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アフターコロナの小売像その4 「ダークストア」への期待

食品スーパー業界において、店舗を起点とするネットスーパーサービスは「儲からない事業」の一つとして、長年にわたり“日陰者”扱いされてきた。だが、コロナ禍で外出を控える人々が増え、ネットスーパーがにわかに脚光を集めている。こうした状況下、「ダークストア」が今後のネットスーパー躍進の原動力になるのではないかとの見方が広がっている。

混雑続くネットスーパー

「現在、ご注文が非常に承りにくい状況です」――。

 大手スーパーのネットスーパーサービスはどこも混雑状態が続いている。「注文を受けてから3~4日後に配達」であればまだ良いほうで、配達日が1週間先というサービスもざらにある。

 本来、ネットスーパーの利用者は、今日明日に欲しい生鮮食品や日配品を注文する。現状の混雑ぶりは、消費者からすればまったくもって使いにくい状況であり、食品スーパー側から見れば、販売機会の損失が続いている状態だ。

 これほどまでにネットスーパーに注目が集まっているのは、新型コロナウイルス感染拡大により自粛ムードが続いているためだ。だが、この状況が一過性とみるのは、おそらく間違いだろう。

 これまでのネットスーパー市場を振り返ると、拡大スピードは緩慢であり、思い切ってカネを突っ込む企業も少なかった。かつてはネットスーパー自体が食品スーパー企業にとっての“本丸”である実店舗を否定することになる、と考える経営者も少なくなかった。それに、人件費と物流費ばかりがかさみ、少しも利益が残らないという事情もあった。

 そのため、ネットスーパーの展開する企業の多くが、「将来に備えて一応参入しておく」というスタンスであり、リスクを冒して本腰を入れるというケースはほとんど見られなかった。

 しかし、コロナ禍によって、そうした状況は一変した。アフターコロナの世界では、ネットスーパーでの買物が定着するというのが、大方の予想となっている。

「ダークストア」はネットスーパー市場拡大のカギ?

 ただ、冒頭のネットスーパーの混雑状況をみてもわかるように、店頭起点型のネットスーパーでは今後の需要増加に対応できない可能性が高い。

 店頭の商品を従業員がピックアップし、検品して配達するというモデルは、少ない初期投資でサービスを開始できるというのが利点だ。だが、こうした人海戦術型のモデルでは、キャパシティは限られてくる。

 そんななか、今後のネットスーパー市場拡大のカギとなると観測されているのが、「ダークストア」だ。ダークストアとは、ネットスーパー専用の物流センター。通常の店舗と同様に商品が並べられているものの、一般客が入店することはない。

 海外でしばしば見られるダークストア。国内ではイトーヨーカ堂(東京都)が2015年からダークストアを展開している。東京都荒川区にある「ネットスーパー西日暮里店」では、店頭起点型のネットスーパーの1日当たり受注件数が400件であるのに対し、1日最大2000件を受注できるという(筆者取材当時、現在は受注件数がさらに増えている可能性もある)。配送範囲も、店舗を中心とした近隣地域だけでなく、より広域となっている。

ダークストア型ネットスーパーが続々

 ダークストアがあることにより、ネットスーパーを展開する自社店舗を補完する役割も期待できる。今後は集客力がない不採算店をダークストアに転換して活用することも考えられるだろう。

 米アマゾンでは傘下の食品スーパー、ホールフーズの既存店をダークストア化したり、カリフォルニア州ロサンゼルス郊外でオープン予定だった食品スーパーの新業態店を一時的にダークストアとして稼働したりするなどの動きが観測されている。

 一方、国内小売最大手のイオン(千葉県)は2021年から英ネットスーパー大手、オカドと協業したネットスーパーを本格展開する。オカドのネットスーパーは店頭起点型ではなく、店舗を持たない倉庫型のサービスだ。イオンではオカドとの提携を契機に、2030年をめどにネットスーパー事業の売上高を6000億円に引き上げる構想を打ち出している。

 ダークストアは実店舗が不要であり、既存のプレイヤー以外の異業種からの参入も想定される。「いつの間にかダークストアに実店舗の売上高を奪われていた」という事態にもなりかねない。今のうちからダークストア活用、ダークストア対策を考えておく必要がありそうだ。