東京都をエリアに事業展開する生活クラブ生活協同組合・東京(東京都/増田和美理事長:以下、生活クラブ東京)。同生協は、コロナ禍で宅配ニーズが急増した首都圏において、欠品をほとんど起こすことなく、生協のなかでも供給高をとくに大きく伸ばした。さらに、独自の組織運営手法により、若い子育て世代が積極的に組合員活動に参加する組織風土の醸成に成功している。
4~6月の宅配供給高は対前年同期比37%増!
新型コロナウイルス(コロナ)感染拡大によって3月以降、首都圏の生協の宅配事業供給高(小売業の商品売上高に相当)は大幅に増加した。なかでも伸び率が高かったのが生活クラブ東京だ。
2020年度第1四半期(4~6月)供給高は、その他の首都圏を事業エリアとする生協では、前年同期と比べた伸長率が高くても20%台だったのに対し、生活クラブ東京では同37.0%増えた。ピークは5月の大型連休前後の3週間で、4月第5週が同57.3%増、5月第1週が同63.3%増、第2週が同41.9%増で、年末並みの受注金額を記録した。
生活クラブ東京専務理事の小林徹也氏は、「風上である生産から風下である組合員への配送までをコントロールできる体制にあることから、注文点数に制限をかけることがなかった」と話す。多くの生協では一時期、受注量が物流や仕分けのキャパシティを超えたため、1商品当たりの注文点数を制限したが、生活クラブ東京はそれがなかった。これが生活クラブ東京と他生協との供給高伸長率の差になって表れたものと思われる。
点数制限をせずに対応できたのには、生活クラブ東京の特徴が関係している。
まず、同生協の大半の商品はプライベートブランド(PB)商品であり、かつ原材料の国産比率が非常に高い。そのため、コロナ禍でナショナルブランド商品のように他の小売企業から注文が集中することがなかったうえに、輸入材料が入手できず、商品の製造ができなくなる事態も避けられた。
次に、同生協の独自の物流体制だ。生産者から仕分けセンター、また仕分けセンターから配送拠点までの物流は同生協が出資する関連会社が、そして配送拠点から組合員への配送は同生協が運営する。なかでも生活クラブ東京では、生産者から仕分けセンターまでの物流も自前化している点が、他の生協にはほとんどない特徴だ。この体制があることで、生産地に追加便を出すといった柔軟かつ迅速な対応が可能で、コロナ禍での注文増にも対処できた。
さらに、「取引先と購買者」という立場ではなく、同生協と生産者が対等な関係で協力し合う「対等互恵」の関係を築いている点だ。この対等互恵は、取引を開始する際に同生協と生産者が取り交わす基本取引契約書にも盛り込まれている。
この方針のもと、以前から契約農家の生産量や、取引先メーカーの原材料の手配状況、組合員からの受注予測など、細かに情報を確認しあう体制づくりが整っていたことがコロナ禍で効果を発揮した。
これらの結果、生活クラブ東京では4~8月までの欠品率(欠品額/受注金額)をわずか2.0%に抑えることができた。
生協活動のリーダーは半数以上が子育て世代
注文が急増した3~4月にかけては新規加入者も増大した。宅配事業の組合員に絞っても4月だけで純増数が1785人に及んだ。これは、20年度の宅配利用者純増計画数の1781人を上回る数である。
生活クラブ東京は、コロナ禍以前の13年から「子育てを応援する生協」を掲げ、子育て世代の加入促進に力を注いできた。(同生協では30~45歳までの世代を便宜上、“子育て世代”と呼ぶ)。その取り組みは実を結びつつあり、それ以前は上昇傾向にあった組合員の平均年齢が約55歳で維持できるようになっている。
子育て世代の利用獲得に貢献しているというのが、「まち」の存在だ。
00年、生活クラブ東京では、組織運営の方法をあらためた。長年、生協は班ごとの配送を最少単位とし、班の集合体である「地区」、その上の組織体の「支部」というピラミッド型の組織を形成してきた。ところが、個別配送が主流になり、既存の組織運営が成り立たなくなった。
そこで、個人が組合員活動に直接参加できる活動体として運営を始めたのが「まち」である。地域ごとに500人以上を1つのグループとして、生活クラブ東京には計54の「まち」がある。そして、それぞれが年間の行動計画や活動目標を定めて、勉強会や試食会、生産者との交流会などの活動を自主的に行っている。
生活クラブ東京はこの「まち」の活動に、子育て世代に積極的に参加してもらえるよう働きかけた。12年から「まち」の行事に顔を出した子育て世代の組合員に、「運営メンバーを一緒にやろう」と声をかけたり、同世代に興味・関心を持ってもらえるイベントの企画に協力してもらったりと、活動への参画意識を刺激することに力を入れたのだ。すると1人、また1人と若い世代が運営側に携わるようになり、今では半数以上の「まち」で、子育て世代がリーダーを担っているという。「子育て世代が運営すると、『まち』の活動に同世代が参加しやすくなる。そうした地域のコミュニティの存在はこれまで生協に関心のなかった若い世代の加入や、利用定着につながっている」と小林専務理事は説明する。
繁盛店の年商は3.3億円小型SM「デポー」
生活クラブ東京は宅配事業だけでなく、04年から店舗事業も展開し、小型食品スーパー(SM)「デポー」を運営しているのも特徴だ。売場面積は約30~50坪で、PBを中心に商品を構成。現在、10店舗を展開している。各店舗とも毎年、売上は伸長傾向にあり、繁盛店では年商3億3000万円を稼ぐ。
利用者も年々増加傾向にあり、現在、宅配利用の組合員が約7万1000人に対し、「デポー」の利用登録組合員は約1万8000人まで増えている。
店舗事業の好調の背景には独自の運営方法がある。まず出店地には、同生協の知名度が高く、すでに宅配利用の組合員が高密度に居住するエリアを選ぶ。加えて、開設前に周辺エリアで店舗利用の新規組合員を1200人以上集め、着実に売上を見込める状況にしてから店をオープンしている。
各店舗の運営は、地域の組合員が設立した労働者協同組合ワーカーズ・コレクティブ(※注)が中心となり、生活クラブ東京の組合員に有償ボランティアというかたちでレジや品出し業務を手伝ってもらいながら行っている。
高齢化により自宅から近くて買い回りしやすい小型店の存在が見直されていることに加え、生協ならではの安全・安心な独自の品揃え、また販売者も組合員であるからこその利用者との信頼関係が、利用拡大につながっているという。
今後の中長期的な戦略として同生協がめざすのは、宅配事業における東京23区でのさらなる利用拡大だ。現在は、世帯数に対する組合員の割合は多摩方面で高い。都区部では墨田区を除く22区(一部地域除く)で、約4万7000人の組合員を獲得してるが、これをさらに増やしたい考えだ。
「今回のコロナ禍では東京23区から多くの加入希望があった。同エリアでの当生協の認知度は低いため、まだ伸びしろがある」と小林専務理事は語る。これを実現するべくまずは物流体制を整備し、配達能力を拡充する計画だ。
※ワーカーズ・コレクティブ:地域住民が共同出資し、全員が対等な立場で経営にも参加しながら、地域社会に必要なモノやサービスを提供する事業体。80年に生協活動から派生して全国に広がった
生活クラブ東京概要
※2020年3月末
本部所在地 | 東京都世田谷区宮坂3-13-13 |
創立 | 968年12月16日 |
出資金 | 94億円 |
組合員数 | 約8万7000人 |
生活クラブ・東京の直近5年間の経営概況
出典:生活クラブ・東京
年度 | 総事業高 | 経常剰余 | 宅配供給高 | 店舗供給高 |
2015 | 207億円 | 1億4500万円 | 187億円 | 20億円 |
2016 | 217億円 | 1億9100万円 | 196億円 | 21億円 |
2017 | 217億円 | 1100万円 | 195億円 | 22億円 |
2018 | 225億円 | 4800万円 | 201億円 | 23億円 |
2019 | 226億円 | 1億300万円 | 201億円 | 25億円 |