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セブン&アイとイオンが先行 カーボンニュートラル社会に向け、リアル店舗“だから”果たせる役割とは

コロナ禍における小売業の社会的責任といえば、なんといっても感染防止策が焦点です。ただ、いつか終息した後で最重要になるのは環境対策に違いありません。排出CO2の抑制は、2050年のカーボンニュートラルを目指す国にとっては全産業の課題であるうえ、数多くの店舗を有する小売業は、他産業と比べても世間の注目を集めるでしょう。店にとっては厄介な課題である反面、リサイクルやリユースを前提とした社会の中で貴重な役割を担うことにもなりそうです。今年、レジ袋の有料化などで関心の高まったプラスチックの削減を例に、資源の3R (リデュース・リユース・リサイクル)にリアル店舗が担える役割を考えます。

セブン&アイグループは回収したペットボトルをPB飲料の容器として再資源化する

セールも環境配慮があってこそ?

 思えば昨年の今頃、欧州では米国から流入した「ブラックフライデー」が、やみくもな消費喚起で環境に負荷をかけると槍玉に挙げられていました。とくにアマゾンが標的になり、フランスでは環境活動家が配送センターを包囲したり、ドイツでは従業員がストライキを決行しました。アマゾンはその年、2040年までのカーボンニュートラルを実現すると宣言していたくらいなのですが・・・。大規模なセールには、環境配慮も欠かせない世の中になると感じたものです。

 日本はというと、セールに関して欧州のように強硬な活動は見られないものの、2020年は政府によって、環境保全を理由に小売業の慣習に修正が加えられました。レジ袋の有料化です。

 レジ袋の削減がウミガメの問題など海洋保全との関わりで盛り上がったことには若干の違和感もありますが、プラスチックの削減に効果があることは確かです。法改正後、レジ袋の辞退率はスーパーマーケットやコンビニ、ドラッグストアを含めておおむね80%前後でしょうか。家庭ゴミに使用する袋を買い求めるようになり、ゴミの排出量をいかに抑えようかと考える人も増えたのではないでしょうか。

排出CO2やプラ容器の削減に邁進する大手

イオングループはさまざまな方法で使い捨てプラスチックの削減を進める

 イオングループは今年9月、プラスチック使用に関する新たな方針を打ち出しました。18年に表明した2050年のカーボンニュートラルに向けた取り組みの一環で、プラスチックの使用に関してもCO2排出ゼロを目指し、中間目標として2030年には使い捨てプラスチックの使用量を18年比で半減させるとしています。

 イオンの資料によると、グループでは使い捨てプラ使用量の約8割が販売用資材で、そのうち約4割がレジ袋になっています。30年にはレジ袋の使用量を18年比の10分の1に圧縮する計画です。グループ全体のレジ袋辞退率は、18年の65%から20年7月時点で85%に上昇しています。

 さらにPB商品のパッケージ変更、プライベートブランド(PB)飲料のペットボトルは100%再生素材もしくは植物由来に切り替えるとしています。イオングループのスケールでやるわけですから、その影響はPBに限らず、メーカーの製造一般に波及しそうです。

 セブン&アイグループも19年に、2050年をターゲットにした環境目標を策定しました。13年比でCO2排出量を8割以上カットするというもので、プラスチック使用に関しては50年にはPB容器を100%環境配慮素材に、レジ袋については30年にプラ製をゼロにするといいます。

 プラ製レジ袋の大幅削減に向けた道すじは、小売業全体で既に見えつつあります。しかしプラスチック全般でみると、リサイクルやリユースの道すじをもっと広げないといけないようです。安価で変質しにくいプラスチックは有益な素材ですが、ゴミになってしまうと、その性質が実に厄介です。使い捨てせずにリサイクルに回すためには、使い終わったプラ容器を回収するプロセスが欠かせません。

 すでにリアル店舗は資源の回収拠点として機能しており、多くの企業が回収に取り組んでいるわけですが、今後はより大切な役割を担うことになりそうです。というのも、リアル店舗を構える小売こそが、回収したものを再資源化し、商品パッケージとして再利用する“循環”を作れるからです。

ペットボトル回収も来店動機に?

寄付先を選択できるビオセボン・ジャポンのペットボトル回収機

 セブン&アイグループは、店頭で回収したペットボトルを再原料化する完全循環型のペットボトル飲料をPBとして販売しています。回収ボトル数5本ごとに電子マネー「ナナコ」の1ポイントを付与しており、近隣の生活者に回収を促す動機を与えています。19年度は744店で3.6億本相当を回収したといいます。

 イオングループのオーガニック専門店ビオセボンも、11月から麻布十番店(東京都港区)と最新の武蔵小杉店(神奈川県川崎市)の店頭にペットボトルの回収機を設置しました。回収したボトルは、インストア調理の総菜用パッケージに生まれ変わります。容器を新たに作るのに比べCO2を3割削減できるといいます。加えて、ボトル1本につき1円を寄付する仕組みになっていて、その寄付先もユニセフ、日本赤十字社、WWFジャパンから選ぶことができます。寄付先を選択できる回収機は国内初の事例だそうです。

 資源を回収し、商品パッケージとして再利用する循環を作れるのは、リアル店舗の小売業ならではの強みです。オンラインショップでは、回収拠点を持てません。メーカーにとっても同様です。電子機器のように高付加価値のものなら送付する手もありますが、プラ容器でそんなことはできません。

 セブン&アイグループの事例では、自社ポイントを付与して顧客の囲い込みにもつなげていますし、ビオセボンには寄付先を選べるという能動的なアクションを加えることで、協力者の動機を高めようという工夫があります。回収の協力者は必ず店舗まで足を運んでくれるわけで、それを集客効果というのは大げさですが、店舗にとってはメリットです。

 いわゆるコロナ禍のニューノーマルとは違う文脈ですが、資源の再利用はこれからの当たり前として社会に定着するほかありません。それが2050年のカーボンニュートラルを目指す国の道すじです。そうした社会で、小売店舗だからこそ担える役割があると思います。