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通勤客が激減する駅ナカ店舗も実は好調 不況・コロナ禍でも、成城石井が絶好調な理由

成城石井大

新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大下で食品スーパー(SM)各社が好業績に沸くなか、これまで以上に存在感を高めている企業がある。成城石井(神奈川県/原昭彦社長)だ。同社は付加価値の高い独自商品を武器に、約180店まで規模を拡大。そして現在、コロナ禍で外食が難しいぶん、自宅での“ちょっとした贅沢”ニーズにも対応することがSM各社に求められるなか、いっそうの需要を獲得している。成城石井はなぜ消費者に支持されるのか。多数の独自調査を交え、その強さの秘密を明らかにする。

客単価が40%近く増加!客数大幅減のなか成長

 新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大下で業績好調な食品スーパー(SM)業界。そうしたなか、ひときわ好調なのが大手コンビニエンスストア・ローソン(東京都/竹増貞信社長)傘下の成城石井(神奈川県/原昭彦社長)だ。

 同社は1927年、東京都世田谷区・成城の地で食料品店として創業。76年にSMへ転向し、その後とくに駅ナカ・駅近立地での出店を成功、加速させ、2019年度には店舗数175店(フランチャイズ店舗21店含む)、売上高938億円まで成長した。そして現在、その勢いをさらに加速させている。

写真は成城石井の1号店「成城店」(東京都世田谷区)

 表はコロナ拡大後の成城石井の既存店売上高伸長率と、その内訳となる客数、客単価の推移だ。ここで押さえておきたいのは、成城石井は多くの店舗を、外出自粛生活で利用者が大きく減っている、都心部の駅ナカ・駅近立地で展開していることだ。そのため客数の減少幅が一般的なSMより大きく、とくに4、5月は対前年同月比で20%以上減となっている。同様の立地条件から客数減が顕著なのが、親会社ローソンを含めたCVSで、各社とも既存店売上高の前年割れが続き苦戦している。

 そうしたなか成城石井で注目したいのが客単価の大幅増だ。4、5月には同40%近く、6~9月は同20%以上伸長。来店客の需要をこれまで以上につかむことで、客数減をものともせず、既存店売上高を成長させている。

 成城石井は収益性の高さでも知られる企業だ。19年度の営業利益率は9.8%とSM業界のなかでも群を抜いて高い。フロンティア・マネジメント(東京都)産業調査部シニア・アナリストの山手剛人氏は「コロナの影響がCVSの業績を直撃した21年2月期上期(3~8月)では、ローソンの連結営業利益の約3割が成城石井によるもの」と指摘する。成城石井の強さと高い収益性はローソンの財務基盤を支える存在にまでなっているのだ。

好業績の礎はSPA化と高いマネジメントレベル

 なぜ、成城石井は強いのか。

 まず同社の大きな特徴の1つに、独自商品が挙げられる。成城石井は、創業者の石井良明氏の時代から、他店にはない、付加価値の高い商品の提供を追求してきた。同社では先鋭のバイヤーたちが、世界各国、日本全国から選りすぐりの商品を仕入れる。業界に先駆けて、1980年代には輸入貿易会社(現・東京ヨーロッパ貿易〈神奈川県〉)を立ち上げて海外から商品を直輸入し、品質を維持した状態で輸送するためのサプライチェーンも築いてきた。

 また96年には総菜を製造するセントラルキッチンも設立し、一流ホテルに在籍していたシェフなど専門的な知識・技術を有する職人を起用し、安全・安心かつ味も追求した商品を製造する。

 このように成城石井は、外部企業に頼らず、自社で仕入れ先や産地を開拓し、商品の製造や物流整備にまで踏み込みSPA(製造小売)化を進めることで、ほかにはない高品質な商品を低価格で提供できる体制を構築してきた。そうして実現する高い商品力が、強力な来店動機を生み出している。

 もう1つ成城石井の好業績の背景には、その独自商品を全社一体となり売り込める組織力がある。実は現在絶好調の同社だが、2004年に外食企業の旧レックス・ホールディングス(現・レインズインターナショナル<神奈川県>)傘下に入り、一時期、業績が低迷した過去がある。その際、新たに起用された大久保恒夫社長(現・リテイルサイエンス<東京都>社長)のもと、数々の業務改革を実行。その結果、マネジメントレベルが向上し、利益率の高い重点商品を着実に全店で販売できるようになり、それが現在の高い営業利益率を成し得る礎となっている。

「高級スーパー」ではない成城石井の実態

 では、成城石井がコロナ禍でさらに支持を得ている理由は何か。これを確かめるべく、本特集では計8つの独自調査を実施した。すると、成城石井のあまり認識されていない実態が明らかになった。

 まず、成城石井は高付加価値な商品が品揃えの中心であることから、「高級スーパー」と括られることが多く、主に富裕層の需要を取り込んでいると思われてきた節がある。

 しかし、今回行ったレシートデータによる利用動向調査の結果では、「最も日常的に利用するSM」として成城石井をあげた人はごく一部であった。つまり、成城石井の利用者の中心は、同社の店で食卓の食材を買い揃えるような富裕層ではなく、平均的な価格のSMで買物をしつつ時に訪れる一般的な消費者であり、この層からの需要を取り込んでいることが現在の好調の要因になっていると考えられる。

 さらに同調査における興味深い結果として、コロナ禍の成城石井でレシート出現率が最も増えている商品カテゴリーは「総菜」だった。総菜といえば、日持ちがしないことなどから、来店頻度を減らしてまとめ買いをする傾向にあるコロナ禍において多くのSMでは売上が伸び悩んでいるカテゴリーである。

 その総菜が、成城石井では好調な要因は何か。1つは外出自粛生活で外食ができないぶん、自宅で「ちょっと贅沢がしたい」というニーズを成城石井の総菜が取り込んでいるためだと想定される。

 そして今回の商品調査からはもう1つ意外な要因が見えた。成城石井の総菜は、確かに1品単価こそ高いものの、ボリュームのある商品設計で、実はグラム単価では一般的なSMと大きく変わらなかった。加えて徹底した商品管理体制で日持ちする期間も長く、コロナ禍の総菜ニーズに合致しているのだ。

 これらの成城石井の姿から見えてくるのは、成城石井が、決して富裕層向けの“高級品”の販売をめざしているチェーンではないことだ。消費者に高品質な商品を低価格で販売するという付加価値を提供するために努力を重ねている企業であり、その価値がコロナ禍であらためて認識されていると考えられる。

値下げに依存せず
不況を新たな成長機会に

 ここで注目したいのは、コロナ禍で成城石井が付加価値の提供によって売上を伸ばしている点だ。

 「コロナ不況」という言葉が現実味を増すなか、「不況下の小売業界」ということで思い起こされるのは、08年のリーマン・ショック後に発生した値下げ競争の激化だ。当時、成城石井は前出の大久保氏の指揮のもと、値下げに依存するのではなく、デパ地下と同等品質の商品を2~3割ほど安く提供する付加価値を追求し差別化を図る路線を貫いた。その結果、百貨店や高級SMの業績が伸び悩んでいたなか、同社ではリーマン・ショックから半年後に業績が急激に伸びたという。現在の足元の業績を見ると、今回のコロナ・ショックも今後想定されるコロナ不況も、成城石井にとってさらなる成長機会となることが予見される。

 一方、SM各社は現在、高まる節約志向に対抗するべく次々と値下げ施策を打ち出し始めている。商品の値下げだけでは、粗利益率が悪化するうえ、他社との差別化は図れず、同質飽和化が進むSM業界で勝ち抜くことは難しい。そうしたなか、今こそ、成城石井の取り組みから学ぶべきではないだろうか。

 最後に、成城石井の今後の成長可能性について触れたい。

 データ調査会社ニールセン(東京都)の「ショッパートレンド調査」によると、あくまで同調査での理論上ではあるが、成城石井は現在の売上高の10倍近い市場売上高シェアがあってもよいブランド力を有しているという。この結果からすると、同社の出店・成長余地はまだまだあるといえそうだ。

 現在、成城石井は1都2府16県で店舗を展開する。近年は年間10~15店ペースで積極出店しており、毎年、未開拓の都道府県にも新店を開業。20年には岡山県1号店をオープンし、中国エリアへの進出を果たしている。今後もこのペースで出店を続ければ、あと数年で店舗数は200店を突破する。そうなれば規模のメリットを生かしたさらなる付加価値の提供も可能になるだろう。成城石井の躍進はまだ始まったばかりなのかもしれない。

成城石井 会社概要
※業績、店舗数は2019年度

所在地 神奈川県横浜市西区北幸2-9-30横浜西口加藤ビル5階
代表者 代表取締役社長 原 昭彦
設立 1927年2月
資本金 1億円
業績 売上高:938億2900万円、営業利益:92億2900万円
総店舗数 182店(直営店:154、フランチャイズ店:21、飲食店:7)

 

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