新型コロナウイルスの感染拡大が続くなか、小売はどのように店舗の感染対策を進めていくべきか? いろいろな情報があふれ、マスクや消毒薬を求めて来店客が押し寄せた店舗も少なくない。そこで衛生分野のトップ企業であるサラヤのサニテーション事業本部、副本部長の戸室淳治氏に聞いた。
ハードとソフトの両面で衛生管理をサポート
――新型コロナウイルスをはじめ、各種感染症や食中毒対策の基本である手洗いと消毒を日本に定着させたのが御社と聞いています。
戸室 はい、そのとおりです。戦後、衛生状態の悪かった日本では赤痢やコレラなど伝染病が大流行しました。創業者である更家章太は、感染症を「治す」ことよりも「防ぐ」ことに着目し、手洗いと同時に殺菌・消毒のできる日本初の薬用石けん液と、それを衛生的に供給する専用容器を開発。同時に、手を洗うことの習慣化を広めるべく、標語を用いた啓蒙活動を行いました。これがサラヤのはじまりです。1952年の創業以来、「衛生」「環境」「健康」の3つを事業の柱とし、より豊かで実りある地球社会の実現をめざしています。
――サラヤといえば「ヤシノミ洗剤」などのように家庭用製品のメーカーというイメージが強いのですが、サニテーション(衛生管理)といった事業も手がけているのですね?
戸室 当社では一般家庭向けの商品を扱うコンシューマー事業、医療や介護の現場での感染対策をサポートするメディカル事業、食品取扱現場や事業所などの総合的な衛生レベルの向上をサポートするサニテーション事業という3つの領域で事業を展開しています。
私たちサニテーション事業本部には食品衛生と公衆衛生の2つの部隊があり、前者は食を扱う小売、外食、工場などを対象とし、後者は官公庁や学校、企業をはじめ、食以外のあらゆる事業所を対象にしています。そのため業務用では圧倒的なシェアを占めています。
――業務用の衛生管理を始められたきっかけは何ですか?
戸室 食品スーパー(SM)における食品衛生・食中毒対策ですね。そもそも40年ほど前までは、バックヤードで使用する洗剤は家庭用が多く、使い方も人によってまちまちで、食中毒などの事故も頻繁に起きていました。そこで当社では、誰もがわかりやすく、より安全でより簡単に衛生管理が実行できる環境を提供することが食の安全・安心につながると考え、業界初の「カラーコーディネートシステム」を構築しました。現場で必要な洗剤や消毒剤の規格をすべて統一し、用途別にラベルをカラーで分類。カラーと連動した使い方のマニュアルを作成したのです。これにより、現場の責任者からパート、外国人労働者まで誰もが一目で、どの薬剤をどのタイミングで、どのように使えばよいのかがわかるようになりました。
ただ、これだけでは不十分と考え、マニュアルどおりに使われているかどうかをチェックするサポートチームを1989年に立ち上げました。商品をハードとするならば、サポートというソフトもセットで行うことで、お客さまの課題解決につながるという考え方が創業以来、サラヤには根付いています。「食品衛生インストラクター」と呼ばれる当社独自のスタッフが、店舗の衛生調査からHACCPやISOなどのコンサルティングまで幅広いサポートを行っています。2008年にはサービス提供者として国内で初めてISO22000*認証を取得、世界に通用する食品衛生管理サービスを提供しています。
*原材料の確保から最終消費者にわたるまでのフードチェーン全体を対象とした食品安全マネジメントシステム
環境衛生の指針をつくり顧客ごとにカスタマイズ化
――ハードとソフトの両面からトータルにサポートするのが御社ならではの衛生管理というわけですね。
戸室 そうです。さらにエビデンス重視という点も当社ならではの強みといえます。自社でウイルス・細菌を扱う高度な研究機関をもち、早くから国際的な標準試験法を取り入れて、エビデンスデータを取得してきました。自社だけでは偏りがでるので、定期的に大学との共同研究も行いながら整合性を高めています。理論上だけでなく、現場で有効かどうかを検証し、商品づくりに落とし込む。こうしたエビデンス重視のものづくりによって、医療用分野でも食品衛生分野でも高い評価を得ています。
このたびの新型コロナウイルスに関しても、今年5月、大阪大学微生物病研究所と共同研究契約を締結。本物の新型コロナウイルス病原体を用いて、実使用に近い環境下での有効性を検証する試験を開始しました。試験結果については、今後、ホームページやプレスリリースなどで随時公開していく予定です。
――新型コロナウイルスの感染対策は、小売業にとって喫緊の課題です。衛生管理のプロとして、小売業の店舗における感染対策はどうすればよいとお考えですか?
戸室 キーワードは「ノータッチ化」です。たとえば、来店客用のアルコール消毒には手をかざしたり足で踏んだりすれば自動的に消毒薬を噴射するディスペンサーがあります。誰が触ったのかわからないポンプの頭を押すのは抵抗があるという声をよく聞くだけに、ノータッチ化できるものは進めたほうがよいでしょう。
大切なのは、ウイルスを持ち込ませない、広めないこと。これは病院における院内感染対策の基本です。当社では長年メディカル分野で培ってきたノウハウがあるので、これを小売業や事業所などの感染対策に転用しています。
――たしかに個人レベルの感染対策は周知されていますが、店舗については手探り状態です。どこまで、どのように消毒したらいいのか判断に迷うところです。
戸室 そのような声は当社にも多く届いています。そこで、オピニオンリーダーといわれる専門家の先生方と連携し、店舗での感染対策における環境衛生の指針をつくりあげているところです。そのうえで顧客ごとのカスタマイズ化にも取り組んでいます。現状の衛生レベルを踏まえ、目標・目的に応じた環境衛生オペレーションを構築。強みであるインストラクターによる環境衛生に関するチェックや教育を行い、感染対策を全面的にサポートしていきます。
ある調査会社が行ったコロナ禍における消費者動向調査によると、衛生関連商品は効果の期待できる専門メーカーの商品を選ぶという意識変化が見られるようになったそうです。これは、新型コロナウイルスに関してさまざまな情報があふれ、混乱が起きたことに対する当然の流れといえるでしょう。それだけに来店客の店舗衛生に対する視点も厳しくなることが考えられます。その点からも衛生分野のパイオニアであるサラヤが、国際標準の知識とエビデンスをもとにウィズコロナの時代に合わせた店舗づくりをサポートしていきますので、まずはご相談いただければと思います。