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「勝ち組」企業と手を組み強いチームをつくる=アークス 横山 清 社長

少子高齢化で人口が減少する今後、国内の消費市場は縮小していく。そうした中でも、強い企業は事業規模を拡大し、生き残る──。こうした現象をアークス(北海道)の横山清社長は「縮小拡大」と表現する。北海道内ではすでに食品市場シェアの27.3%を獲得。グループのユニバース(青森県/三浦紘一社長)やジョイス(岩手県/小苅米秀樹社長)などと、今後は東北エリアのドミナントを拡大していく方針だ。アークスは、縮小市場でどのように勝ち残るのか。

進出エリアで30%のシェアが目標

アークス代表取締役社長
横山 清(よこやま・きよし)
1935年生まれ。60年北海道大学水産学部卒業。同年野原産業入社。61年大丸スーパー(現ラルズ)入社。85年同社代表取締役社長。2002年から現職。77歳。

──アークスはこれまで、垂直的な企業統合ではなく、同じような規模の企業が連帯する「八ヶ岳連峰経営」を掲げ企業統合を繰り返してきました。2011年10月にはユニバースを統合。同年11月に篠原商店(北海道/篠原肇社長)を完全子会社化し、12年9月にはジョイスを統合しました。かねてよりドミナントエリア内で一定のシェアが必要だと強調されていますが、目標値を教えてください。

横山 各地域で30%のシェアを獲得することを目標にしています。チェーンストアは、ドミナントエリアの中で高いシェアを獲得すると、仕入れや物流など運営上の効率がよくなります。30%のシェアがあれば、寡占に近いような状況になりますね。

 当社はすでに北海道全体は27.3%、青森県内でユニバースが28.0%、岩手県内でもユニバースとジョイスを合わせて28.5%のシェアがあります。ユニバースとジョイスの売上高を合わせると1500億円規模になりますが、今後は東北エリアで30%のシェア、3000億円体制をめざしたいと考えています。

 国内の人口は減少トレンドに入り、市場が縮小していく中で、プレーヤーの優勝劣敗が明らかになっていきます。大手小売業も積極出店していますが、大手の場合は不採算店になったときの撤退も早い。当社には、そうした物件の後に居抜き出店した店舗が多くあります。また、競争に耐え切れずに淘汰される中小企業も今後、増えるでしょう。こうした中で、アークスは高いシェアを獲得して勝ち残り、縮小市場の中でも事業規模を拡大していきたい。このことを私は「縮小拡大」と表現しているのです。

──「縮小拡大」の過程で、食品スーパー(SM)業界も上位集中が進んでいきます。

横山 国内流通最大手のイオン(千葉県/岡田元也社長)がダイエー(東京都/桑原道夫社長)を子会社化して6兆円を突破しましたが、そのうち食品の売上が半分として3兆円。アークスが年商5000億円を達成したら、イオンの6分の1程度の規模になります。

 かつて有名なコンサルタントの先生が「日本の食品流通業界は、最終的にはせいぜい2、3社に集約される。各地にローカルSMが多少残ったとしても、基本的には大手に集約化される」──と指摘されました。

 ただ、日本の場合は西と東、日本海側と太平洋側で風俗習慣が大きく異なります。それを的確にとらえて対応しようとしたら、画一的な仕事では解決できない問題がたくさんあるのです。地域の食文化に対応した店舗展開を、とにかくこまめに続けること。継続は力なりです。そのうえで、収益性を伴った事業展開をしていけば、ローカルSMは生き残れるはずです。

アプローチはさまざまでも収益を維持できる企業が生き残る

アークスは各地域で30%のシェアを獲得することを目標にしている

──13年2月期の連結の売上高は4339億円となり、14年2月期の通期の売上高は4600億円を見込んでいます。今後は年商5000億円をめざしていく方針です。一方で、小売業界ではローカルSMチェーンの淘汰が進み、救済合併の案件が増えてくると考えられますが、企業統合の基準は何ですか?

横山 企業統合については、言うなれば甲子園で準決勝くらいまで勝ち抜いてきた人で、もう1ついいチームをつくろうということです。

 非常に不遜な表現になってしまいますが、「勝ち組」としか手を組めません。自分が多少、泳ぎが上手だったとしても、溺れている人に首にしがみつかれたら、一緒に溺れてしまうからです。アークスは、何万人もの従業員が集まるチームですから、まずは自社を守らなくてはいけません。きちんとした企業形態を持ち、投資をしてきていて、人材が育っていることが条件です。

 150億円、200億円の年商がある企業の中には、いい店も悪い店もあるでしょう。中には局所的な安売り戦争に巻き込まれて、一時的に業績が上がらない場合もあります。ただし、こうしたケースは調べればわかります。業績不振には原因があり、その原因に対してわれわれのグループの機能や資産を活用して再生できるのであれば、一緒にやれる可能性はあると思います。

 新店を出店するとなると、10億円、20億円とコストがかかります。今、せっかくある店舗を空き家にするのではなく、働いている従業員のスキルを生かしながら再生し、ドミナントを強化できたらいいですね。

──企業統合する場合、店舗規模にばらつきが出やすく、標準化が難しいという課題があります。統合先の企業が保有する店舗の仕様に条件はありますか?

横山 一般的には、売場面積の小さいSMは生産性が低いため、価格競争などで大型店に対して不利だと考えられています。ただし、最終的には、きちんと収益をあげて、それを維持、継続できる企業が生き残るものです。

 これまでは最も効率のよい標準化された店舗の数を増やし、それに合わせた人材を育成していくというのがSM業界の定石でした。ただ、売場面積1000坪の店舗で年間30億円を売るよりは、その半分の500坪の売場で30億円売った方が儲かります。マーケットによって、あるべき事業のかたちやプロセスは異なります。その環境の中で、収益を出し続けられるモデルであればいいと思います。

 たとえば篠原商店は、店舗の真向かいに競合チェーンの大型店があります。それでも、地域に合った適正規模の店で、お客さまの支持を集めている。地域のシェアが高い企業は、その土地ならではの風俗習慣を巧みにとらえながら、地域のニーズに適合したオペレーションができているということ。それは大きな強みなのです。

 篠原商店は、「チェーンストア」の定義には当てはまらないし、家族経営のように見えるけれども、従業員にきちんとした給料を継続して支払ってきた企業です。ただ、規模が小さいゆえに、たとえばグロサリーの売れ筋の商品をリアルタイムに入荷することができない、といった不便さを感じるようになっていました。そこで今の状況のまま永遠に続けることはできないと、アークスに入られたわけです。

 ナショナルブランド商品を今まで10ケース仕入れていたのが、10倍の100ケースになったところで大して安くはなりません。それでも、インフラやノウハウなどお互いに持っているものを活用し合えるメリットはあります。

21世紀は、今までできなかったことを実現していく時代

──すでに北海道、青森県、岩手県では食品市場の3割弱のシェアを持っていますが、今後はSMだけでなく、コンビニエンスストア(CVS)やドラッグストア(DgS)など異業態との競争になります。

横山 従来は、小商圏で商売するSMがあり、その周辺に総合スーパー(GMS)などの大型店がある…というかたちでした。しかし、かつては食品市場でそれなりの存在感があったGMSは、数年前にピークアウトした感があります。それに代わって俄然、変身して食品市場を蚕食しているのがCVSです。

 食品を扱う業態の中で、これまでもCVSは競合ではありました。しかし、本格的に競合対策に取り組む相手とはみなされてこなかった。それが今は、本格的に対策をしなくてはいけないというように、状況はガラリと変わってきています。

 今、都市部では四つ角のうち3つの角までCVSで埋まっているような状況です。

 大手チェーンの大型店が出店したときに受ける、地元の中小SMのショックは、「心筋梗塞」のようなものです。少し体力の弱っている企業は、市場から脱落してしまう。そうしてその市場に残った企業間で、再びある程度の均衡ができます。土日は大手の集客力が高くても、平日は取り返せるとか。革新的なことではなくても、対応策がありました。

 一方で、CVSとの競合によるダメージは「糖尿病」のようなもの。自覚症状のないうちに、ジワジワと売上を奪われて、気がついたら身動きが取れなくなっている。今はこうした現象が顕著になってきていますから、CVSとの競合対策も考えていかなくてはいけません。

 店のそばにあって、食品を扱う業態はすべて競合です。DgSも、ホームセンターも、最近ではガソリンスタンドだって食品を売っています。居酒屋も昼食の時間帯に弁当を販売している。さらに、アマゾンのようなインターネット通販や、小売業各社のネットスーパーが、これから本格的に競争相手になってきます。何かが消えたら、次には別の競争が生まれる。終わりはありません。

 ただ、プロセスはケースによってさまざまだとしても、原則的には必要な売上と利益を確保できる企業が生き残るわけです。しかし、革新的に生産性を改善できるような技術は、今のところまだできていませんから、これからの課題ですね。

──14年4月に消費税率が8%に上がり、翌15年10月にはさらに10%に引き上げられます。増税によって消費者心理が冷え込めば、小売業界で低価格競争が再燃する可能性があります。

横山 集客力向上のために仕入れ原価を下回る価格で販売する「ロスリーダー」として、一時的な安売りをすることは可能でしょう。ただし、それは販売のテクニックにすぎないわけで、理由のない安売りは続くはずがありません。

 50年前に私が商売を始めたころは、「(競合店と)1円の差があると、お客さまは100メートル動く」と言われていました。当時のお客さまは、そのくらい価格に敏感で、安さを求めて買い回りをされた。しかし今は、10円くらいの差ではお客さまは動きません。そうかと言って、低価格訴求をしなければ集客もできません。そこで各社が今、まなじりを決して低価格競争をしているわけです。

 「ディスカウントストア(DS)が台頭してきているが、どう対抗するか」と聞かれますが、DSチェーンとて同じ“地球人”です。特別な仕組みを持っているようには見えません。しかも、収益力もわれわれのほうが強い。さらにDSとわれわれSMを比較して、どちらが地域に密着した商売をしているかと言えば、SMに優位性があるのではないでしょうか。

 ただ今後の消費増税とインフレターゲット、あるいはにわかに問題になってきた中国の微小粒子状物質(PM2.5)による大気汚染の問題などによって、今後は価格の体系が大きく変わる可能性があります。ですから、状況に合わせて取るべき価格戦略を考えなくてはいけません。

 こうした戦乱の時代にあって、激しい戦いが続けば続くほど企業淘汰が進んでいくでしょう。その中で生き残るという思いで、一生懸命やっています。

──この先、生き残るために、何が必要ですか?

横山 21世紀は、今までできなかったことをやらなければ生き残れない時代だと考えています。実際、20世紀にはできなかったことで、今はできるようになっていることがたくさんあります。

 たとえばCVSは、ひところは売上高の30%は弁当や総菜が占めていました。それが次々にさまざまな機能やサービスを付加していって、銀行のATMや、公共料金の支払いができるようになった。洗剤や紙など非食品カテゴリーの売上のウエイトは、SMよりずっと高い。さらに巷の喫茶店からコーヒーのシェアを奪い、街のパン屋さんからスイーツやパンのシェアを奪っている。うどんやそうめんも、外食で食べるよりも安価です。

 われわれは今は「冬の北海道で寒い中、24時間営業なんてできない」と言っていますが、やらなくてはいけない状況になる。しかもオペレーションの仕組みを構築したうえで、コストをかけずに実現しなければなりません。

 それに加えて、ITが進化していく中で、データを活用しながらリアルタイムで品揃えの改善や品質管理ができるようになります。現時点からは想定外のレベルのことが、おそらくそれほど遠くない時間軸で実現できると思うのです。

 今は、変化のスピードが速い。30年のレンジで考えたら、世界は様変わりします。実際、「バブルがはじけてから…」などとブツブツ言っている間に、もう20年が過ぎたんです(笑)。21世紀に入ってもう13年目。ですから、今までできなかったことを実現していかないと、時代の変化に対応できずに生き残れなくなってしまいます。