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ウィズコロナ時代のショッピングセンター経営12 花形から一転…テナントリーシング受難の時代到来と賃料ビジネスの崩壊

ショッピングセンター(SC)のビジネスは、テナントの存在がすべてを決める。だからこそテナントリーシング業務はSCビジネスで非常に重要なものなのである。しかし、新型コロナウイルス(コロナ)禍で、環境は一変し、SCビジネスモデルそのものを変革しなければならない時代になった。本稿では2回にわたって、新しいテナントリーシングの考え方と実践方法を提案したい。

Marcus Lindstrom / iStock

SCはテナントがなければただの箱

 SCの収益の源泉は、「不動産の価値」と「テナント売上高と賃料」のかけ算から成り立ちます。

 SCの不動産価値とは、立地、ブランド、規模、商業施設に相応しい建物構造によって規定されますが、例えどんなに素晴らしい物件であっても、そこにテナントが入居していなければこの公式は成立しません(かけ算の数値に0があれば、答えは当然0です)。

 例えるとプレイステーションなどのゲーム機はゲームソフトが無ければただの箱、スマートフォンもアプリが載らなければただの電話機に過ぎないのと同じです。

 だからショッピングセンター事業はテナントの存在が全てを決めると言っても過言ではありません。

図表1 SCのビジネスモデル 

 そのためテナント誘致を担当する部門や担当者を専属に置く企業も少なくありません(この担当部署名は、テナント開発部、テナントリーシング部、テナント営業部など様々)。

 テナントリーシング業務は、SCに相応しいテナントを見つけ、誘致活動を行い、合意と共に出店契約(建物賃貸借契約等)を交わす一連のプロセスをマネジメントしますが、そこでは多くの知識と経験が必要となる難易度の高い業務です。

 しかし、前述の通り、SCの価値を決定する重要な業務であるためこの担当を希望する社員も少なくありません。

 

 花形から一転、テナントリーシング受難の時代

 SCのテナント誘致(テナントリーシング)業務は、これまで「どれだけ人気テナントやSCに合致したテナントを誘致出来るか」、そして、「どれだけ高家賃で契約するか」、ここにテナントリーシング業務は邁進してきました。

 と、「過去形」で記述したのは、他でも無い今般の新型コロナウイルスの登場でテナントリーシング業務の環境が一変したからです。

 これまでは、「新規性のあるテナント、珍しいテナント、差別化されたテナント、新業態のテナント」など奇をてらったようなリーシングを行うことが担当者のトロフィーでしたが、今コロナ禍では状況が変わり売上が低迷するテナントの賃料減免、退店を希望するテナントの引き留めなど決して前向きとは言えない業務が増加し、テナントリーシング担当にとって受難の時代となりました。そのためテナントリーシング担当が以前のような人気商売では無くなりつつあるのも現実です。

 今、連日のようにアパレル企業や飲食業の倒産やブランド閉鎖のニュースが報じられますが、コロナ禍が収束後、これまでのように新業態を追いかけるキラキラしたテナントリーシング活動が果たして戻るでしょうか。

 一部には「ワクチンが開発されたので2021年夏には元に戻るから慌てることは無い」という意見もあります。

 でも筆者はそう簡単な話では無いと考えています。何故なら消費者の嗜好が大きく変わってしまったからです。

 そして、20212月以降も新型コロナウイルスが指定感染症のままならこの状況は続き、今後も小売業、飲食業、サービス業の倒産や整理や閉鎖は増加し、結果、SCへの出店テナントの大幅な減少は容易に予想されます。

 

「賃料ビジネス」の崩壊とテナントリーシングの課題

 

 今、日本のSCテナント区画数は16万区画に上り、既に多くの空き区画が発生しています。では、コロナ収束後、この16万区画が埋まることがあるでしょうか。

 そもそも人口が減少し、少子化高齢化が進み、ECが成長する今の日本でテナント数は減ることはあっても増加することなど難しいでしょう。

 そして、その悪化はこれまでSC事業が依拠してきた「賃料ビジネス」を揺るがすレベルにまで進行すると予想しています。

 今後もSCビジネスが「賃料ビジネス」に依存している限り、右肩下がりになることは明白なのです。

 では、今後のテナントリーシング業務はどうあれば良いのでしょうか。

 SCビジネスは、SCとテナントが役割分担(図表2)することでその強さを作り出してきました。SCビジネスは、SCが不動産リスクを持ち、商品/在庫リスクや販売員の雇用リスクをテナントが持つビジネスです。

 不動産から商品や販売員まで全てのリスクを持つ百貨店ビジネスとは一線を画すビジネスモデルですが、この役割分担はこれまで有効に機能していました。

 それは人口の増加と経済成長とECの無い時代、テナントはこのリスクを負担しても十分に元を取ることが出来たからです。ところが今コロナ禍がここに大きなダメージを与えました。

 SCとテナントは、上記のリスク負担区分に従い出店契約(主に定期借家契約)を交わします。その上でテナントは店舗内装工事を施し、商品を仕入れ、販売員を雇い、賃料を支払い営業を行うのですが、コロナ禍は外出自粛や店舗休業、時短営業を要求し、テナントは大きく売上を落とし、内装・在庫投資負担や賃料などの経常支出に耐えられなくなり、賃料減免や退店、中には倒産となる企業も出てきているのです。

 この環境下では図表2に示す役割分担を基礎としたリスク負担では、テナントの出店意欲は上がらず、多くの空室が出てきて、その空室も今後、埋まらないでしょう。

 

 では、どうしたら良いのでしょう。次回(来週の12月16日公開予定)、新時代に合わせたテナントリーシングのあり方を提案したいと思います。

 

 

西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役

東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。