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破綻が迫るアパレル企業の事業再生手法#4 オペレーション改革 最も大きなコストを最小化する

コロナ禍長期化に伴う経済の長期的低迷により、これから企業の業績悪化は表面化する。事業再生、企業再生は避けられないテーマである。一社でも多くの企業を救うため、私が独自に体得した「企業再建の手法」を解説する第4回目。ここまで3回にわたって「余剰な商品、業務、店舗を切り離し、損益分岐点を下げる」という「一枚目」を解説してきた。今回から「二枚目」に移る。二枚目は、オペレーション改革である。

Blue Planet Studio / istock

「一枚目」が終わり、企業は一時的に利益が出る状態に

 9月に入り、国内におけるコロナウイルスの感染者数は落ち着きを見せてきた。だが、まだ余談を許さない状況であることに違いはなく、我が国の経済的には悪化の一途を辿っている。こうした時代だからこそ、我々は現実を直視し、来るべき日に備え正しい企業再建の手法を身につけておく必要があると思う。

 さて前回まででアパレル企業再建のための「紙めくり」の一枚目が終わった。企業はリストラ効果もあり、利益は一時的にでている状態になっているはずだ。そして、赤字回避は、理論上ではあるが、将来3カ年続くはずとなっている。「一枚目」は企業にとって痛みを伴う改革だ。9割以上の企業がこの「一枚目」で大なたを振るえずに挫折する、そんな現実を目の当たりにしてきた。

 われわれ再建屋は実行者たり得ない。計画に従って確実に実行するのは企業自身であることを前提に、「二枚目」に移ってゆく。

 

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二枚目はオペレーション改革

 さて、不要な商品(在庫)、不要な業務、不要な組織を切り離した後、事業部は「オペレーション」、つまり業務フローの適正化を行うことになる。

 ここで断っておきたいのは、「オペレーション」と「戦略」は違うということだ。オペレーションというのは、企業、事業の営業活動・支援活動をいう。しばらく、一般論にお付き合い願いたい。オペレーションの向かう先は3つしかなく、専門用語でQCD (Quality品質、Cost コスト、Deliveryスピード)という。オペレーション改革とは、販売、マーチャンダイジング、調達、流通などの諸活動に対し、如何に高品質に、低価格で、スピーディーに行うかということを求めることにほかならない

 これに対し、「戦略」とは、競争相手、顧客のニーズ、そして、自社の得意領域を明確にし、マーケットの中で独特なポジションをとることをいう。アパレル企業の再建では、このダイナミックな戦略を「改革」と呼び、二枚目の「改善」と言葉を別けて説明する。また、海外進出、異業種への進出、M&A(合併・買収)などのダイナミックな大改革=戦略については「三枚目」で語るため、お急ぎになる気持ちを抑えて「紙めくり」を順序立てて行って頂きたい。

 まず、アパレルビジネスのオペレーション改善は、コスト・ターゲットを決める必要がある。日本人は伝統的にQC活動が得意で、自分の担当業務の生産性向上は製造業などでは常識だった。しかし、他の組織の話になると、「我関せず」という態度をとるのが常だし、コスト削減といっても、その効果検証を先に評価せず、同じ10%の改善を行ったとしても、その効果がコンマ数%しかない場合も総コストの20%を占めたりする場合も同列で行い、製造業では改善すべき課題が10も20もあるという状況に陥っている。また、そもそもその業務は不要であるにも関わらず、その業務を所与のものという前提で改善を行うこともある。そもそもターゲットとすべき「コスト」を、どこに絞り込むかという議論が抜けている場合が多い。

 例えば、アパレルビジネスの場合、生産は工場が、副資材は副資材メーカーが、流通は商社が担って、在庫はアパレルが、そして、販売は小売りが行うという二人羽織ならぬ、多階層による伝言ゲームのような業務フローでものづくりが流れている。複雑怪奇なバリューチェーン(ものづくりの流れを、このようにいう)全体が、複数の企業で構成されており、店頭で消費者の手に渡るときには恐ろしいほどの高額な流通コストを背負っているわけだ。

 だから、本来、最終商品を構成しているコストを分解し、それぞれの売価に占める割合を見て、最も大きなコストをバリューチェーン全体で最小化すべきなのである。バリューチェーンを構成する個別企業が個別最適で単独コストを削減努力しても、ものづくり全体のオペレーション改善には繋がらない。

 

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最も大きなコストは「マークダウンロスと商品評価損」「家賃」

 具体例を挙げよう。例えば、現在、徹底的にいじめられている商社繊維部門だが、これは、「分かりやすい」という理由だけでコスト削減のターゲットになっている。私が提唱する4KPIの「企画原価率」だ。この「企画原価率」は、アパレル企業からみて「外部企業である」ということから、とかくターゲットになりやすい。そして、商社や工場は、これまでの「南下政策」によって、それに応えてきたことも事態を複雑にしている。その結果、商品は荒れ、口約束による簿外在庫が増大し、結果的に納期は遅れトータルコストは増大していることにアパレルは気付いていない。

 例えば、百貨店アパレル企業の場合、正規価格を100とすると、家賃見合い(家賃に相当する納入率)は25-35%、人件費は10-15%ぐらいで物流費その他が5%、原価率が合計で45-55%ぐらいである。これらのコスト比率はオペレーションの改善によりある程度の削減が可能だが、売上低迷により相対的に増加しているため、すべて足すと100%を超えて利益が出ないどころか赤字になっているのは読者もご存じの通りだ。

 在庫を資産としてバランスシートに放置しておき、なんとか損益計算書上で利益を絞り出しても1-2%という低い利益率になってしまうわけだ。例えば、最も大きな変動費である原価に着目し、その原価をブレークダウンすると、企画原価率が20%で、残りの30%がマークダウンロスと商品評価損の合計である。そして、もう一つのメガコストは家賃見合いである。今の世の中で、リアル店舗をだして利益がでるアパレル企業はほとんどない。それほど日本は地代が高いのだ。

 ここから、最も大きなコストは「マークダウンロスと商品評価損」「家賃」であり、合計で総コストの約60%を占める、ということがわかる。総投入量におけるプロパー消化率があがれば、マークダウンロスは減ってゆき、原価は下がる。仕入れ先たたきよりもよほど効果がでるわけだ。

 このように、バリューチェーンを俯瞰してみれば、調達原価など、たかが売上高対比で2-30%程度。さらに、そのなかの商社や工場の取り分、CMTを削減してもほとんど効果はでないどころか、ユニクロとの価格差は全く埋まらないことを知るべきだ。例えば、FOB(企業の仕入) に占める割合でいえば、「利益、CMT、副資材」が、それぞれざっくりと30%ずつなので、直貿により工場や商社の利益を半分にしても、消費者が手にするメリットは、商品売価に対して7%程度、つまり、10,000円の商品が9300円になる程度しかない。一方、2019年度貿易統計と市場規模推移から算出されるこの20年の商品上代の平均単価は40%も下落している

 「商社外し」がいかに不毛で、その結果、商品が“荒れ”、付加価値が失われてしまうというのは、こうした分析が背景にあるからである。このように、複雑に入り乱れるバリューチェーンを整理・分析し、全体を俯瞰した目でオペレーション改善によるコストターゲット絞り込むことが必要なのだ。商社も、この数十年、口八丁手八丁でアパレル企業の信頼を失ってきた。今になってCPFRをといっても、アパレル側から見れば「また、体の良いことをいっているのではないか」と疑われて当然なのである。バリューチェーンの全体最適が進まないのは、こうした数十年の「積年の恨み」が根底にある。商社とアパレルを行き来している私しか耳に入らない事実である。

 結果、利益率を半分にされて生き残れる商社、工場はないから、実際に中国の工場は、この20年で統廃合を繰り返し、大資本に飲み込まれ、東南アジアやバングラデッシュなどに追いやられる、あるいは廃業の道を選び、こうした双方のだまし合いによって、日本向けの「作り場」は無くなりつつあることを知るべきだ。この「負の連鎖」に対して、ユニクロのように垂直統合を完成したSPA(製造小売)企業をのぞいて、産業全体で対策も打っていなければ気付いてもいない。

 次回、「二枚目、オペレーション改善」のターゲットとその手法を解説したい。

 

 

 

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プロフィール

河合 拓(事業再生コンサルタント/ターンアラウンドマネージャー)

ブランド再生、マーケティング戦略など実績多数。国内外のプライベートエクイティファンドに対しての投資アドバイザリ業務、事業評価(ビジネスデューディリジェンス)、事業提携交渉支援、M&A戦略、製品市場戦略など経験豊富。百貨店向けプライベートブランド開発では同社のPBを最高益につなげ、大手レストランチェーン、GMS再生などの実績も多数。東証一部上場企業の社外取締役(~2016年5月まで)