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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営15 LTVに着目するとSCの次のビジネスチャンスがみえてくる

ショッピングセンター(SC)の開業時は、たくさんのお客さまが訪れる。SC事業者はその数を「○○万人来ました!」と誇らしげにリリースする。しかし、そこからどれほどの利益を獲得しているのだろうか。
どんなに多くの顧客が来場してもその収入をテナント料に依存している限り、結局、テナントの売上を上げない限り収入は上がらない。そしてこの仕組みは、新型コロナウイルス(コロナ)を前に脆弱性が露呈したのである。今回は、その解決策の1つとして「来店者のLTVと逸失利益」について筆を進めたい。 LTV(Life Time Value):顧客の生涯価値

Sanja Radin/iStock

SC事業の収入源

 SCの主な収入源はテナントからの賃料収入である。テナントが賃貸区画(床)を賃借し、その使用及び収益の権利対価として賃料を支払う。新型コロナウイルスによる緊急事態宣言下、店舗休業を余儀なくされ「使用および収益」のうち、収益の権利行使が制限されたことによりテナント料の減免は行われた。

 まさに賃料だけを収入の柱とするSCビジネスが社会的非常事態おいて脆弱であることが明らかになったのである。

 この対処方法は、筆者がかねてより主張している通り、SCビジネスにおける収入のマルチ化がその解決策に他ならない。

手も足も出なかったSC運営管理業務

 前回の「緊急事態宣言」解除後も社会的な自粛圧力は続き、国民は外出を控え、仕事も在宅ワークが広がり都心の商業地は惨憺たる結果となった。加えて出張や旅行も大きく減少したことから鉄道や航空の利用客も減り、駅や空港における商業施設の営業成績も前年を大きく下回り、この状況は今も続いている。 

 しかし、この環境下においてもSC運営管理業務に携わる営業担当者、フロア担当者、エリアマネジャーと呼ばれる人たちは「店舗巡回」「テナントコミュニケーション」を続け、各テナントの店長や店員の嘆きや愚痴を聞き続けるしかなかった。テナントリーシング担当者も、売上不振となったテナントの店舗開発担当との賃料減免交渉や退店テナントの引き留めに忙殺されている。

 前述の通り、SC事業の収入が賃料に偏っているため、こうした業務を行わざるを得ないのである。しかし、若く優秀なSC社員がこういったアナログかつ後ろ向きの業務に従事するのを見るにつけ、今だからこそ、見直すべき時ではないかと思うのである。

 そこで、SC運営において、来場者(来店者)の多さを誇ることと同時にその来場者から収益を上げる方法を早急に考えることが必要ではないだろうか。

 いくら来場者が多くても得られる収入がテナント賃料だけでは、せっかく販促活動を行い集客しても得られるリターンには自ずと限界が生じる。

 何度も言うが、今後、日本では人口は減り売上高は減少する。今コロナ禍によって出生率は減少しており、恐らく政府の予想より早いスピードで人口は減少していくだろう。

 にも、関わらず、これまで通りのSC運営とビジネスモデルを続けていていいのだろうか。

「逸失利益」の存在

 前項で指摘したようにどんなに来場者を増やしても賃料だけのリターンではどこに問題が存在するのか、図表1で説明したい。

 SCへは日々多くの来場者がやってくる。その来場者には必ずLTVという生涯に渡る総支出がある。しかし、SCでは、この生涯価値のうちアパレルや雑貨やサービスや飲食などの購買行動に該当する消費支出しか対応していない。

 「最近はテナントもクリニックや金融まで拡大してきたではないか」という反論があると思うが、そこから得る収入は依然テナントからの賃料収入でしかない。このビジネスモデルは50年間変わっていないのだ。

 要するに来場者のLTVのうち、SC内のテナントの扱い品目に関連する賃料収入しか収益を得ていないことになり、図表1にある来場者のLTVとSC収入のギャップ、これが逸失利益(失っている利益)となっているのだ。

マルチ収益化

 ここで登場するのが、かねてより指摘している「収益のマルチ化」である。その1つが前々回提示したテナントの企業成長からリターンを得る仕組みを構築することだったわけだが、今回は、その矛先を来場者(消費者・顧客)に向けようと言うことである。

 では、具体的にどのような仕組みがあるのか、次号にて提示していきたいと思う。

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。