「守る」「攻める」「変える」──。2020年10月に行われた中間決算発表で、ライフの岩崎社長はコロナ禍の経営戦略の方向性として3つの軸を示した。第6次中期経営計画の最終年度となる来期に向け、それぞれの軸でどのような取り組みを展開していくのか。そしてコロナ禍という非常事態を経て、どのような成長図を描くのか。
ネットスーパーは売上200億円規模も視野に
目下の課題はやはり、コロナ禍で何をすべきかということだ。中間決算発表の際に「守る」「攻める」「変える」という3つのキーワードを出したが、いまだ感染が拡大している状況で、何よりも「守り」が大事になる。
政府は感染拡大防止と経済の両立を図っているようだが、まずは従業員とお客さまの安全確保が第一だ。そのうえでライフラインを支えるという使命を果たす。安全という“前段”なくして営業継続という“後段”はない。
それを踏まえたうえで、「攻める」こととしては、ネットスーパーの対応店舗拡大、キャッシュレスの促進、採用の強化などがある。
このうちネットスーパーについては、今期50億円、来期は100億円の売上を目標にしている。自社とアマゾンジャパン(東京都/ジャスパー・チャン社長)の「プライム・ナウ」の2つの販路があるが、自社については下期中に対応店舗を10店舗程度増やす計画だ。
アマゾンとの取り組みについては、すでに東京23区全域をカバーし、神奈川県横浜市、川崎市にも拠点を整備した。大阪市も市内および周辺市域を網羅しており、今後もエリアを拡大していく方針だ。併せて、これまでの「プライム・ナウ」の専用アプリに加え、Amazonショッピングアプリやウェブサイト(Amazon.com)からの注文にも対応し、利用も増えている。社内ではネットスーパー売上高200億円という大きな目標も示しているが、これも早い段階で達成したい。
差別化の柱はビオラル事業
そして、「変える」べきことの1つは働き方だ。その一環として、本社で月に1回行っていた各店長や部門チーフ向けの営業施策説明を、動画での配信に切り替えた。都合のよい時に何度も繰り返し見られるし、現場で複数人で一緒に見ながら議論を交わせることで、理解度も深まっている。
このほか、セミセルフレジ導入によるレジ業務省力化、発注作業でのAI活用、一部店舗で実験している電子棚札の導入などにより、店舗運営の効率化を進めている。
もう1つ変えるべきは、営業施策の在り方だ。足元の既存店売上高はややスローダウンしており、やはりコロナ禍での景況感の悪化というのが影響し始めているようだ。しかしそれでも、安全最優先の観点から、チラシやポイントセールを介した大規模な販促はやるべきではないと考えている。
SM業界は近年、全員が価格で争う“同質競争”を繰り広げた結果、利益は上がらず、生産性の低さが関係省庁からも指摘されている状況だ。コロナ禍という国難を機に、小売業の体質改善を図るべきだと私は思う。もちろん安さも大事だ。しかし、売上が厳しいからといって安売り一辺倒になるのではなく、「付加価値」をつけることも重要だ。
われわれとしては1つ、健康志向への対応に注力している。16年に大阪市内に出した、有機食品や健康志向の商品を揃えた「B ビオラルIO-RAL」の上期売上高は対前年同期比約140%を記録し、黒字化を果たした。さらに2号店を12月19日に東京・吉祥寺にオープンした。それに先立ってプライベートブランドとしての「BIO-RAL」を40アイテム開発、首都圏の既存店の一部でコーナー展開している。将来的にはこのビオラル事業だけで100億円の規模にしたい。
来期予算は実力相応の範囲に
来期予算について1つ言えることは、今期の経常利益250億円という見込みは外部要因によるものであり、自分たちの実力ではないということだ。そこを勘違いしたような経営計画を立てるべきではない。少なくとも、売上予算は今期実績を下回ることになる。
出店政策については、コロナ禍で人口動態や生活様式が変化したこともあり、オフィス街や駅前立地の店舗はとくに夕夜間が苦戦している一方、郊外立地の店舗は好調だ。だからといって郊外にシフトしていくわけではなく、一つひとつの物件を精査しながら出店を判断していく考えだ。また、いわゆる都市型小型店については、大阪で「Miniel(ミニエル)」という業態を実験しているが、成果はまだまだというところだ。小型店を積極的に出していく段階にはない。(談・文責編集部)