつながらない、あるいはお客さまに喜んでいただけないようなサービスはやめようと考えています。

 代表例としては店舗で作成する報告書の類が挙げられます。今までは、本部が店舗に「報告のための報告」を多く求めていたきらいがあります。これを「一切やめよう」と指示しました。

 従来は、店舗に「何をやってもらうか」「何を加えるか」というのが経営戦略を考えるうえでのベースになっていました。店舗に「あれもこれも全部正確にやってください」と求めたために、ハイコストなオペレーションになっていたのだと思います。だから私は「何をやめるか」から始めるべきだと考えています。

──「何をやめるか」というのはとても面白い発想です。

上田 削ってもいいコストと、削ってはいけないコストがありますから、現在、「割り切り」をテーマに社内で会議を重ねているところです。品揃えや価格、接客などのサービスは一定の範囲にとどめるべきだと考えていて、実際に店舗の声を多く聞いているエリア部長クラスと議論していきます。

 たとえば、深夜0時にご来店されたお客さまから「私の欲しい鯛のお刺身がない」と指摘されたとします。従来であれば「発注に気を付けます」「次からは品揃えします」というようなスタンスでしたが、これは改めます。つまり、「すみません、この時間ではもう鯛のお刺身はご用意できません」とお客さまにお伝えするのです。SM本来の商売・サービスが大切で、「過剰サービス」のようなことはなるべく減らしていきたいと考えています。

 ただし、03年から展開しているネットスーパーや、一部の店舗で実験中の「御用聞き」サービスは、利益が出ないからといってやめようとは思いません。ネットスーパーは将来的な可能性を考慮して事業を続けてきましたし、サービスを提供することでお客さまのニーズがどのようなところにあるのかを知ることもできます。

 まずは、「過剰サービス」のような生産性の低いことや余計なことはやめて、お客さまに本当に喜ばれることに力を発揮できるように、原点に立ち返って現場を元気にすることに力を入れたいと考えています。