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サイゼリヤでアルバイトした星付きシェフが心底驚いた徹底「カイゼン」の凄み

世界最高峰のイタリア料理店で副料理長を務めたこともある星付きシェフが、サイゼリヤでバイトをしたら自店の経営が劇的に改善した―。東京・目黒の一ツ星レストラン「ラッセ」を経営する料理人、村山太一氏が一バイトとして学んだのは徹底的に「カイゼン」を繰り返す姿勢だった。自店にサイゼリヤ式オペレーションを取り入れたところ、人時生産性は3.7倍に向上、このコロナ禍においても3~5月は黒字を維持した。村山氏が「理想郷」とまでいうサイゼリヤは何が違うのか。自著「なぜ星付きシェフの僕がサイゼリヤでバイトするのか?」からその一端をお届けする。

星付きシェフがサイゼリヤで働いて見つけたのは、生産性向上のために何度も改善を繰り返す姿勢だった

サイゼリヤのすごい生産性

 サイゼリヤでは、160席をたった5人のスタッフで回しています。これには人生最大の衝撃を受けました。内心、「5人!? 絶対ムリムリ」と思っていたけれど、全然大丈夫でした。

 開店は11時からなので、1時間前にキッチンとホールの各1名が店に入ります。キッチンの担当者はご飯を炊いたり、コーヒーメーカーやドリンクバーの備品を補充したり、お皿をセッティングしたりします。ホールの担当者はフロア全体とトイレの掃除を30分ぐらいで済ませます。

 その間に店長は看板メニューのミラノ風ドリアの前年の売れ行きを見て、その日の天気や店の近くてイベントがあるかどうかをもとに、今日はどれくらい売れるのかの予測を立てます。それに沿ってベシャメルソースとミートソースとご飯をどれくらい用意しておくのかを決めるのです。

 11時の開店と同時に、お客様が次々と訪れます。キッチン担当は、食材をオーブンに入れたり、パスタをゆでたり、料理をつくる合間にお皿を洗ったり、クルクルと動き回ります。ホール担当はお客様を案内したり、料理を運んだり。忙しい時間帯はともかく、普段は4人で十分対応できました。

1皿あたり0.1円単位で改善を重ねる

 そのムダのない仕組みに、僕はホレボレとしました。星付きレストランは、僕の肌感覚だと2席あたりスタッフが1人必要になります。ラッセは24席あったので、12人スタッフを雇っていましたし、そういうもんだと思っていました。サイゼリヤでバイトを始めたころは9人。それでも足りなくて、「もっと雇わなければ」と考えていたくらいです。

 サイゼリヤのすごいところは、一皿あたり0・1円単位でコスト削減や品質改善の努力を怠らないところです。10秒かかっていた作業を1秒減らすために、細部にわたって合理的に最短で働ける設計が至るところでしてある。そしてそれが常にアップデートされている。

 例えば、レストランは通常キッチンは総店舗面積の3分の1がセオリーですが、サイゼリヤは5分の1です。それでも営業がちゃんとできるように、キッチンでの作業内容が設計されています。

 人の動線も、仕入れ業者が入る場所とスタッフが動く場所が完全に分かれていて、それぞれに最適に設計されています。だから、忙しいキッチンに「まいど~」と仕入れ業者が入ってきて、「ジャマジャマ!」となることもない。

 これは単にスペース効率が良いというだけではありません。動きが決まっているから、ミスや忘れることがないんです。ちなみに本部ではエンジニアリング部と呼ばれる部署があって、スタッフの動きを徹底的に分析し、専用の機材をつくるなどして業務そのものを変えて効率化を進めています。サイゼリヤには、生産性を上げるためだけの部署が存在するのです。

 他にも、細かいところでいろいろなルールがあります。時速5㎞以下では歩いてはいけないし、お皿やグラスを下げるときに何をどっちの手で持つか、下げたお皿を洗い場に置く場所と順番も全て決まっています。そうやって小さなカイゼンを何百回も何千回も重ねるのがサイゼリヤ流です。

サイゼリヤをヒントにレストランを改革

 この時、僕は「ラッセも少人数で店を回していけるのでは?」と思い至りました。それから、ラッセの大改革が始まります。

 バイトで体験したことは、店のスタッフにすぐに「サイゼリヤではこんなことをやってるんだよ。すごくね?」と話しました。それから、ラッセでもできるかどうかを検討。1日に1個ずつでも改善しようと、どんどん取り入れていきました。

 2つの方向性がありました。1つ目はラッセの内装や間取りに合わせて新しい設備を導入すること。すでに紹介したグリストストラップの清掃や、洗浄ラックに合わせたオリジナルのお皿の開発などです。

 そして二つ目は、作業効率の改善をスタッフ一人一人に考えてもらうこと、僕一人でやるには限界がありますし、そのなのチームじゃありません。例えば、2往復する必要があった作業を1往復でできるようにしました。あとは、モノの置き場所を見直すことで、手を伸ばさなくても目の前で作業が完結するように工夫しました。

 サイゼリヤに素晴らしいお手本を与えてもらったことによって、その考え方を取り入れつつ、同じ方向を目指していったんです。

 サイゼリヤでバイトを始める直前、若い子が辞めました。彼には朝から晩までずっと洗い物をしてもらっていたので、専任でやる人のいなくなった皿洗い作業を、これを機に徹底的に見直すことにしました。

 まずやったのは、営業中も手が空いた人がこまめに洗っていく方法です。でも、それはフロアにいるお客様へ目が行き届かなくなるという不都合が生じました。

 次に、営業中は洗い物は全部ほっといて料理とサービスに専念し、最後にまとめてやるようにしました。効率は上がったけど、結局たまった洗い物には時間がかかって、深夜まで店に残らなければいけない状態が続きました。そこで、ワイングラスを置くためのラックを買い足しました。多い日は1日で200個のワイングラスを洗っているんですが、その全てを置けるよう、ラックを9個買い足して全部で12個にしました。

 さらに、ワイングラス30脚を純水で一度に洗える洗浄機も購入しました。純水で洗うと、グラスに水あかがつかないんです。洗ったグラスは全てラックに置き、自然乾燥させたものがそのまま使えるようになりました。拭いて棚にしまう手間が省けて、劇的に効率が上がったんです。

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 また、それまではワイングラスを裏方に置いていましたが、それだとホールスタッフは注文を受けてからグラスを取りに行って戻るという動作が必要になります。そこで、客席にもグラスラックを設置したら、労働歩数が減って、その分時間が生まれました。

 終業後に3時間かかっていた洗い物は現在20分まで減りました。ラックは1つ6000円。9つで5万4000円ですが、人件費を考えたら数日でペイすることになります。こうした工夫を、あらゆる業務で積み重ねていきました。

 あとは、やらなくてよいことをやめました。毎日、テーブルクロスはアイロンがけしていたのですが、しわのばしスプレーと手袋で済ませるようにしました。おしぼりも袋から取り出してきれに折っていたのですが、それもやめました(これは不衛生でもありました)。重たくて高そうなフランス製のお盆を、軽い木のお盆に変更したら、料理を出すのがだいぶ楽になりました。

 短縮して生まれた時間で、他のサービスをする。そうやって、同じ作業をするにしても、効率のいい方法を考えると、劇的に作業時間は減っていきました。

 こういう改善の積み重ねが、生産性を高めていくんだと実感しました。これはレストランだけではなく、あらゆる業種に応用できるんじゃないでしょうか。優れた仕組みを持つ企業でバイトすれば、本業の改善ポイントがどんどん浮かんでくるはずです。バイトをするだけで、生産性向上のタネは間違いなく見つかります。