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アフターコロナ時代のBCPその3 「店舗に依存しない販売」や店頭受け渡しを進めなければならない理由

事業継続の最大の脅威は
「消費者行動の変化」

 全3回でお届けする本連載の第1、2回では、アフター・コロナの危機対応として、BCP(事業継続化計画)の枠を超えて近未来を予測し、事業戦略を見直すことが必要になること、そして、そのために抑えておくべき近未来の新たな消費スタイルのキーワードについて述べた。

 筆者は、アフター・コロナで想定される事業継続の脅威は、「ウィズ・コロナで変化した消費者行動」だと考えている。消費者の変化に取り残されてしまえば、事業継続は不可能になるからだ。
 そこで最終回の今回は、アフター・コロナの時期を、ウィズ・コロナを経て新たな消費者の行動が定着するであろう3~5年先と定義し、その変化に対応するために小売業はいかに策を講じるべきか論じたい。

成長を継続するために
押さえるべき3つの方向性

 ウィズ・コロナにおける消費者行動の変化を読み解くには、消費者の「心理」の変化を考察することが重要だ。
 ウィズ・コロナでは、「密閉・密集・密接」の3密の回避が半強制的に求められ、通勤・通学といった日常的な「移動」を多くの人が自粛し、人の行動する時間や場所が再定義されつつある。
 こうした生活を数年経ると、人々は新しいライフスタイルに慣れ、時間や場所に囚われない、より快適な買物方法を求めるようになるのではないだろうか。
 この心理を踏まえて、アフター・コロナに向けて小売業が対策を進めるべき方向性を表したのが下のマップだ。

 順に解説していくと、小売業にとって売上向上のための重要な指標の1つは、来店者数の増加だ。しかし、ウィズ・コロナでは消費者は「安心・安全」を求めて感染リスクが高い、混雑した状況を避けるようになった。そしてアフター・コロナでも、新しいライフスタイルにおいての買物の「快適さ」を求めるようになるだろう。 

 そうしたなかで売上を伸ばすための方向性は、「①消費者の来店時間の分散」と「②店舗以外の活用」ではないかと考える。「時間」と「場所」を軸に設定し、テクノロジーによって、快適な買物環境を提供していくのだ。そしてこの双方の変化を通じて、将来的には小売業は「③店舗に依存しない販売」、すなわち新しい業態(マップ右上の領域)への転換が図られていくと想定される。

アフター・コロナでは、従来の消費者の来店時間の集中は分散化し、それに応じた販促施策が必要になる

①消費者の来店時間の分散

 リモートワークの活用はアフター・コロナにおいても継続・拡大すると考えられ、人々の生活スタイルはより柔軟になるだろう。これにより従来の平日夕方や休日の来店者の集中は無くなり分散する。そのため、以前のような集中する時間に合わせた施策ではなく、分散した生活時間に即した施策を小売業の側から積極的に行う必要がある。

 こうしたなかでより重要となってくるのが、ワントゥワンマーケティングだ。消費者ごとに、何を、どの店舗・時間帯で購買したのかデータを収集・分析し、AI活用などにより消費者の生活スタイルに沿った、より訴求力あるプロモーションを行う。

 1つの参考事例がDVDレンタルの「ゲオ」だ。ワントゥワンマーケティングで顧客ごとの来店時間を分析し、それに合わせてリコメンドメールを送ることでレンタルや商品の販売実績を伸ばしている。

ECで注文した商品を店頭で受け渡すサービスを導入するのも1つの手だ

②店舗以外の活用

 店舗での買物では、混雑や、商品を探す手間などが発生する。

 そうした課題を解決し快適な買物環境を提供するためには、ファストフードなどで利用が進む、ECで注文した商品を店頭で受け渡すサービスを、食品スーパーやドラッグストアに導入するのも1つの手だろう。事前オーダー専用の店舗であれば、従来よりも省スペースで、かつバックヤード業務の多くをロボットなどで代替すれば少人数運営も可能になり、原理的にはレジレスにもできる。

 専用店舗ではなくとも、駐車場の一角に商品受け取りスペースを設置するだけで、サービスの実現は可能だ。デリバリー・プラットフォームを利用すれば、配達サービスまで提供できるだろう。

 

 

 

ショールーミングは、小売業にとって新たな提案のかたちとなる可能性がある

③店舗に依存しない販売

 小売業にとって店舗は商品を揃え、販売する場であるともに、消費者とコミュニケーションを図る場でもある。ショッピングには、必要なものを購入するというだけでなく、その行為自体がエンターテイメントの要素を含んでいる。マップ右上は、小売業の提供価値を再定義することにより実現される領域と言えるだろう。

 そうしたなか、今後広がりが想定される販売形態の1つにショールーミングをあげたい。高額な家電や、質感が重要になるアパレルなどでは、すでに一般的になりつつあるが、現時点ではあまり前向きでない業界関係者が多い。

 しかし、店舗をほかにはない体験できる場として再定義し、ECでの購買に確実につなげることができれば、小売業にとって新たな提案のかたちになるのではないだろうか。

アフター・コロナに向け
今、できること

 経営者の視点では、現時点ではビジネス自体の継続が最優先課題かもしれない。しかし、消費者の変化や、選択、勝ち残るサービスを長期的視野で考えることが必要だ。

 繰り返しになるが、ウィズ・コロナの今だからこそ、アフター・コロナの消費者の変化を見据えた戦略的な投資を真剣に検討すべきだ。全3回の連載で述べた内容が、その判断の一助となれば幸いである。