“コロナ特需”で潤う業態とコロナショックの直撃を受け低迷する業態に二分化している流通業界。業績の明暗が分かれる中、足元ではこれまでにないほどに再編機運が急激に高まっている。直近では、家具・ホームファッション専門店大手のニトリホールディングス(東京都/白井俊之社長兼COO:以下、ニトリHD)がホームセンターの島忠(埼玉県/岡野恭明社長)の買収に名乗りを上げた。業績好調のドラッグストアでも再編の火種がくすぶっている。本連載では現在、過去のM&A(買収・合併)にスポットを当て、業界再編の行方を占ってみたい。
島忠をめぐり“買収合戦”の様相へ
「ホームセンター業界はこれまであまり再編はなかったですが、一気に火がついてきましたね」
そう話すのはある産業紙の記者だ。
ニトリHDは10月29日、島忠に対しTOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。島忠をめぐっては、すでにホームセンター大手のDCMホールディングス(東京都/石黒靖規社長兼COO)が完全子会社をめざし、現在1株4200円でTOBを実施している。これに対しニトリHDは、この買い付け価格を1300円上回る5500円での買い付けを表明、買収合戦の様相を呈している。
ニトリHDが“後出しじゃんけん”のようなかたちで買収に名乗りを上げたのは、首都圏店舗の拡充がねらいと見ていいだろう。今や沖縄を含む全都道府県に店舗を展開するニトリHDだが、東京都の店舗数は49店、埼玉は33店、神奈川は31店(21年2月期第2四半期末)と、首都圏のマーケットの肥沃さを踏まえると、まだまだ出店余地があるといえる。
これに対し、島忠は首都圏を中心に約60店を展開している。仮にニトリHDの買収が成功すれば、首都圏でのニトリの店舗網は一気に拡充され、強固なドミナントを形成できる。物流や広告宣伝展開も効率が高まる。
首都圏深耕はニトリの“悲願”
家具インテリア商品は大型商品が多く、いかに効率的な物流体制を築くが成長のカギとなる。ニトリHDにとって、メッシュの細かい店舗網の構築は悲願でもある。
ニトリHDの似鳥昭雄会長は、首都圏、とくに東京都での店舗展開には強い思い入れがある。都心での店舗展開を始めた頃の2017年のこと。決算会見の席上で、似鳥会長は「赤字覚悟で東京・銀座に出店したが、当初目標の1.5倍以上の売れ行きがあった。都心店は利益率が低いが、黒字ならそれでいい」と話し、悲願であった都心進出に満足気な表情を浮かべた。
買収合戦の行方は予断を許さない。だが、ニトリHDが島忠を傘下に入れると、売上高は単純合算で8500億円超となり、1兆円の大台が視野に入ってくる。首都圏店舗のカバー率は高まり、ECとの相乗効果も期待できる。ニトリにとって、首都圏に店舗網を持つ島忠は、相性がよいチェーンと言える。
譲れないDCMホールディングス
島忠の獲得でニトリHDと競うことになったDCMホールディングスも首都圏の店舗は手薄。DCMホールディングスも傘下のDCMホーマックと持分法適用会社のケーヨーが東京都で店舗展開しているが、それほど数は多くない。DCMホールディングスとしても島忠の取得は譲れない。
買収合戦の際のひとつのカギは、島忠株の8.38%保有していることが明らかになっている旧村上ファンド系のシティインデックスイレブンスがどう動くかがだろう。だが、買収価格は、DCMホールディングスが提示している価格よりもニトリHDのほうが高く、ニトリ有利の状況となっている。
巣ごもり消費の増加により、ホームセンター各社の足元の売上高は大きく伸長している。DCMホールディングスは21年2月期上半期(20年3~8月期)決算において、営業利益が対前年同期比76%増の223億円となり、過去最高を記録した。同じように島忠も“コロナ特需”をとらえ、低調だった前年同期から一転、堅調な業績をマークしている。ニトリHDも上半期決算で大幅な増収増益を果たしており、コロナ禍という大きな変化を追い風にとした3社が再編に動き出した格好だ。
ホームセンター業界ではアークランドサカモト(新潟県/坂本晴彦社長)がLIXILビバ(埼玉県/渡邉修社長)を買収したばかり。島忠の獲得は、ニトリHDにとってもDCMホールディングスにとっても、今後の経営を大きく左右することになる重要なポイントになる。そしてこれを契機に、ホームセンター業界の再編が加速していくとも言われている。ニトリHDの“後出し”にDCMホールディングスはどう反応するか。注目が集まっている。