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流通M&Aの深層 #3 再編は百貨店の生き残り策となりうるか

コロナ禍で手痛い打撃を受けた百貨店業界。外出自粛の影響により、既存店売上高は大きく落ち込み、その後遺症は未だ癒えずにいる。コロナ禍で買物の仕方が変わろうとしているなか、百貨店はこのまま凋落していくのか。それとも復活の糸口を見つけ出すことができるのか。

「厳しくなったらどこかと統合すればいい」

 今年8月31日付の日本経済新聞で、東北のある有名百貨店からアパレルの有力ブランドやラグジュアリーブランドが退店したと報じられた。

 百貨店におけるブランドの入れ替わりはそう珍しいことではない。百貨店都合によるテナント退店や新規導入は頻繁にある。しかし、今回ばかりは百貨店側の事情ばかりではなさそうだ。

 百貨店に入る有力ブランドやアパレルメーカーもコロナ禍で売上が落ち込んでおり、自らの存続のためにチャネル(販路)を選別せざるを得なくなっている。コロナ禍による百貨店の苦境について、ある百貨店関係者は「一過性でしょう。コロナが終息に向かえばまた顧客は戻ってきますよ」と楽観視するが、今度ばかりはそう言っていられない状況だ。

 その百貨店関係者は「厳しくなったら、どこかと統合して生き延びることを考えればいい」と、この期に及んでも悠長なことを言っているが、「業績が厳しくなったところ同士が一緒になってもうまくいくはずがない」(大手流通業首脳)というのが大方の見方だ。

コロナショックで上半期決算は惨憺

 百貨店の苦境は直近に発表された中間決算でも鮮明にあらわれている。たとえば三越伊勢丹ホールディングス(東京都)の2020年上半期(4 ~9月期)業績は367億円の最終赤字(前年同期は75億円の黒字)、通期(21年3月期)でも450億円の最終赤字になる見通しだ。

 同様にJ.フロントリテイリング(東京都)も20年上半期(3~8月期、IFRS)は168億円の最終赤字、髙島屋も上半期(3―8月期)決算で232億円の赤字を計上した。

 不透明感が漂うのは足元業績だけではない。仮に百貨店という本業を捨てて、いわゆる“場貸し”業に転換するにしても、一等地に立地し家賃の高い百貨店に入居できる業態は限定されてくる。

 今後の方向性について、百貨店首脳の多くは決算発表の席上でデジタルシフトを進め、コロナ禍を乗り切ると説明した。

 しかし、実際はどうだろうか。デジタルシフトが進んでいる三越伊勢丹ホールディングスとて、コロナ禍を背景にECが伸びているのは事実だが、それでも21年3月期のオンライン売上高見通しは310億円。売上高全体の売上高の落ち込みをカバーするまでには至っていない。老舗の看板だけでECを伸ばしていくのは難しい。

「再編」は生き残り策のカードとなるか

 再編に生き残りの可能性も見出すのはどうだろうか。

 百貨店業界ではかつて、阪急阪神百貨店を傘下に持つエイチ・ツー・オーリテイリング(大阪府)と髙島屋の経営統合が模索されたが、紆余曲折あって破断となった。コロナ禍による苦境を受け、両社の生き残り策として、この再編話が再び浮上してくるのではないかと見る関係者もいる。

 しかし、髙島屋と阪急阪神百貨店の統合話は「三越伊勢丹が大阪のJR「大阪駅」前の駅ビルに進出したことへの対抗措置であり、取引先にどちらを選ぶのかと“踏み絵”を踏ませるため。本気で考えているわけではなかったのではないか」(ある百貨店関係者)という説が有力だ。再編という選択肢も、勝ち残りのカードになる可能性が低いのも、業界としては悩ましいところだ。

 仮に、再編を強引に実現させたところで、主力のアパレルはコロナ禍で疲弊しており、影響力を行使するのは難しい。アパレル各社はコロナ禍の以前から百貨店にとっての宿敵であるショッピングセンターに傾斜しているうえ、足元ではECに舵を切りはじめている。いよいよ現実味を帯びつつある百貨店の「生き残り問題」。各社はどのような答えを出すのだろうか。