前回、ショッピングセンター(SC)のビジネスにおいていかにテナントリーシング業務が重要なものか、そして新型コロナウイルス(コロナ)の登場によりテナントリーシング受難の時代となり賃料ビジネスが崩壊に向かっていることを解説した。その上で、SCとテナントのリスク負担の課題をこのままにしていては現在の空室は今後も埋まらないことを予想する。では、どうすれば良いのか。今回は、ポストコロナの時代に合わせたテナントリーシングのあり方を提案する。
SCによる店舗内装負担はリスク
前回のおさらいとして、コロナ禍における、SCとテナントのリスク負担の問題点をもう一度説明しましょう。
テナントは店舗内装工事を施し、商品を仕入れ、販売員を雇い、賃料を支払い営業を行うのですが、コロナ禍はテナントの売上を大きく落とし、内装・在庫投資負担や賃料などの経常支出に耐えられなくなり、賃料減免や退店、中には倒産となる企業も出てきました。
この環境下では従来のSCとのリスク負担では、テナントの出店意欲は上がらず、空室が増加、その空室も今後、埋まらないことが予想されるのです。
では、その時、SC事業者はどのようにこのリスク負担を捉え、テナントの出店を促すべきでしょうか。
これまでもテナントの資金力が乏しい場合やSCへの出店に不慣れなテナントの場合、テナントの内装をSCが負担することも珍しくはありませんでした。
最近では低廉な家賃設定と店舗内装を負担することで出店を促すことも増えています。
しかし、営業がうまく行かず途中退店となれば除却損の発生で営業損失を招きSCにとってはリスクを高めます(図表1)。
これまでSCがテナントの内装を負担する場合、メンテナンスをテナント負担としたり場合によっては原状回復義務をテナントに課すなど出来るだけ投資後のリスクを回避することをSCは考えがちでした。
しかし、この手法はあくまで単店ベースでのテナントリーシング手法であり本当のテナントに対する負担とそのリターンを享受する仕組みでは無いと言えるでしょう。
売上ではなく企業成長からリターンを得る
仮に店舗内装の負担を5千万円だとしてもこの5千万円はあくまで単店ベースでの負担とリターンの期待に過ぎません。その店舗がうまく行くか行かないか、そこだけに成否が掛かることとなります。
これが「本当のテナント開発なのだろうか」というのが今回の問題意識です。本当のテナント開発とは、テナントを誘致しそこから賃料を収受するのではなく、そのテナント企業の育成と成長からリターンを得るべきと考えるのです。ここで重要なのは「店舗視点から企業視点」への転換です。
まず、仕組みを説明します。これまでテナントの内装投資に拠出していた資金を資本出資に変更します(図表2)。
したがって、この手法には以下の能力が求められます。
①伸びる商品やサービスや技術などを見抜く目
②経営者の資質と企業の診断力
③出資した後の企業育成力
④上場を支援する証券取引業の知識
⑤場合によっては人の派遣
これまでのテナントリーシングとは、全く異なるアプローチです。これまでのような人気のあるテナントを追い掛けて自社SCに誘致しても内装投資や商品リスクをテナントに課し、出店してからのリスクを全てテナントが負担していくものではありません。
今のSCでは、出店したテナントは営業がうまく行かず退店となればそのリスクは数千万円、飲食店であれば億と言う単位の損失を被ることになります。これが本当の「テナント開発」でしょうか。
路面にある人気店を誘致し、出店に関する負担を背負ったがために倒産させてしまうようなテナントリーシングを多く見てきました。これからはそんなことがあってはいけないのです。
本当のテナント開発とは
今までのような人気店を誘致して店舗巡回とコミュニケーションと販促と接客ロープレとアナログなSC経営とは決別することを提案します。
これまで「これが売れる」「これがイケる」と誘致し、大きなリスクをテナントに課すのではなく、本当に「これが売れる」「これがイケる」と言うからにはそこに資金を出してハンズオンによってテナントを成長させ、出店を拡大し、その成長からリターンを得るビジネスにテナントリーシングを変えることです。これが本当のテナント開発ではないでしょうか。
これまでのSCテナントリーシングは、不動産の価値に依存した手法でした。これからは新たにテナントを作り出すテナント開発を行わなければテナント区画は到底埋まることはありません。
特に地方であれば地域の名産や名品や新たな商品開発などがその対象になるでしょう。素晴らしい製品やサービスを提供する方が未だ法人化されてしないようであれば、資金提供や定款作成、法人設立などエクイティ出資と経営コンサルティングの両方をSCが率先して行うべきだと考えます。
コロナ禍が教えてくれた本当のテナント開発
どのビジネスでもリスクとリターンは表裏一体です。リスクを取るからこそリターンが着いてきます。これまで高い利益率を確保できたSCビジネスもコロナ禍でようやく他の産業と同様に相当の苦労とリスクを取り、工夫をしなければならない真っ当なビジネスになったのです(それに早く気づいて欲しい)。
これまで一等地と呼ばれていた都心が今は決して良い場所では無く、三等立地だった郊外が今は商業施設にとっては良い立地になり、倒産と整理が続くナショナルチェーンだけではテナント区画は埋まらない時代になりました。
今こそ、テナントを発掘し、育成し、企業成長を促し、配当と上場益を狙う本当のテナント開発にテナントリーシング業務を転換する時です。
したがって、今後、テナントリーシング担当者に必要なノウハウは、目利き、金融、証券、人物評価、企業診断など広範囲な知識と見識が必要とされます。
議論は「売れる/売れない」ではなく、「成長するか/しないか」に変わるのです。
テナントの企業成長はSC企業の成長
これまで新たにテナントを発掘し、成長し、そのテナントが多店舗展開を始めてもそこからリターンを得ることを出来ませんでした。
ましてや自SCの近隣に出店されると同テナントの売上低下を招くためテナントの近隣への出店を阻止していました。
しかし、この仕組みであればテナントの成長はイコールSC企業の成長となります。むしろ、そのテナントには多店舗化や利益の増加を大いに推奨することになるでしょう。
これまで「デベロッパーとテナントはイコールパートナー」と呼ばれてきました。しかし、これは村社会的なSC内でのコミュニケーションに限られていました。
しかし、今後はビジネスとしてイコールパートナーとすることが唯一SC事業に残された成長ベクトルです。
「SCとテナントはイコールパートナー」など昔の話です。今後は大家と店子の関係を大きく超えた「ビジネスパートナー」としてリスクの取り方を今一度、SCビジネスは考える時が来ているのです。
西山貴仁
株式会社SC&パートナーズ 代表取締役
東京急行電鉄(株)に入社後、土地区画整理事業や街づくり、商業施設の開発、運営、リニューアルを手掛ける。2012年(株)東急モールズデベロップメント常務執行役員、渋谷109鹿児島など新規開発を担当。2015年11月独立。現在は、SC企業人材研修、企業インナーブランディング、経営計画策定、百貨店SC化プロジェクト、テナントの出店戦略策定など幅広く活動している。岡山理科大学非常勤講師、小田原市商業戦略推進アドバイザー、SC経営士、宅地建物取引士、(一社)日本SC協会会員、青山学院大学経済学部卒、1961年生まれ。