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サミット、紀ノ國屋が導入!ドイツ発農業ベンチャー 「インファーム」の野菜が想像以上に高品質だった

ドイツ発農業ベンチャーであるインファーム(Infarm-Indoor Urban Farming/エレズ・ガロンスカCEO)が開発した、店頭での野菜栽培・販売を可能にするファーミングユニットが、東京都内の食品スーパー3店舗に導入された。欧州の大手小売業が次々と導入する理由を探るべく、その魅力を取材した。

インファームが開発したファーミングユニット。“究極の地産地消”と注目を集める

世界の大手小売が続々導入
店頭栽培で環境負荷を削減

 インファームは2013年にベルリンで創業。「農業のサプライチェーンにおける廃棄ロス・環境負荷を減らしたい」という経営理念から、小売店や飲食店の店頭で野菜を栽培し消費者に提供する「屋内垂直農法」に辿りつき、最新のデジタル技術を搭載したファーミングユニットを独自開発した。

 その後、欧州諸国のほか米国、カナダの計9カ国に事業を拡大し、ドイツの「エデカ(Edeka)」、イギリスの「マークス アンド スペンサー(Marks & Spencer)」などの大手食品小売業者や飲食店などと提携し、現在1200以上のファーミングユニットを供給している。

デジタル技術でユニット内の環境を高度に管理することによって、化学農薬不使用での栽培を実現し、一般的な栽培方法と比較して肥料は約75%、水は約95%使用量を削減している

 これまでの屋内水耕栽培では、郊外の大規模施設で大量生産し、消費者のもとまで農産物を輸送するのが一般的である。それに対しインファームは、都市部をベースに、店舗やその近郊に設置した「ハブ」と呼ぶ生産拠点で農産物を栽培し、輸送距離や配送時に生じるロスの削減を実現しているのが特徴だ。

気になる店頭での
オペレーションは?

 そんなインファームは20年2月、東日本旅客鉄道(東京都:以下、JR東日本)の出資を受けることを発表し日本に参入した。JR東日本傘下の紀ノ國屋(東京都/堤口貴子社長)のほか、東京都を中心に店舗展開するサミット(東京都/服部哲也社長)とも事業提携を締結。紀ノ國屋では「インターナショナル(青山店)」(東京都港区)と「西荻窪駅店」(東京都杉並区)、サミットでは「五反野店」(東京都足立区)の計3店で、1月下旬からファーミングユニットで栽培された葉物野菜の販売をスタートさせている。

「サミット五反野店」に導入されたファーミングユニット。1台で約250㎡の農地と同じ栽培能力があるという

 サミット五反野店を訪問すると、青果売場の一角に、棚4段式のファーミングユニットを設置していた。

 運用方法については、インファームの費用負担により店舗にファーミングユニットを導入し、週に2回、インファームの担当者が訪店して収穫と苗の植え付けを行う。そして収穫物を食品スーパーの担当者が検品して買い取る。苗を植えてから収穫までに約20日かかるため、都内にあるハブで栽培したものも合わせて販売する。五反野店では、「イタリアンバジル」「クリスタルレタス」「パクチー」の計3種をラインアップし各1束・税抜198円で販売している。

従来と一線を画す
香りと食感

 インファームの葉物野菜を取材をして感じたのが、これまでの水耕栽培ものとは一線を画す、品質の高さだ。まず、葉物を手にとると顔にさほど近づけなくても認識できるほど香りが高い。インファームによると、専門家からも「他の水耕栽培の葉物野菜と比較して香りが高い」という評価を得ているという。

 導入が進む欧州では、広く知られる著名なシェフが、自身のレストランで提供するためにファーミングユニットを導入して話題を集めた。また欧州の導入店からは、この品質の高さから、その他のカテゴリーでも上質な商品が売れ、客単価が向上したという報告もあがっているという。

「クリスタルレタス」と「イタリアンバジル」。鮮度を保てるように根がついたまま提供する。ともに葉に厚みがあるのが特徴だ

 筆者も実際に「クリスタルレタス」と「イタリアンバジル」を自宅で試食してみた。葉に厚みのが特徴的で、そのため口に含むと葉の味わいがしっかり伝わってくる。

クリスタルレタスはパリパリとした心地よい食感と、素材の風味が明確に伝わってきた
部屋のグリーンとして飾りながら、食卓のさまざまなメニューに添えて楽しめる

  「イタリアンバジル」をはじめとした香草類は、水に漬けておけば暫くは枯れてしまわないため、少しずつ料理に使用できるのも魅力の1つだ。実際にイタリアンバジルは1週間ほど元気な状態が続き、部屋のグリーンとして飾りながらパスタやピザなどさまざまなメニューに添えて楽しむことができた。

店頭での栽培・収穫が
プレゼン効果を発揮

 インファームの取り組みでもう1つ特筆したいのは、環境に優しい商品という付加価値が、消費者に伝わりやすいその販売方法だ。

 店頭で野菜を栽培・収穫するというユニークな取り組みは、「インファームの理念を伝えるビジュアル・マーチャンダイジングにもつながる」とインファーム日本法人マネージング・ディレクターの平石郁生氏は説明する。

 実際に取材時は店頭の珍しいファーミングユニットに多くの来店客が足を寄せ、担当者にその取り組みについて質問していた。これは小売側にとっては、自店の環境についての取り組みを来店者に知ってもらうことにつながるだろう。

店頭で担当者が収穫するシーン。多くの来店客の興味を引いていた。そうした効果もあって欧州では収穫日に購入者が増える効果も出ている

 インファームは世界15都市で事業を展開する目標を掲げており、そのなかには東京以外に大阪も含まれる。今後、提携企業を順次広げたい考えで、飲食店への導入の話も進んでいるという。平石氏は「まずはこのインファームの野菜の高い品質を知ってもらうことが重要。著名なシェフとのコラボレーション企画などにも挑戦し、認知度を高めていきたい」と話す。

 今回取材したサミットは新・中期経営計画「GO GREEN2022」で、「事業を通じて環境保護などの地域社会にも貢献できる存在をめざす」という方針を掲げており、それがインファームのビジョンと合致していることから導入を決めた。

 環境保護や持続可能性への関心が高まるなか、サミットのように事業方針にそれらのテーマを加える小売業は今度さらに増えてくることが想定される。そうしたなかインファームが日本の食品スーパー企業でも広がりを見せるか注目だ。